第26話 救い


 (助けが、助けが来てくれた!)


 鉄格子ごしに、赤い旗と軍が見える。

 制圧軍とは別に、エリシアを救出してくれる軍隊。


 赤いその旗はリステアード家の家紋で、軍はリステアード家の私兵の装いをしていた。

 

 

 (良かった………………希望はあったんだ…………)

 


 「けど、助けてもらってばかりでは気が済まないわ!」


  急に立ち直ったエリシア。

 

 軍に、自分の居場所がわかりやすいように、廊下側に立っている兵の目を盗んで窓の鉄格子に赤い布を巻き付ける。

 

 そしてエリシアは机に向かってとあることをゴソゴソとし始めた。



 ―――――――――――――――――――――――



「――東の森から北のダム横を通って、砦をおとす。

 奇襲隊は列を組め!」



 奇襲隊は動き出した。


 地上の北の砦からの攻撃作戦はテオドールの軍が、そして地下から城内に上がる作戦は、ライウスの軍が受け持つ。


 本来はライウスが地上戦を担当するはずが、なぜか直前で入れ替わった。


 侯爵は本陣で敵の目をひくためにこちらに残っている。



 奇襲は時間との勝負、そして敵に気づかれたら負けだ。――――と侯爵は思う。




 ライウスの軍は地下なので様子は分からないが、テオドール殿下の軍はこちらからだと様子がところどころわかる。



 ――――今はちょうど森を抜けて、ダムの横を通り過ぎようとしているのだろうか。


 なぜか無性に嫌な予感がする。

 何事も無ければいいが…………。




 


 一方、こちらはエリシア。


 朝日が昇ってから、日が沈みかけている今まで何かをずっとしていたようだった。

  

 相変わらず監獄の部屋の中にいるのは変わらないのだが、何やら何かを完成させたようで、ニコニコとしている。



「やっと刺繍が完成したわ!」


 部屋の見張りには刺繍と言って、エリシアがドレスの端に縫っていたのは…………前に軽く脱走した際に覚えた城の中の構造だった。



 ドレスの端に刺繍が終わると、見張りの目を盗んでそこだけハンカチサイズに破り取り、ポケットに入れる。



(あとは、これを味方の兵にいつ渡すか…………ね)



 場内の構造を知っているか知らないかで戦局は大きく変わる。


 ――――王太子妃教育で得た知識だった。



味方の制圧軍の動きを見ようと、窓から外を覗く。


 もう外はうす暗いが、まだ少し空は赤く染まっていた。



 エリシアのいる塔からは100メートル近く離れているが、大きなダムとその堤防、そしてその堤防2つに挟まれた平野が見える。そして、その平野を動く影――――



 (奇襲でもかけるのかしら………………けど、あんな丸見えで?…………)



 奇襲をかけるなら、隠れて、もしくは隠密魔法を兵全体にかけて動くはずだ………………。




 (何かがおかしい…………)



 そして、兵が森と北の砦のちょうど真ん中あたりを通過した時…………



 制圧軍の奇襲兵たちに向かって、反乱軍からの攻撃が始まったようだった。


 (やっぱり、バレてる…………)



 雨のような矢が大量に彼らに降り注ぎ、次々と倒れていく兵を見てエリシアは呆然としてしまった。


 


 しばらく経って、突然攻撃が止んだ。


 そして、逆に突然攻撃が止んだのを見て、制圧軍の兵が慌てだし始めた。


 (なんで急に攻撃を止めたの…………?)




 


『ズズ、ズ、ドオーーー』


 突然、大きな音をたてて、ダムの堤防が土煙をあげながら崩れ落ちていった…………


 反乱軍が故意に堤防を崩したのだろう。 


 制圧軍は、ダムの堤防に囲まれた少し開けた平野にいた。

 故に、両側のダムの堤防が破壊されたら…………どうなることかは、言わずもがな…………わかるだろう。



 (だ、だめ!!水に飲み込まれて、みんな死んでしまうわ!!!)



 もと来た森の方へ駆け出す制圧兵たち、その中の一人と目が…………合った。




『え? テオドール殿下…………?!』



 


 一瞬、時がとまったかのようだった。



 エリシアと目があったからなのか、テオドールの目も大きく見開かれる。




 (どうして………………)



 

 しかし、今にもテオドールを飲み込もうとする大きな波が、意識を現実に引き戻す。



「やめて!」



 その時、エリシアの脳裏で誰かがささやく。

 顔が見えそうで見えない誰かが――――。

 

 今こそ……………………するときだと。




 

 そこからは夢中で叫んでいた。



 

スピリトゥス天よ守護せよ!」



 



 


 


 

 

 


 

 



 


 




  


 



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