第15話 これは誘拐ですね
夢を見ていた……
「だから、上に立つべき方々は民のためを思い、寄り添うことが求められるんだよ、シア。」
家族みなで、ゆるく勉強しながら団欒する昔の夢。
「あなた、シアには難しいわ。」とエリシアの口にクッキーを放り込むきれいな母。
「そうかい? 私たちの子供は賢いから大丈夫さ。」と笑う父。
二人は、娘のエリシアからみても、仲のよいオシドリ夫婦だ。
侯爵の父は、母とは政略結婚だが、お互いのことをお互いが思いあっている。
そして、教育熱心でもある。
「それで、なんか聞きたいことはあるかい? おっ、アイリスどうしたんだい?」
「ねえ、お父様、民を大事にしなかったら、アイリス殺されちゃう?……ルーベルティアみたいになっちゃう?」
表情が固まる両親。
「るーべるてぃあ?」
「かつては、王都よりも大きい、この国で一番大きい都市であったルーベルティアというところが存在したんだ。」とお兄様。
「今はないの?」
「数年前の事件後、無法地帯になっているよ。
統率も取れていないし、もう都市とは言えないだろうね。
そこを治めていた公爵一族は、守るべき民を虐げたため、怒った民に殺されてしまったんだ。公爵一族全員。」
気のせいか、両親の顔色が悪い。
この国の地図で、誰も治めていないという地域をぼーっと見つめた。
たしかにこの国の面積の半分近くを占める広大な場所だ。
キーー、ガッチャン…
「 王太子殿下……こんなところへどうしてお越しに?」
「シアが何をしているのかなって。」
テオドールは手土産を持って、エリシアにニッコリと笑いかけた。
この頃のテオドール殿下はとても優しく、エリシアの憧れでもあった。
暖かな家族、優しい婚約者――
(楽しかった……な……)
――――――――――――――――――
ポツン……ポトン……
微かに水音がする。たしか、今日は小雨が降っていた。
「……はぁ…、息苦しい。」
真っ暗で何も見えないが、手の感覚的に、四方を木の板で囲まれているみたいだ。
(あれ? しかも私自身は寝転がっている…?
と、ということは……)
エリシアは狭い棺桶みたいな形をした木の箱に閉じ込められていた。
しかも、揺れ方的に、馬車の上に乗せられているのだろうと推測する。
(全く……私は死人じゃないんだから…)
誘拐されたこと自体、いまいち実感がない。
ついさっき意識が目覚め、棺桶みたいなこの箱にいることに気がついただけなので、攫った奴らの顔も姿も見ていない。
(相当な手練れがいるのかも……
でも、殺すのではなく、攫ってきたからには何かしらの理由があるはず。
しばらくの間は奴らも私を殺せない。)
耳を澄ませて見るが、外の音は馬車の振動と馬が土を蹴る音しか聞こえない。
敵は近くにはいないのかもしれない。
(よしっ! 脱出しよう!)
助けを待とうという選択肢が頭にないエリシア。
さっそく木の箱を開けようと、腕を天井にあげ、攻撃にかかるが……
(あれ?開かない? なんで?!)
エリシアの高い身体能力を持ってしても、たかだか木の箱が開かないというのはおかしい……
やがて、馬車が止まり、エリシアが入った木の箱が運ばれだされる。
エリシアは諦めてなのか、おとなしく横たわっていた……否、脱出方法と連絡手段を必死に考えていた。
長いこと運ばれ、どこかの床に置かれたのか、揺れがとまった。
かすかに人の声がしており、反響しているから、どこかの室内なんだろうか。
だんだんと、人の声が近く、そして大きくなる。
エリシアはやっぱりもう一度逃げようと、脱出を試みて気が付いた。
自身が、舞踏会で着ていたドレスとは違う、見知らぬ衣装を身に着けていることに。
さらに人の声はもうすぐそこまで迫ってきていた。
混乱の中、木の箱が開かれた。
「――――――」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます