資源
「オホ国は、ちゃんと外交をしないとマズいことになる。」
ヒメカはウェブマップをみつつ、思案している。
オホ国にはレアメタル、石油、天然ガス、ウランなどの資源が多くは獲れない。
ウランはあるにはあるか―。
シコツテ峠でウランは獲れるが、今のところ外国から輸入した方がコストがかからない。
獲れたとしても、莫大な費用が掛かり、採算が取れないのだ。
かつて、アヘ国がイツチャウ原子力発電所で、メルトダウンを起こしてから、ウランの価格が大幅に下落し、シコツテ峠でのウランの採掘は終わり、閉山したのであった。
油田においても、テマン油田では、オホ国3年分の油があるといわれているが、やはり、輸入した方が格段にコストはかからない。
海底油田や海底ガス田もあるが、どこにどれだけの資源があるのかの把握も完全には出来ていないのだ。
メタンハイドレードも、ある程度はあるようだが、採掘が難しく技術が確立されておらず、採算が取れない。
オホ国は、石油の多く獲れるアナルの国々と友好関係を結んでいる。
アナルの石油がなければオホ国は終わっていたことだろう。
アナルのビーズ湾で獲れる石油の量は世界一だ。
アナルビーズ湾は世界一の油田である。
アナルビーズ湾の権益のいくらかをオホ国は所有している。
かつてオホ国が栄えていた時の遺産だ。
アナル地域とのシーレーンを死守しなくてはならない。
資源が枯渇して大変なことになってしまうのだ。
「海軍を増強し、シーレーンを死守させる。」
ヒメカは、ユキテクノロジカが作りたりつる戦略海上兵器カナロアの映像を眺めた。
「美しい、なんて美しいのだカナロアよ。」
ヒメカはカナロアの美しいフォームをみて、絶頂しかけた。
オホ国の加工技術のすべてが注ぎ込まれ、細かい所まで緻密で美しい曲線美と金属の輝きがある。
戦略海上兵器 カナロア
駆逐艦 ネーレウス
巡洋艦 オーケア
空母 ワダヅミ
潜水艦 ポセイドン
すべてユキテクノロジ社が作った最新軍事兵器である。
「そして、大陸弾道ミサイルで、牽制も出来る。」
戦略大陸弾道ミサイル タスラム
地球の裏側まで、飛んでいく高性能なミサイルだ。
核を積むことも出来る。
オホ国の軍事力は格段に上がっている。
世界を凌駕するほどに。
「来週の火曜日、国王に謁見することになった、褒章が貰えるらしい。」
ヒメカは、静かに、「あそうだった。」と思い出したようにいった感じでいった。
部屋には、大型ディスプレイが3台、兵器を映し出しているだけだ。
「おめでとう。ヒメカ。」
おれは、一瞬目を見開き、驚きを露わにした後、祝福の言葉を述べた。
「どうにか、王位をいただけないだろうか。」
ヒメカは、頭を悩ませていた。
「まだ諦めてなかったのか、神になるとかいう話―。」
冗談だと思っていた。
ヒメカは神になりたいらしい。
なりたい。というのか、ならないとダメらしい。
「王はこの国にとってはなくてはならない存在。血統と伝統がある。ヒメカでは無理だよ。」
オホ国王は、千年以上の歴史があると言われている。
大戦の時、王は神として崇められていたらしい。
勿論、神だと信じている人もいれば、いない人もいたという。
便宜上、王は神であったのだ。
800数年前オホ国王の権力は弱まった。
王の護衛だったものが勢力を拡大し、王は名ばかりのものとなったのだ。
いつの時代も王の権力は絶対ではない。
諸侯が力をつければ、王は諸侯に頭が上がらなくなる。
戦国の時代、王は有力な諸侯に守られていた。
将軍がオホ国を統一して300年の間、オホ国王は実質、将軍の配下にあった。
将軍は300年の間、オホ国を統治したが、外国から白船がやってきた。
白船は、オホ国の力ではどうすることも出来ないほどの力を持っていた。
白船はアヘ国からの使者だった。
オホ国は不平等条約を余儀なくされた。
ほどなくして、オホ国将軍は、国王派と対立し、滅びた。
