衛星通信、小型原子炉、核融合炉、オホンヌの首長。

 「ユキ、頼んでおいた人工衛星とロケットの製造はできた?。」

 

 工場の中。

 部品を組み立てる職人たちの姿が目に映る。

 設計図を作るもの、ディスプレイで操作するものもいる。

 パソコンを前に、プログラムを組むものもいた。

 右隣の工場では、鉄骨やパーツを切削しているらしい。

 左隣の工場では、職人たちが、鉄骨やロケットの部品を溶接している。

 

 「出来てるよ。テストもクリアしてる。」

 

 ヒメカは、おれたちを一瞥すると、歩き出した。

 

 「これだよ。」

 

 完成品のロケットがあった。

 綺麗で美しい、曲線と、金属の輝きだ。

 隙間のない、きっちりとした職人の仕事がみてとれた。

 

 「オホ国の熟練職人たちは凄いね。」

 

 ユキは、熟練の職人たちを褒め称えていた。

 オホ国は技術者や職人不足に悩まされている。

 若手が少なくなってきているのだ。

 担い手がいないと廃れていくものだ。

 

 しかし、一部の熟練工の腕前はピカ一であった。

 工業大国と呼ばれていただけのことはある。

 20代や30代で、素晴らしい技術を持っている人もいるが、数が少ない。

 

 ユキは職人たちに通常の倍以上の給料を与えた。

 危険と隣り合わせで、技術が求められる仕事だからだ。

 

 「では、打ち上げますか?人工衛星。」

 

 ユキは、腰に手を当てて、ヒメカの方を向く。

 

 「うん。打ち上げよう。」

 

 ユキは、おれたちにヘルメットを手渡した。

 

 「いちおう被っておいてくれ。」

 

 おれたちは、ヘルメットを被り、制御室と呼ばれる部屋に入った。

 中から、ロケットの様子を確認できる場所だ。

 ロケットの制御をする為に機械が、取り付けられている。 

 

 「発射5秒前 4、3、2,1―、」

 

 ビュゥゥゥンと音上げ、ブオオォォォと炎を噴射して、ロケットは垂直に勢いよく、飛んでいった。

 だんだんと加速していく。

 

 「発射成功です。」

 

 ロケットは順調に加速し、大気圏を見事に通過した。

 

 「よし成功だ。」

 

 ユキは、右手を握って喜びを噛み締めていた。

 

 「オホ国宇宙開発局の人たちにも協力して貰ったし、熱量も凄かったんだ。上手くいってよかった。」

 

 ユキは、ロケットから出たガスによってつくられた夜光雲を眺め、見守りつついった。

 

 「これからバンバン衛星を飛ばして、衛星コンステレーションを構築して、衛星インターネットを大開発しちゃうぞ。」

 

 ヒメカは、涎を垂らしながら、二ヒ二ヒと笑った。

 

 「小型原子力と核融合炉の開発はどんな感じだ、ユキ?。」

 

 ヒメカは、ユキの方をみる。

 オホ国は原子力発電所をいくらか持っているが、とある大地震で水蒸気爆発を起こしてから、否定的な考えが広がり、開発が停まっていた。

 今も、少しずつ開発は進んでいるが、原発に対して否定的なものも多い。

 放射能を出し、放射性廃棄物が残るのだから、当然といわば当然なのだ。

 

 しかし、技術の継承は絶やしてはならない。

 多少危険だが、原子力や核融合を開発し、存続していくことが、安全になるという皮肉なのだ。

 ちゃんと技術を継承し、研究することが、最大の対策になるのだ。

 

 それに、オホ国は資源に乏しい国だ、エネルギーを賄うには、原子力や核融合の技術は必須ともいえる。

 あと、再生可能エネルギーと火力、色々な発電方法を混ぜて効率よくエネルギーを獲得することが大事なのだ。

 

 「順調だよ。あと半月ほどすれば、完成する。」

 

 ユキは答えた。

 

 「それはよかった。」

 

 ヒメカは、静かに、頷いた。

 

 オホ国中にある原子力発電所の再稼働も進んでいる。

 古くなった発電所の廃炉も同時に行っている。

 中間貯蔵施設の設置までやっている。

 再処理工場の開発もしている。

 

 近隣住民の理解を得て、互いに利益を享受しているのだ。

 

 まったく人類というのはどうしようもない生き物だ。

 核という禁断の扉を開いてしまったがばっかりに、もう突き進むしかないのだから。

 森に戻れはしないのだ。

 野生に帰れはしないのだ。

 文明と共に、生きていくのが人の定めなのだろう。

 

 オホンヌ再建はだいぶ進んだ。

 オホンヌの住民は1万人を超えようとしていた。 

 物凄い急成長だ。

 はじめては、人の住めない瓦礫塗れの土地で、ユキが地下に住んでいるだけだったのに。


 よかった。

 これも殆ど、ヒメカのおかげだ。

 

 「オホンヌもそろそろ、議会が必要かもね。」

 

 ヒメカは、面倒くさそうに、いった。

 

 「一応、民主制ってことにしときたいしね。デマやるのが出て来るのだけが、本当に厭だけど。」

 

 ヒメカは、頭を悩ませていた。

 民主制にはデマはつきものだ。

 頭のおかしなやつが出て来て、権利を主張してくる。

 

 それに、ヒメカに集中している権力が分散していく懸念もあるのだ。

 民衆に足元を掬われるというやつだ。

 だから、ヒメカは神になるしかないのかも知れなかった。

 

 ようやく、ヒメカのいっていたことがわかった気がする。

 一体どれだけ先の未来をヒメカはみていたのだろうか。

 

 「住民が増えてくるとね。選挙はやるとしたらネットで投票できるようにしましょう。」

 

 ヒメカはユキの方をみていった。

 ネット投票は便利だ。

 住民管理システムとして、ICチップの埋め込まれた住民カードで、不正も出来ないようになっている。

 オホンヌの住民になったものにはこのICチップ入りのカードが配られる。

 住民票、戸籍、健康保険証とかも、全部このカード1枚に情報が入っている。

 

 選挙の結果

 

 ヒメカは首長になってしまった。

 

 「ハルト~。あたし辞退するわ、あんたが首長してよ。」

 

 ヒメカはおれの方をみた。


 「え?。」

 

 「他の人たちもいいわよねえ?。」

 

 議会の政治家たちに、ヒメカは問いかける。

 どうやら誰も異論はないようだ。

 というより、ヒメカの信者しか議会にはいなかった。

 

 当選した者たちは、ヒメカのファンだった。

 おそらくオホンヌの街に住んでいる人の大半がヒメカ大好きな人たちなのだ。

 街にはヒメカを奉る謎の宗教施設までもが生まれ始めていた。

 ヒメカはありがたがられているのだ。

 

 「あたし首長とか向いてないのよね。あんたが適任よ。」 

 

 ヒメカは、面倒くさそうに首長の席を譲った。

 

 確かに、ヒメカからしてみれば、首長なんて退屈なものなのかも知れなかった。

 彼女はもっと大きなものをみているのだ。

 神や王になってしまうかも知れない。

 ヒメカはオホ国から認められはじめている。

 勿論、否定的な人たちもいるが、大抵の人は感謝さえしているのだ。

 

 「わかったよ。」

 

 おれはしぶしぶ首を縦に振った。

 

 「よかったわ。頼んだわよ。」

 

 ヒメカはおれの背中をポンと軽く叩いた。

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