第7話 はらわたが煮えくり返りそうだ
婚約者候補となった数人の男達の詳細の書かれた紙と絵を持って帰りなさいと、お姉様に言われ、しぶしぶ部屋にめんどくさいのに持って帰った。
そんなものを見る気もしなかったので、机の上にそれらを放置していた。
(誰もかも、身長、学歴、爵位…………の自慢話をこぞって競うようにしか書いていないのに、誰が読みたいんだろうか…………)
(もちろん婚約者の条件に、生きていくための最低限の収入や、私だって貴族だから爵位もある程度必要なのはわかる。
だけど、それだけじゃ、自分の未来が見えてこない。自分がそういう収入や爵位だけを追い続けるだけの人間に混ざってしまうと、自分が消えてしまいそうで…………
そして寂しくて…………)
「……誰かに愛されたい……」
その独り言は、部屋にポツンと消えていった。
エリシアの部屋は、海側の崖に面している部屋だ。
気分を変えようとベランダの窓を開けると、冷たい潮風が入ってきて気持ちがいい…………
新たな婚約者が決まりそうだというのに、エリシアの心はなぜか晴れなかった。
「大丈夫、きっと今度の婚約者は私に興味を持ってくれて、そして(愛してくれるはず……)」
そう、星に願うだけだった。
そうして夜が更けて、屋敷の皆が寝静まったころ、エリシアの部屋に射し込む月明かりに影がうつった。
音も立てず、鍵のかかっていたベランダの窓から一人の男が忍び入ってくる。
エリシアは少し寝相悪くも、爆睡していたので何も気が付かない。
「――――――」
男はエリシアに毛布をかけ直し、エリシアが口にうっかり咥えていた髪の毛を、エリシアが起きないようにそっと取り外す。
踵を返したところで、机の上にある、絵や文書に目がとまった。
(はらわたが煮えくりかえりそうだ……)
男は、絵や文書に手をかざして、音もなく、青い炎でそれらを跡形もなくなく消し去った。
当のエリシアは眠り込んでいる……が、どこか苦しそうだ。
どうやら悪夢でも見ているらしい。
「…………ど……どぅし……て…………」
「…………やめ……て……殺さ……ないで…………」
「…………………………もう、殺し……て…………」
ずいぶんと寝言で叫んでいる…………見ているこっちもつらいぐらいだ……
「…………すまない」
自分はすぐ、また出かけなければならない。
ーー―エリシアのために
男はエリシアの手に熊のぬいぐるみを握らせてから、夜の空に飛び去っていった。
「ああ、後一仕事しなくてはならないな…………」
リステアード城の塔の時計は、ちょうど夜中の2時を指していた。
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