国王は、祭り上げられたのだ、新たな時代の装置として、再び神にさせられた。
オホ国王は、その後、ずっとオホ国に君臨し続けている。
いつの時代も王は利用されているのだ。
国家統合の装置として。
しかし、今や王は神ではない。
ただの人なのなのだ。
勿論、王を敬い、王を慕うものもいる。
王を絶対とし、王に逆らうものをよしとしないものたちもいる。
これは、呪いだろうか。
わからない。
しかし、もう、王が国家統合の装置として機能しなくなってきていることだけは事実だ。
王と共に、300年前、将軍の時代の終わりから、必死に走り続けてきたオホ国であったが、もう時代は変わろうとしているのかも知れなかった。
「わかってるわよ。だったらあたしは、次期王となるアマノ王子と婚約するわ。」
「え?。いやだ。」
おれは、拒否した。
「どうして?いいじゃない、別に。アマノ王子と子を為して、その子を次の王にするわ。」
ヒメカは、おれを試すような目でみた。
おれの気持ちを知っているのだ。
おれのこのヒメカへの熱い何かを知っているのだ。
それは、恋であり、熱である。
「あたしが他の男とって想像して、勃ってる癖に。」
ヒメカは目を糸のように細めて、頬を緩め、おれの耳元で囁いた。
ゾクリと、身体中に電撃が走る。
「ごめん。」
おれは、俯いた。
「他の方法はないのか。別に王にならなくってもいいじゃないか。」
おれは、縋りつくように、他の方法を探そうと提案した。
「冗談よ。何、本気になってるのよ。」
ヒメカは、おかしそうに笑った。
「かわいいわね。」
揶揄いやがって。
ヒメカがいうと冗談に思えない。
まったく笑えない。
おれの反応を楽しんでいるヒメカをみて、安心しているじぶんがいる。
喜んでいるじぶんがいるのが悔しかった。
「でも、あたしは神になってしまうと思う。あたしってカリスマだから、祀られて祈られるようになると思う。奇跡なんてないけど、ちょっとは夢をみせてあげたい。」
ヒメカは、スマートフォンで、配信のコメントをみたり、エゴサーチをしつつ言った。
確かに、ヒメカは神聖視しはじめられている。
オホンヌの街の中には、ヒメカの石像が建てられている。
ヒメカを称えるものたちが、作ったという。
強制したのではない、作りたくて自主的に作ったのだ。
配信のコメントでも、ヒメカを神のように称えるものは多い。
カリスマがあるのだ。
もうすでに、崇められている。
神になりつつある。
神なんているはずがないのに、人は神を作りたがる。
人は人を神にして崇めたがる。
「苦しくないのか、ありもしない幻想を抱かれて、神をやるのも疲れるぞ。」
おれは、神なんてごめんだ。
人々から神聖視され、常に理想を求められる。
人なんだから、失敗だってするし、間違いだって犯してしまう。
「あたしはあたしの儘よ。苦しくなんてないわ。」
ヒメカは、強がっている様子でもなく、ただ当たり前のことであるといった確信に満ちた声音で、いった。
彼女にとっては、神であることが普通であり日常であり、自然なのだ。
「おかしいよそんなの。」
おれはヒメカが理解できなかった。
偉くなって、神だといわれ、立派だと幻想を抱かれることは、大きなストレスに思えるのだ。
同じ人、ダメなくらいが丁度いい。
「だったら、オホ国の王はどれほどの心労だったかしらね。」
ヒメカは、少し暗い表情を浮かべて俯いた。
今でこそ、オホ国王は、ただの人となったが、かつては神として崇められていたのだ。
「確かに―。」
「力を見誤り、民を大切に出来ない王は、死ぬ。神にしても同様だ。」
誰からの受け売りだろうか。
ヒメカの言葉は重く感じられた。
まるで、これからじぶんの背負うものを見透かしているかのようだ。
「無理するなよ。ヒメカ。」
おれはヒメカの背中を見守ることしか出来なかった。
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