第6話 新たな婚約の申し込み?
「エリシア嬢、無事ですか? 賊に襲われたと聞きましたが、怪我などは……? 」
エリシアのもとに駆け寄ってきたテオドールが話しかけてくる。
(なぜ、ここに……?)
……さっきまで、王城にいなかったのに、今更あらわれて、何なのかと聞きたかったが……
「無事です。賊はそこに倒れています。」
「倒れてるじゃない、エリシアが倒したんだ……」
お兄様、余計なことを……
「エリシア嬢が?」
「ああ、妹が体術で全部倒しましたよ、殿下。」
「そうか……」
「それにしても、殿下、遅かったですわね。婚約者の一大事に何をなさっていたのでして? あら、違いましたわ。今となっては、元婚約者だから、妹のことはどうでもいいと?」
「それは……ち……」
「殿下! 例の件で動きが!」
テオドールが言い淀んでいるその時、幾人かの、テオドールを追ってきたと見られる、彼の部下たちが慌ててやってきた。
「やはり、殿下の推測通りかと、それで……」
「エリシア嬢や、他の方々の前で話す内容じゃない。行こう」
(ここで、テオドールを逃すと、多分、婚約解消の話をそらされる……!) そんな予感がした。
「待って!」
立ち去ろうとするテオドールの腕を掴む……
お願い…振り向いてと。
勢いよくひきとめたせいで、振り向いたテオドールとお互いの顔がぶつかりそうなほど、エリシアはテオドールに今までにないくらい近づいていた。
自分の顔から、ほんの数センチしか離れてないテオドールの目が大きく開かれるのを見て、われに返った。
(男性の腕を掴むなんて、淑女としてあるまじき姿。しかも、もう婚約者ですらない男性の…………なんて、なおさら破廉恥だわ!)
パッと手を離し、姿勢を整える。
「テオドール殿下、なぜ婚約破…………」
ちょうど雲が日にかかり、あたりが少し暗くなる。
エリシアはテオドールの顔と目を見て、なぜか、聞いてはいけない気がした。
エリシアの姿だけをうつす奈落の底のような目。
…………光の加減でそう見えただけかもしれないが。
―目は口ほどにものをいう―
「ではまた、…………エリシア嬢」
騎士服を翻し、こちらを一目も見ずに、さっそうとテオドールは歩き去っていく。
呆然とするエリシアは、いつの間にか、テオドールの背中を見失っていた。
呆然と森から帰った次の朝
「お嬢様! 全く酷いですね、王太子殿下は……。
王城にお嬢様が伺ったときは、いなかったくせに、森では急にあらわれるなんて……。
というか、お嬢様が物事を片付けたあとにやってきて、今更何をしにきたんでしょうね、あのヘタレ王太子!」
「…………そうね。」
なぜ、テオドールが
エリシアには、さっぱりわからない。
そして、テオドールの奈落の底を写し込んだようなあの瞳を見てから、自分がなぜか落ち込んでるようであるのも解せない。
「ほんと、テオドール様は何がしたがったんでしょうね?」
―――しかし、エリシアは忘れている。
自分が倒した男たちがどうなったのか、男たちと戦ったときの自分の腕の傷がなぜか跡形もなく消えていることを。
――――――――――――
「婚約の申し込み?」
目の前には、山のような封筒や書簡の束が机に載せられている。
「ああ、今朝方、なぜかエリシア宛にこんなに届いたんだ…………」
(おかしい…………私が王太子殿下に婚約破棄されたことはまだ正式に発表されていないはず……)
「エリシア、この中から選ぶかい?
来週の成人の儀では、婚約者を連れて行かなければならないだろ?」
(多分、お兄様が気を回してくれたんだろう)
「そうします。」
「エリシア! この男とかどうか?」
「あら、お兄様! 見る目がないですわ! この男は問題があって…………妹をこんな男で不幸にするつもりですか?!」
ついにはお姉様まで加わって私の婚約者定めをしていた。
しかし、元とはいえ、元婚約者はエリシアに対する態度以外は、他と比べることができないくらい完璧。
よって、新たな婚約者のハードルはかなり高く、なかなか決まらない。
ようやく何人かの候補に絞れた頃には夜になっていた。
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