第25話 絶望と

 『首謀者は、7年前まだ19のガキだったテオドール=リジウム=アシュタリス。

 この国の王太子で、お前の元婚約者だ。』



 あの男の話が耳にこびりつく。


 あの男は一通りの話が終わったからなのか、それとも自軍の戦況が有利そうになったからなのか、エリシアをさらに警備体制を強くした元の塔の上の監獄に戻した。


 

(あの男はどんな理由があろうと、犯罪者…………できれば信じたくない話だが……)


 「いろいろと筋が通り過ぎている…………。」



 男の話が正しいのであれば、エリシアは本来死んでいなければならない人間だ。

 そこにはどんな理由があるのかは知らないが、王族が殺そうとした人物であるという事は、すなわちそういうことである。



(つまり、この真相を王族や世間一般に知られてはならない……が、果たしてあのテオドール殿下が知らないなんてあり得るのだろうか……)



 ルーベルティア、リステアード家、王族――――


 あまりにもエリシアの手におえる話ではない。




 エリシアが思考を放棄して数日たった頃、ベルティア城周辺の戦況はより一層激しくなった。


 それに、攫われてそろそろ二週間近くが経つ。


 夜通し血なまぐさい戦いを窓から見続け、気が少し狂いそうになってきた。

 これが、『自分の存在そのもの』のせいでおきたのではないかと常に心の中で思うからであある。

 



(私は、無力だ。)


 おそらくこの反乱は自分に関することなのに、自分では何もできない。

 身体能力だけが取り柄だとしても、この大勢の大人の男性には歯が立たないし、魔法にも対抗できない。


 いつも、私は他人からの助けを待つだけだ。


 

 その助けだって、今回は期待できないが。

制圧軍は、反乱の制圧が目的なのであって、エリシアを助けてくれるわけではないだろう。

 


 思い返せば、エリシアはただの侯爵令嬢なのに、普通の一令嬢にしては幼いころからよく襲われたり、攫われかけたりと危険な目にあうことが異常に多かった。


 そのたびに主に兄、そして姉が助けてくれていた。


 昔はあまり気にしていなかったが、よく考えると、この自分の過去のせいだったのかもしれない。

 


 「家族にはずいぶんと迷惑をかけてしまっていたのね…………。(それも本当の家族じゃないかもしれないのに)」


 「…………テオドール殿下も、当然私を捨てるわけだわ。

 私は魔法が使えない出来損ない。

 そのうえ、殺そうとしてた相手だったなんて。」


 





 そうやっていろいろと考え、絶望に陥りかけたその時。

 鉄格子の嵌った窓から、朝日とともに、見えた真っ赤な旗は――――。




 ――――――――――――――――――――――


 

 「殿下、来なくてもよろしかったのですが。なぜ、わざわざ来られたのですかな? 」


 「はっ、なにを言っているのかな侯爵。」



 戦場だというのに、嫌味を言い合う二人。

 ここは、制圧軍本陣の作戦計画場である。


 

 「まあ、戦場では猫の手でも借りたいと言うので、殿下でもいないよりはマシですが。」


 「…………ついに老いぼれましたか、侯爵。引退するのであれば、いますぐすることを勧めましょう。」


 「老いぼれてもなお、若造よりかは使えるかと。それに、引退すべきなのは貴殿の老いぼれ父王ではないのか?」



 


 

 「父上、大人げないのでやめてください……。それより殿下、今夜の奇襲作戦ですが、ここの北の砦から進むのが良いでしょう。」


テオドールに食って掛かる侯爵を宥めるライウスは優秀だ。


 「ああ、助かる。

だが、そこはダムの防波堤に挟まれた場所を通らねばならないから、危険性があるのではないか?

もしものために、瞬時に水に対する大型の防壁魔法は展開できそうか?」


 「それであれば、魔法兵マルスが適正かと。新人ですが、私が監督すれば全く問題ありません。」


「同時に進める地下からの侵入作戦はわたし自ら指揮をとる。そちらは任せる。」


「ええ、あの作戦は、殿下の魔法なしでは成功しませんから。こちらはお任せください。」




 奇襲は今夜。

 エリシアは必ず救出する。







 

 

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