第14話 (回想3)???視点 幸せな日々を夢みて


次回から本編に戻ります。


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「姫様! こちらの作成案ですが数値的にみて……」

「姫様! 川沿いの堤防の修繕費を村長がせしめたと……」

「姫様! 次の建国祭での演説ですが、問題が……」




 こうやって、公務をろくにこなさない両親や一族に代わって、幼いにも関わらず、少女は毎日膨大な仕事をこなしていた。


 年相応の遊びや行動を制限され、ただ一人で公務をこなす姿は領民から尊敬され、愛されていた。




 だが、少女からは笑顔が消えていった。





 ―――物心ついたときから、ほとんど顔を合わせず、ろくに口を聞いたこともない両親と兄。


 そこからくる、誰かに愛されたいという欲求不満。



 ―――ろくでもない大人たちに代わって公務をこなすという重荷。

 ――― 一族の大人たちでは頼りにならないことからきた、民から少女への過度な期待。


 それらからくる、自分は完璧でないといけないという思い。




そのすべてが、少女の心を蝕んでいっていた。



 だから、誰かに早くこの日常を壊してほしかった。


しんどい。しんどい。しんどい。

つらい。つらい。つらい。




――誰か、助けて――誰でもいい。









 そして、何日か経ち、そろそろ心も体も限界に近づいたところで、ただ一人の兄妹である兄に、公務を手伝ってほしいと頼んだことがあった。




「お願いします。公務をどうか、手伝っていただけませんか?

 貴方は、私のお兄上ではありませんか?!

血が繋がっている家族、妹の私を大切に思ってくれているのであれば……」


「……チッ! 悪いが手伝えない。勝手にやってくれ。それから、……どうでもいいことで、手を煩わすな。邪魔だ。」


と、足で軽く少女を蹴飛ばして去っていった。

心底、少女のことなど、どうでもいいようだった。



「……兄上ですら、私のことが大切でないの?

 どうして?

 私がもっともっと努力すれば、

 認めてもらえる?

 愛してくれる?

 気にかけてくれる?……」




 そうやって、うつむいてつぶやく少女の前にいつの間にか、建国祭の最中だからここに滞在しているのであろう異国の金髪の年上の男性が立っていた。


 「いいや、君が何をしようが、奴らは変わらないよ。

 君の家族は、"誰も君のことなんか愛してないよ。だって、どうでもいいんだから、君のことなんて。"

 でも、君がのぞむのであれば………って、ちょっと、待ってくれ!」


 初対面で知らない人間であるにも関わらず、男は少女に現実を突きつけた。



 そうやって、現実を突きつけられた少女は思わず、涙が溢れ出てきて、話途中で駆け出した。



 ―――私はなんとなくわかっていたんだ。

この、家族の皆が自身のことなんてどうでもいいんだっていうことを。

 


 (私は誰にも愛されてない。

そして、私は一生誰にも愛されない。)









泣きはらした、その次の日の朝、自室の窓辺に、一つの箱とメッセージカードが置かれているのを少女は見た。



―――12才の誕生日おめでとう。お元気で。――


そう、一言だけ。


 誰からかなんてわからない。

家族でないということは折り紙つきだ。


それでも…………



 物心ついてから、家族から一度も誕生日祝いなどもらったことのない少女は、それだけで心がふわふわした。


(昨日、あれほど絶望しても、私にはまだ喜ぶことができる……)

 



 そういえば、今日は自分の誕生日だった。


 少女は、名も姿も知らない、プレゼントの送り主に思いを馳せて、床についた。





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