オホンヌの街に凱旋

「ハールトお~。おかえり~!。」

 

 オホンヌの街を歩いていると、おれをみつけたユミがチラリとこちらをみて、少し時が止まったかのような空気が流れる間の後に、飛びついてきた。

 

 ユミの柔らかい肉体と甘い香りに、少し眩暈がする。

 

 「ただいま。」

 

 おれは、ユミと目を合わせた。

 綺麗な黒い瞳だ。

 

 「かっこよかったわよ。配信でみてた。」

 

 ユミは、おれをじっとみて、褒めた。

 

 「どうしたの?浮かない顔して。」

 

 ユミをおれの顔をみて、眉を少し顰めた。

 戦争のことを思い出して、少し厭気が差したのだ。

 殆どは自動で動く兵器だったが、中には人が乗っている機体もあった。

 おれは人を―、殺したのだ。

 褒められていいものじゃない、かっこよくもない。

 

 「戦争はもう厭だ。」

 

 「あ、ごめん。でも、仕方なかったのよ、ハルトはよくやったわ。」

 

 ユミは、おれを優しく抱きしめた。

 母のように。

 

 「ありがとう。」

 

 おれは、ユミの胸に顔をうずくめた。

 情けない男だ。

 

 ユミは満足そうに、頬を緩める。

 

 「お兄ちゃ~ん。」

 

 ハルカ!?

 妹だ。

 どうしたわけか、妹がオホンヌに来ている。

 

 「どうしてここに?。」

 

 おれは、驚きを内心に隠しきれず、少しの驚嘆と、喜び、心配の入り混じった複雑な心情で、妹をみた。

 妹と目が合うと、にこりと彼女は笑った。

 かわいい。

 

 「お兄ちゃんが心配だからだよお。生きててよかったよお。大好きお兄ちゃん。」

 

 妹はおれに抱き着くと、身体を擦り付けてきた。

 ようわからんが、懐いているのだろう。

 昔から妹は、おれに身体を擦り付ける癖がある。

 

 「なにしてんの、あんた?。」

 

 ヒメカは、おれと妹の美しい身体すりすりをみて、呆れた様子で、ジト目になって、みつめた。

 

 「あ、どうも。ハルトの妹です、ハルカっていいます。えへへ。」


 ハルカはヒメカをみて、少し改まった様子で、挨拶した。

 緊張しているのだろうか、どこかぎこちない。

 

 「みてたらわかるわよ。かわいい妹さんがいてよかったわね。」

 

 ヒメカはおれを横目でみて、どこかあざ笑うように、口角を上げた。

 

 「よろしくね、ハルカちゃん。」

 

 ヒメカは、ハルカに手を差し伸べた。

 2人は軽く握手し合った。

 

 「そうだ、ハルト、明後日、世界会議に出席することが決まったわ、あんたも来てよね。」

 

 世界会議、もう日にちが決まったのか。

 はやいな。

 明後日の会議が、オホ国の命運を決めることになるというわけか。

 

 ヒメカは、紺色のジャンバーに赤い手袋に青いマフラーを付けている。

 冬の寒さで、白い息が出ている。

 顔が少し赤い。

 

 「わかった、行くよ。」

 

 おれはヒメカに少し近づいた。

 ヒメカは細い、こんなに小さくて細くて、儚い女の子が、オホ国を変えてしまい、

世界を変えてしまうなんて。

 まだ、20歳になるかならないかの、こんな若い女が、国を建て直し、戦争を指揮したのだ。

 

 おまえはやっぱりすごいよヒメカ。

 雲の上の存在に思える。

 こんなに近くにいるのに。

 

 「場所は?。」

 

 おれは、世界会議が行われる場所が気になってきいた。

 

 「オホンヌよ。」

 

 ヒメカは、誇らしげに、オホンヌ街の空気を吸って手を広げた。

 今、世界で一番熱い街と言われている。

 地価は急激に増加している、といってもすべてはヒメカの所有物だ。

 厳密にはオホンヌはユキテクノロジカが所有している。

 住みたいといった人を厳正し審査し、土地代を0にして住まわせているのだ。

 

 つい1月ほど前、オホンヌ国際空港と、オホンヌ議事堂が出来た。

 丁度、奇跡的なタイミングだったのかも知れない。

 オホンヌで世界会議をするには、うってつけの場所とインフラが整っているのだ。

 

 「ヒメカ様~!。」

 「我らが神よ。ヒメカ様万歳。オホ国に幸あれ。」

 「幸あれ。」

 「ヒメカ様へ敬礼。」 

 オホンヌの街を歩いていると、ヒメカを祀る神社が多くなったなあと改めて感じられる。

 ヒメカ教という宗教もできて、ヒメカは本当に神になろうとしていた。

 

 ヒメカ人気は凄まじく、オホンヌでヒメカを知らぬものは殆どいないだろう。

 世界中からも人気がある。

 敵国の国民からも一部熱狂的な信者がいる。

 ヒメカ教は、ヒメカに多大な寄付をしている。

 ヒメカ教への寄付金はすべてヒメカに渡され、ユキテクノロジカの研究開発や、オホンヌ発展のための開発費用に使われている。

 

 ヒメカ教は、社会のインフラの一つになりつつあった。

 ヒメカの像がいたるところにある。

 ヒメカの写真や動画が出回り、街中で、利用されている。

 

 どこまで人気になれば気が住むんだこの女は。

 熱狂ぶりは凄かった。

 

 ヒメカ教の中では、おれも重要人物らしい。

 よくわからんが、ヒメカ様の右腕と呼ばれている。

 時々、おれの像やグッズ、お守りまでみかけるようになった。

 奇妙な感覚だ。

 ご利益があるらしい。

 軍神ハルトのお守りとかいうのは、人気商品らしい。

 

 軍神?

 バカらしいと思った。

 カナちゃんに至っては、大天使様だということで途轍もなく人気だし、ユキは大賢者、知恵の神として奉られている。

 おかしな話だ。

 

 けれど、人々は熱心に信じていた。

 感謝していた。

 おれは、バカらしいと思いながらも、それを否定してはダメだと思った。

 ヒメカどころかおれまで神になってしまっているが、神になっているじぶんはじぶんとは違う、存在に思えた。

 じぶんでいながらじぶんではない偶像であり、嘘であり、人々の描く理想なのだ。

 

 

 

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