第30話 ユーリアが下す断罪
「裏切り者は××××××。」
テオドールからリステアード侯爵への文にはそう書かれていた。
―――――――――――――――――――――――
「だから、わたくしは王位に興味がないと言っているでしょう!」
「ユーリア、王女としての最高の栄誉である女王になる機会なのよ…………」
こちらは王城の謁見の間。
中核都市ギャスケットから帰ってきたユーリア王女。
その母であり、王の姉であるセリア王姉。
ユーリア王女の父方の叔父である宰相。
――の三名がいた。
「王女殿下こそが女王にふさわしい。
何がそんなに嫌なのです?
それとも何か心配でも?」
宰相も母に当然賛成のようだった。
自分のさらなる地位の向上にしか興味がない宰相のことだ。わかり切っている。
(強欲な人…………)
「お母様と宰相の叔父様は、私を王位につかせたいのでしょうけど、わたくしは嫌だと言っているのよ。
人の人生を勝手に決めないでくれるかしら?」
「ゆ、ユーリア、これは貴女のために……」
「嘘ばっかりですわね。
お母様は 王の叔父様 の姉なのに、女だからという理由で王位につけなかったことを悔しく思っているだけですわよね?
だからといって、それを娘の私に押し付けないでくれます?」
眼の前にいる母の顔が青ざめる。
「はっきり言って、迷惑でしてよ。」
母親をさげすんだような目で見るユーリア。
そのユーリアに宰相は食って掛かった。
「王女殿下!いくら殿下とはいえ、実の母君にそのようなことをっ!
それにせっかくの栄誉を無駄にするなど!」
「宰相、あなたは見栄
図星だったのか、何も言えないようだ。
だが、ユーリアはここで終わらせたりしない。
釘をさしておくつもりだ。
「この国は、男尊女卑の文化がいまだ残っている。
ゆえに、お母さまが王位を告げなかった――――王位継承のことについては少しは同情しますわ。」
「え?」
『ついにわかってくれたのね。』というように、ぱあっと顔を輝かせた母には悪いが、何を勘違いしているのだろうか。
「ですが、努力すらしていなかったお母さまも悪いのでは?
努力すらしていない人間が、何かのせいにして逃げるって、やっぱりお母さまは王の器ではなかったことの証拠でしてよ。」
母と自分の乳母からの話で、母がろくに帝王学を学ぼうとしなかったことも、そして成績不振だったのこともユーリアは知っている。
それどころか、王の叔父様を陥れることばかりしていたことも。
(できなかった事を何かのせいにしていいのは、努力を死ぬほど重ねたけどできなかった人か、本人の努力が関係ないような不幸に巻き込まれた人だけですわ。)
それでも、その不幸に抗おうとしている人達をユーリアは知っている。
――――テオドールお兄様と友人のエリシアだ。
ユーリアは努力せずとも、昔からなんでもできた。
魔法も、剣術も、学問も。
神童だと言われてきた。
周りの人間は、そんなユーリアを褒め称え、お世辞を言う人たちだらけだった。
(そのおかげで、自身の性格が
だからこそ、努力だけで自分を超えたテオドールお兄様や、成果が出なくても努力を重ねるエリシア――――この二人が眩しかった。
そして、二人だけは、私を神童じゃなくて普通の女の子として接してくれた。
きちんと、私の気持ちを汲み取って助けてくれた。
エリシアはいつも自分が出来損ないだって、自分に自信がないけど、あの子には何度救われたことか。
(だから、今度は私が二人を助けるの…………。)
「ねえ、お母さまと宰相。
この1か月、わたしが本当にギャスケットで外遊してきただけだと思いますの?」
二人の目が泳ぐ。
(やはり……黒か)
懐からあるものを取り出す。
ユーリアがギャスケットで苦労して手に入れたものだ。
(本当に、この人たちには反吐が出るわ…………)
「これはあなた方が、反乱軍に情報を売ったという事の証拠ですわ。
軍事情報とエリシアの過去の情報を売って、テオドールお兄様とエリシアを陥れようとでも考えましたの?
…………国を担う者としての恥を知りなさい。」
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裏切り者は、本当にセリア王姉と宰相なのか??
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