第5話 テオドール
(お姉様が…………!)
「
お兄様が私から手を離した隙に、唱える。
…………が、私は魔法が大の苦手だ。竜巻で男たちを吹き飛ばすつもりが、ただのそよ風を起こしただけ。
しかし、男達が(私の魔法が低レベルすぎた為) 何が起こったのか分からず、呆然としている間に私はお姉様を馬車の奥のお兄様のもとに突き飛ばした。
「シア!」
お兄様がお姉様を無事キャッチしたのを見届け
ふわりと舞い上がり、得意の体術で男達をまとめてかるく蹴飛ばし、ついでに外から馬車に鍵をかける。鍵魔法だけはお得意のものだ。
「この女! ふざけんなっ! 殺してやる!」
頬に、私のヒールの形がくっきり残った顔を歪めた男がこちらに向かってくる。
刃先が光る。
避けようとすれば、避けれる刀筋だが、
“森で、この角度で刀が振り上げられる”―その光景が何かの記憶に重なって動けなかった。
ああ、まただ。
あれ?何が “また“なのだろうか…………
忘れた記憶の断片の鍵がはまりそうな音が……
「……やめろ。」
賊のひとりが口を開いた。
「エリシア=リステアードは薄桜色の髪だと聞いた。」
男達の目が私に集まる。
「わざわざ、自分から出で来てくれたってことか。つまり、さっきのは偽物か。騙されるとこだったぜ……あぶねぇあぶねぇ」
馬車の中からドンドンドンと音がする。あらかた、お姉様が馬車でも叩いているのだろう。鍵魔法はかけるのはすぐだが、外すのには時間がかかる。
(まずい。非常にまずい。男は3人、何人も殺してきたかのような武器持ち。それに比べてこちらは丸腰のうえ、重たく動きにくいドレス付き。)
「さぁ、行くぞ!女!」
乱暴に掴まれた腕を勢いよく振り払って距離を取る。
「逃がすか! 捕まえろ。」
ドレスの裾を翻し、戦闘体勢をとる。
男たちが振り下ろす腕が、男が呪文を唱えるのが、やたらとスローモーションのように見えた。
「 シス・トリタニア 蔦の束縛!」
…………遅い!
エリシアは自身に絡まろうとする魔法の蔦を避けていく。
魔法に勝つ、体術。
それが簡単な鍵魔法以外、魔法がからっきしなエリシアの生き残る手段だった。
右に打ち込む……下…………後ろに退避……続いて攻めて左…………
「シェス・トリタニア《精霊術》 風刀!」
見えない刃物が自身に向かって来ているのがわかる。
もちろん全力で避けたが、避けきれなかった。
(痛っ! ちょっと腕を切ってしまった。)
そう、体術で生き延びてきたからこそ、体術だけでは限界があることもまたエリシアは知っている。
短時間で終らせなければ、体術では魔法に勝てないのだが。
「まずいわね……」
( この程度の男たちなら、うっかり本当に殺してしまいそうだから、まずいわ。)
エリシアには、賊の武器持ちの男三人が相手なんて、重いドレスなんていうハンデがあっても、勝つには造作もない。
そうして、目の前の
――――――――――――
「はぁ~!」
目の前には転がった死体……ではなく、半殺し状態の男たちが転がっている。
「「シア!」」
ようやく鍵魔法を解いたお兄様たちが馬車から転がり出てきた。
「あー、言わずもがな…………殺してると思った……」
「まだ殺してません!」
「どっちでも同じでしてよ!」
お兄様も、お姉様も、私をなんだと思っているのでしょうか…………
「お父様、お母様、ついに妹が人殺しを……」
お兄様、ついに空に向かって喋りだす始末……
『ガサッ』
もしや、まだ賊が残っているのかと振り向き、構えたのだが…………
「エリシア……」
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