第二次オホンヌ大戦争

 首長になったが、特にすることはなかった。

 優秀な周りの人たちが、書類やら予算、会計、議案、手取り足取りやってくれた。

 おれは置物みたいなものだった。

 いればいいらしい。

 おかしな話だ。

 

 そんなわけで、大事な会議とかがない限りは、おれの代理みたいなのが仕事をして、おれはヒメカについていた。

 いつも通り、ヒメカと時間を共にしている。

 

 オホンヌに税金が入り、公共事業がより、大規模になっていった。

 水道が通り、ガスが通り、電柱が立ち並んでいる。

 地下鉄も復旧しはじめた。

 人口も5万人に達していた。

 

 「平和だなあ。」

 

 おれは呟いて、空を見上げた。

 真っ青で曇りない空だった。

 

 「雪か。」

 

 音もなく、トントンと雪が空から落ちて来た。

 もう冬だ。

 ヒメカと出会ってから、もうすぐ2年が経過しようとしている。

 あと3ヵ月もすれば、5月だ。


 おれは、高校を未だに卒業できていない。

 どうにか、通信で授業日数を取れるように、特別にあれこれ無理を頼んで配慮して貰ったが、時間がなく、留年だ。

 高校を留年するなんておかしな話だが、事実おれは高校に5年通っていることになっている。

 1年ほど休学しているが。

 一応まだ高校生だ。

 もうすぐ20歳なのに―。


 大した能力があるわけでもないのに、首長ってことになってる。

 肩書だけが前歩きして、おれじしんは空っぽだった。

 

 ヒメカはというとちゃっかり高校を卒業してしまった。

 要領がいいのだろう。

 いつそんな時間があるのかわからんが、通信で卒業できたらしい。

 大学には進学しなかった。

 大学に通っている時間がないからだ。

 

 オホンヌの街にも学校が出来た。

 小学校、中学校、高校、大学、専門学校まである。

 

 家庭持ちの人も増えてきた。

 子供がいるのだ。

 オホンヌを選んで移住してきてくれた人たちがいる。

 ありがたいことだ。

 そういった子供連れの家庭をみると、首長として住みやすい街を作ろうという気にもなって来る。

 ま、じぶんは殆どなんもしてないんだけどね。

 

 「寒い。」

 

 おれは、上着のポケットに手を突っ込んで、少し屈んだ。

 手がかじかんで冷たい。

 

 「ふう。もう2月か。」

 

 ピコン、ピコン、ピコン、ピコン…

 

 「ん?なんだ。」

 

 緊急アラートの音がスマホから鳴った。

 何事だ、地震か?

 あるいは…

 

 *アヘ国、アンアン国、んんっ国、ハアハア国、ええん国、うぅうゥ国、んゴお国、ニュア国の8大国家の連合軍が、オホ国を敵対国家として、総攻撃に入る模様。

 

 アラートの内容は衝撃的ものだった。

 

 「そ、そんな―。」

 

 おれは絶句した。

 

 オホンヌの街がまた灰になってしまう景色が一瞬、頭を過ぎってしまった。

 「ダメだ。」

 おれは首を横に振った。

 「違う、守らないと。」

 もう厭だ。

 

 「大変なことになりそうね。」

 

 ヒメカは、落ち着いた様子だ。

 

 「大変なことになってしまったよ、ヒメカくん。」

 

 軍部大臣のミカズチさんから電話がヒメカのもとにかかった。

 

 「すぐに、オホンヌ軍事基地まで来てくれ。君たちが中心になって、皆をまとめてくれ。」

 

 ミカズチさんは、ヒメカを頼りにしていた。

 縋りつくようだった。

 彼も、もしかしたら、ヒメカのことを、神か何かだと思っているのかも知れなかった。

 

 「わかったすぐにいくわ。」

 

 おれたちは車に乗って、オホンヌ軍事基地を目指した。

 

 オホンヌ軍事基地には、ユキテクノロジカの戦略兵器が勢ぞろいしている。

 オホ国中の軍事基地とも連絡が取れるようになっている。

 オホ国における、軍事施設の中枢機関になっている。

 

 「敵軍は海と空から500㎞近くまで近づいてきている。弾道ミサイルも4発飛んできてるらしい。」

 

 ユキは、冷静に状況を把握し、伝えた。

 巡査艦や、偵察機からの情報らしい。

 一部では交戦中の場所もあるらしい。

 オホ国の軍は、敵を蹴散らしている様子。

 ユキテクノロジカが新兵器は、凄まじく強く、敵軍に対しても、かなりのダメージを与えているのだという。

 

 敵も味方も無人機同士の戦いらしいが…。

 金も無駄使いではないだろうか。

 国民への負担を考えると胸が痛んだ。

 

 「あいつら、俺達が核兵器を所持していることを知っているはずなのに―。撃ち合いになったら世界が滅びてしまうぞ。」

 

 おれは、頭を抱えた。

 先に撃ったやつが勝つわけでもない、一度撃てば、撃ち合いとなり両方死ぬだけなのだ。

 連合軍のやつらは何を考えているのか、まったくわかったものではない。

 おれたちが核を撃たないとでも思っているのだろうか。

 撃ちたくはないが、やられたらやるだろう。

 

 もしかしたら、核なしで戦争して、おれたちを屈服させ、従わせようとしているのかも知れなかった。

 核なしという暗黙のルールの中で、おれたちをボコボコに叩いて、釘を刺しておくというわけだ。

 それに、核だけじゃない、戦略喘ぎ声兵器もある。

 戦争の形式はもうすでに大幅に変わってしまっているのだ。

 世界大戦を知るものももう、殆ど死んでしまっている。


 流石に、オホ国は力をつけすぎたのだろう、世界の大国たちも快くは思っていなかったのだ。

 この闘いを上手に切り抜けるしかない。

 

 戦略海上兵器カナロアが連合軍の敵艦隊と交戦している様子が映し出される。

 潜水機能も兼ね揃えた軍艦だ。

 砲台からミサイルが発射され、敵艦隊を海の藻屑と沈めている。

 

 航空母艦ワダツミ10隻からは、戦闘機、爆撃機、戦略空中兵器カロアナが次から次に、空中へ飛び出す。

 戦略空中兵器 カロアナだ。

 戦闘機 アベグウォ

 爆撃機 アイデ

 アイデは空中から、敵艦隊を爆撃し、殲滅していく。

 アベグウォは、敵空軍と空中戦を展開し、墜落させていく。

 ユキに作られた高性能な人工知能により操縦される無人機だ。

 敵軍も無人機だ。

 皆戦争で死ぬのが厭なのだ。

 司令官と、一部の志願兵だけが戦争で、実際に殺し合いをしている。

 なのに、戦争なんてする意味がどこにあるのだろうか。

 ゲームをみているかのような感覚なのだろう。

 

 激しい戦いだ。

 世界の覇権を巡る熾烈な殺し合い。

 オホ国が優勢だ。

 

 ユキの作った兵器が強すぎる。

 しっかりと数もある為に、物量でみても世界に引けを取らなかった。

 

 ゴゴゴゴゴゴっと突然、大きな音が鳴り響き、空が真っ黒に染まった。

 

 「来たか。戦略喘ぎ声兵器…。」

 

 ヒメカは、少し焦りの混じった笑みを浮かべた。

 

 

                

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