オホ国3大財閥

 「オホ国が力を付けるまで後10年はかかる。」

 

 ヒメカは頭を悩ませていた。

 

 「その間、他国からの侵略に対抗できる軍事力も必要になってくる。」

 

 ヒメカは続けた。

 

 オホ国は、世界からみて10年以上の遅れがある。

 軍事的にも劣っているし、街の近代化、情報科学の分野に置いても、先進国家に比べてれば、10年の開きはあるだろう。

 

 「オホンヌの街にしても、元通りになるのに3年、世界的な都市にまで発展するのには10数年はかかると見込まれている。」

 

 街の再建には時間がかかる。

 道路を作ったり、インフラを整備するのは、1年2年でどうこうなる話ではないのだ。

 長い時間をかけた計画が必要不可欠になる。

 

 長期的な計画、オホ国に足りなかったものだ。

 

 「今は、守りを固めよう。」

 

 ヒメカは戦争に備えて、沿岸部の軍事施設の強化と、陸海空軍の増強を考えていた。

 オホ国の軍事技術も、他の先進国と比べて10年の開きがあるし、安価な武器の数でさえ、経済力で負けている為に、物量でも負けているのだ。

 

 オホ国は島国だ。

 海を守らなくては大変なことになる。

 資源も少なく、他国と貿易をすることでしか、賄えない。

 魔法は存在しないのだ。

 

 「ユキに新型兵器の開発をお願いしてある、完成し次第、量産に取り掛かろう。」

 

 ユキのテクノロジが、国に活かられ、量産に成功すれば、他国もオホ国を安易には攻撃できなくなるだろう。

 活かせるものを活かして、備えようという考えだった。

 

 ユキがいなかったらオホ国はどうなっていただろう。

 考えただけで寒気がした。

 

 「どうも、ユキです。」

 

 「え。ユキが2人?」

 

 目の前にユキが2人いた。

 

 「両方僕です。」

 

 「どういうこと!?。」

 

 「ユキは身体が10人分あるのよ。」

 

 ヒメカは答えた。

 

 「は?」

 

 「10人のユキには、全部ユキの思考が反映されているわ。便利よね。」

 

 「ああ、分身みたいなものか。」

 

 「そうよ。」

 

 分身―。

 驚きと畏敬の念さえ憶えてしまう。

 

 「10人分の身体が使えるなんて、凄いわよね。普通の人間じゃ、精々2人が限度ってところらしいわよ。」

 

 そりゃあ、10人同時に操作して動かしてるわけだから、並大抵の精神力と思考力では動かせないだろう。

 

 「大したことなんてないよ。自分がたくさんいた方が便利だしねえ。」

 

 ユキは世界中に散らばっているらしい。

 ユキはそれぞれが別の人格を持っているわけではなく、統一されている。

 ユキが1人で10人を操作しているのだ。

 世界中を旅というのは文字通り世界中で、多国籍なのだ。

 

 ユキはオホ国で産まれ、世界を旅している途中で、分身体製造を行い、徐々に分身体の数を増やして、今では10人分の人生を体験しているのである。

 

 「ユキのテクノロジがいくら凄かろうが、インフラを設備するのには、人手は足りないし、時間もない。」

 

 ヒメカは腕を組んだ。

 

 大量生産し、普及させるとなれば、時間がかかるのだ。

 道路を作るのも、効率化すれば1日や2日で完成するといったものではない。

 

 「やあ。久しぶり。」

 

 「ラクチェさん!?。」

 

 「フェシスと、ナブーも来ているよ。」

 

 ラクチェの隣にはフェシスとナブーがいた。

 

 「ユキって子は天才ですわ。本当に勉強になったわな。」

 

 フェシスは、感嘆の念を漏らした。

 

 「面白かった。」

 

 ナブーは、二ヤ二ヤしていた。

 

 「ナブーが満足してるんだからすごいもんだ。」

 

 ラクチェは笑った。

 

 「やつは、おれより数学の知恵を持っている部分もあった。興奮した。」

 

 ナブーは、恍惚とした表情で、涎を垂らした。

 

 「おい、汚いぞナブー。いい大人だろ。」

 

 フェシスは呆れた様子で、ポケットからウェットティッシュを出して、ナブーに渡した。

 

 「もう少し、身なりを気を遣ったらどうだ、ナブーよ。清潔感出したら、おまえ多分モテるぞ、かわいい顔してる。」

 

 ラクチェは、ナブーに、アドバイスする。

 

 「めんどい。だるい。ベッドで一日中寝て、夢の中で数学のこと考えて、一生を終えたい。」

 

 ナブーは、だら~りとクラゲのようにふにゃふにゃしている。

 

 「あ、誤解のないように、数学者がみんなこうなわけでは決してないから!。」

 

 フェシスは、おれたちの方をみて、注意喚起した。


 「愉快ですねえ。」

 

 おれは、呟いた。

 

 「ユキさんのテクノロジを吸収したいという技術者や研究者はたくさんいるよ。人手が増えれば、再建は加速するだろうね。」

 

 ラクチェは、少し興奮した様子だった。

 瞳孔が少し大きめに開き、声のトーンがいつもより高く、饒舌になっている。

 感情を動かされたのであろう。

 

 「あたしたちも協力してるしね。」

 

 「ウェヌスさん!?。」

 

 「久しぶりね。ハルトくん。」

 

 ウェヌスさんは、微笑んだ。

 相変わらず綺麗な人だ。

 

 「ヴィヴァーチェも、全力をオホ国再建に協力しているわよ。」

 

 「心強い。」

 

 オホ国一の時価総額を誇る、一大財閥の後ろ盾があるのは、ありがたい。

 

 「あたしたちだけじゃないわよ。オホ国が総力を上げてあなたたちをサポートしているのよ。」

 

 「ひええ。責任感ヤバいですわ。」

 

 おれは身悶えしそうになった。

 

 「ヴィヴァーチェ株式会社、ドルチェ株式会社、スタッカート株式会社。オホ国3大財閥が、あなたたちを全力でサポートすると、表明しているわ。」

 

 ウェヌスさんは、当然のことのように、いった。

 

 オホ国の工業力の核を担う3大企業の力を借りれるなんて、本当に、再建できるかも知れないと思わせられる。

 ウカノ株式会社の後ろ盾もある。

 

 「ありがたい話よね。」

 

 ヒメカは、心から感謝しているようだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る