8指定都市
「ヒメカ?ハルト?。あ、起きた。ヒメカとハルトが起きた!、よかったああ!、ユキい!2人が目覚ましたよ!。」
カナちゃんの声が近くにきこえる。
目を覚ますと、カナちゃんがユキを呼びに行っているのがみえた。
子供みたいにはしゃいでいる。
おれたちより何十年も年上のおばあちゃんなのに。
見た目は子供そのものだ。
見た目も中身も。
「よかった。よかったよおお。」
カナちゃんは、起きたばかりのヒメカに、抱き着いた。
ベッドからヒメカは上半身を起き上がらせて座っている。
膝には布団が掛かっている。
「よしよし。心配かけてごめんねえ。ありがとうカナちゃん。」
ヒメカはカナちゃんを優しく抱きしめた。
「違うの、あたしがヒメカのこと傷つけたの。だから―。」
「いいのよ。仕方ない、あなたはずっと戦っていたのだから。オホ国の為にずっと。」
ヒメカはカナちゃんを気の毒そうに、眺めて、頭を撫でた。
戦争の為だけに作られた戦略オホ声兵器なのだ。
兵器。
そんなカナちゃんの運命を、憐れんだのだ。
当時、徴兵させられ、戦上で死ぬしかなかった者たちを、追悼したのだ。
死ぬことの出来なかった、戦略オホ声兵器の唯一の生き残り。
その宿命を考えると、あまりにも酷に思われる。
また、戦う羽目にならないといいけど。
カナちゃんは、失敗作だったらしいけれど、暴走しないようにはなれたのだろうか。
「何か、感覚は掴めたか?。」
おれはカナちゃんの方を向いて、きいた。
「わからないけど、何か掴めた気がする。あの姿になっても、心地よさを感じられた瞬間があった。」
カナちゃん本人も、よくわかっていない様子だが、確かに何かを掴めた感覚はあったみたいだ。
おそらく、あの時感じた赤黒い渦のぬくもりが、心地よさのそれなのだろう。
「あたしは一体、何日寝ていた?。」
「3日ほどだよ。」
ユキは答えた。
「そりゃ、マズい。オホンヌの復興のほどはどうだ。」
「皆、上手くやってくれてるよ。ヒメカを待ってる。」
おれは、ヒメカの背中をさすった。
「ふん。コワくなんかないんだからね。」
ヒメカは、少し顔を赤らめた。
夢の中であったことを思い出したのだろう。
じぶんの弱いところを、みられたのだ。
深層心理の奥深くで、ヒメカは、怯えていた。
過去に。
ヒメカは前に進んでいる。
「わかってるよ。」
「バカ!。」
ヒメカはおれの胸を軽く殴って、地下から外に出て行った。
なんか、かわいかった。
地下から外に出る。
オホンヌはすっかり、綺麗な更地になっていた。
瓦礫塗れだった面影はもう殆どない。
オオヤビさんに計画してもらった公園が、もう殆ど完成してはじめている。
素敵な広場。
住民の憩いの場になるであろう。
公園の周りには、テントや、キャンピングカー、屋台が数軒、開いている。
住民の数はまだ少ないものの、店が出ているのだ。
次第に、この公園の周りは、オホンヌの名所になるであろう。
旅館やホテルが立ち並び、遊園地が出来、駅が出来て、電車が通り、ショッピングモールが出来て、色々な店が立ち並ぶのだ。
公園はかつて、王の住まいがあった城のすぐに下に作った。
王は、未だにオホ国に君臨している。
今はオホーヌに遷都している。
「オオヤビ、よくやってくれてるわね。」
ヒメカはオオヤビに声をかけた。
「ヒメカさん。元気になられたんですね、よかったです。」
オオヤビはヒメカをみて、ホッとした様子で、安堵の表情を浮かべた後、軽くお辞儀した。
「ありがとう。心配かけたな。」
ヒメカは、感謝の気持ちと少しの申し訳なさを感じていた。
責任感が強いのだ。
「それで、都市計画の進捗はどう?。」
ヒメカは、少しオオヤビの様子を伺って、きいた。
「道路を作り始めましたよ。あと役所、警察署、消防署、病院の建設も進んでますよ。」
「そりゃあいいね。」
オホンヌの街に活気が出てきている。
「オホ国の8指定都市の軍事施設に、ユキテクノロジカの製造した軍事兵器を導入していこう。」
ヒメカは、オホンヌの空を飛ぶ、戦空中兵器 バアルをみあげて、いった。
バアルは静かに、空を飛んでいる。
ステルス機能があり、マッハ15で空中を移動することの出来る、戦闘機であり、爆撃機にもなれる。
8指定都市
オホーヌ
フェラテオ
クンヌ
オナヌウ
ラブセルクロス
エツチウ
キツス
そして、オホンヌだった。
ただ、オホンヌが壊滅してからは、8指定都市は実質7つの都市で構成されていたようなものだ。
オホンヌは立ち入り禁止の瓦礫塗れの土地になっていたのだから。
8指定都市の軍事力を強化し、各工場でユキテクノロジカの最新技術を応用した製品を生産し、売る。
国内にも海外にも。
ユキテクノロジカを、世界一の大企業にするのだとヒメカは目を輝かせていう。
オホンヌの港は今、とても栄えている。
復興のための物資が次から次に運び込まれ、付近に臨時に作られた工場で加工され、道路やトンネルなどの土木建設、建物の建設に使われる。
軍事兵器の生産にも利用され、ユキテクノロジカが新製品開発も行われている。
いずれ、オホンヌの沿岸部は、大規模な工業地帯が形成されることだろう。
実際、高度な技能や知識、実績を持った研究者や技術者が移住してきている。
まだまだ、住居の数は足りないものの、即席のテントで暮らし、仕事をしている。
電気、水道、ガスなどは復旧が完了していた。
人が力を合わせれば、すぐに、インフラが整えられていく。
オホ国の、3大財閥の力を借りれたからというのも大きいが、それ以上に、オホ国の各地から配信をみてくれていた零細企業や個人が、協力し、地道に復旧を手伝ってくれたというのも大きい。
「随分と栄えてきましたな。」
ウカノ株式会社が社長のヴァルカンさんは、船が行きかうオホンヌ湾の港を目を細めていった。
夕日が海を照らして、行きかう船との情景が美しい。
「はい。おかげ様で。」
ヒメカも、港の景色を眺めつつ、想いを馳せていた。
「やっぱりお前らに投資して正解だったよ。たった1月ほどでまさか、オホンヌがここまで復興するとは思わなかった。」
ヴァルカンは、大袈裟といった風でもなく、心からそう思っているといった自然な口調でいった。
「よかったです。でも、いつ外国から攻められてもおかしくはないですからね。危ないです。」
ヒメカは気を引き締めた。
「偉いね。君たちは。」
ヴァルカンさんは、若いものたちを眩しく感じ、少し引け目を感じていたが、やはり応援しようという気が強かった。
ただ、応援したいのだ。
「ありがとう。ヴァルカンさん。」
ヒメカはそんなヴァルカンの僅かな仕草や目線から気持ちを汲み取って、感謝を口にしたのであった。
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