ユミがオホンヌに来た。

「ハルト~。来たわよ~。」

 

「ユミ!?」

 

来るとはいっていたが本当に来たのか。

まだ復興途中のオホンヌの街にユミがきた。


「元気そうでよかったわ。大変だったわね。」

 

 ユミは、眉を顰めた。

 

 一昨日の国会襲撃からのオホーヌ戦争。

 思い出しただけでも、憂鬱な気持ちにさせられる。

 

 「今回は何とかなったけど、次は、どうなることやら。」

 

 頭が痛くなる。

 オホ国はもう、他国から目をつけられてしまっている。

 20年前ほどは世界で大きな戦争はなくオホ国は平和そのものだったのに―。

 ちょっとしたことが契機となり、日常は一変してしまう。

 

 近年オホ国は、アヘ国やアンアン国に服従することで、平和を維持してきたが、もうダメかも知れなかった。

 

 「暗い顔してる、大丈夫?」

 

 考えこんでいると、ユミは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。

 

 「ごめん。考えたところでどうにもならないよな。出来ることをしていこう。」

 

 おれは、情けなさを憶えた。

 

 「ハルトがいなかったら、多分、オホーヌは今頃、陥落していたわよ。十分活躍しているわ。」

 

 

 「まぐれだよ。」

 

 カナちゃんの力を借りただけ。

 おれは、何の取柄もない凡人なのだ。

 アヤメさんもそういっていた。

 凡人が勘違いして、大きな過ちを犯す事例は、過去の歴史をみても必然だ。

 凡人は、何もしないのが、社会にとってはいいのだ。

 天才の足は引っ張りたくない。

 

 「もう、謙遜しすぎだよ。あの射撃は中々出来ないと思うけどなあ―。」

 

 「天使のおかげだよ。。」

 

 「天使?」

 

 「うん。」

 

 天使というのはカナちゃんのことだ。

 きっと、カナちゃんの力が俺に付与されていたのだろう。

 おれは射撃が上手くないどころか、やったこともないのだから。

 すべて、まぐれであり、奇跡が重なっただけだ。

 

 「ああ、あのカナちゃんって子のことか。」

 

 ユミは、思い出したように言った。

 

 「戦略オホ声兵器だっけ?凄いよね、本当にあったんだ。」

 

 「でも、本人はもう戦いたくないみたいだよ。」

 

 おれは、カナちゃんの方をみた。

 

 「何、話してるんですか?」

 

 カナちゃんは、おれの視線に気が付くと、駆け寄ってきた。

 かわいい。

 

 「本当に実在したんだ。かわいい。」

 

 ユミは、カナちゃんをみて、目を輝かせた。

 

 「えへへ。」

 

 カナちゃんは照れている様子で、少し俯いて、二ヤけていた。

 

 「本当に、かわいいなあ。天使なだけはある。」

 

 ユミも揶揄っている様子でもなく、本当にカナちゃんをかわいいと思っている様子であった。

 カナちゃん、畏るべきかわいさ。

 

 「ヒメカさんは?私、会ってみたいんだけど―。」

 

 ユミは、辺りを見渡した。

 

 「ちょっと、落ち込んでいるみたいでさ。」

 

 おれは、少し声をトーンを下げていった。

 

 「どうして?」

 

 「一昨日の戦争で、失敗したからだよ。」

 

 「意外ね。ヒメカさん、落ち込むとかなさそうにみえるけど。」

 

 「相当ショックみたいだったよ。」

 

 「なんかムカつくわね。」

 

 「え?」

 

 「ズルいよ。ハルトも巻き込んで、心まで盗んでおいて、失敗したからって―。あたし、バカみたい。」

 

 ユミは、少し感情の混じった声で、吐き出した。

 

 「お姉さん大丈夫?」

 

 カナちゃんは、ユミの様子をみて、心配そうに声をかけた。

 

 「大丈夫よ、ごめんね。」

 

 ユミは、カナちゃんをみて我に返った様子になった。

 

 「ヒメカさんはどこにいるの?」

 

 ユミはきいた。

 

 「中々に厭な女だぞお前。」

 

 おれは、ユミの方をみて、苦苦しく笑った。

 おれの恋している女の前に、振られた幼馴染の女が会いたいと言っているのだから、図太すぎる。

 どういう神経をしているのだろうか?

 普通そこは遠慮するとか、諦めるだろ。

 おれは、ユミを既に振っているのだ。

 

 「あはは。でもまだ2人、付き合ってはないんでしょ?」

 

 ユミは、暗く笑った。

 

 「―。おれは付き合いたいと思ってるぞ。」

 

 「直接はっきりと言われると傷つくわね。ぐふ。」

 

 ユミは、気を少し落とした様子で、俯いた。

 

 「ギスギズの三角関係ですか?コワいです。」

 

 カナちゃんは、僕とユミをみて、狼狽えた。

 

 「修羅場がやってきそうで、おれは憂鬱だ。」

 

 おれは頭を抱えてしゃがみ込みたくなった。

 

 「大丈夫よ。私、空気は読める女だから。」

 

 ユミは、自信ありげに胸を張った。

 ユミは、頭のいい女だ。

 きっと誰とでもうまくやっていけるだろう。

 しれっと、ヒメカとも仲良くなってしまうはずだ。

 社交性もあるし、勉強も出来る。

 おれとは大違いだ。

 

 「ヒメカは、テントにいるよ。」

 

 「じゃ、行こ。」

 

 ユミはおれの背中を押した。

 

 まだ、オホンヌに、テント以外に住居はない。

 瓦礫は概ね撤去されたものの、未だ建設中の建物だけが数件あるのみだ。

 

 「ヒメカぁ。お前に会いたいって人を連れて来たぞ。」

 

 おれたちは、テントの中に入って行った。

 

 テントの中で、パソコンを前に、調べたり、考えているヒメカの姿があった。

 

 「は?忙しんだけど、あたし。」

 

 ヒメカの目の下にはクマが出来ていた。

 ずっと、考えていたのだろう。

 どうすれば、オホ国が生き残れるのか。

 

 「お忙しい中ごめんなさい。ユミです。」

 

 ユミは深々とお辞儀をした。

 

 「あ~。何、あんたまだみた感じ子供じゃない?大丈夫なの、こんなところに来て。」

 

 ヒメカは、怪訝な目でユミをみた。

 

 おまえも、子供じゃないか、とおれは心の中で思った。

 

 「はい、大丈夫です。オホンヌに住みたいなあと思ってます。」 

 

 「物好きだな。」

 

 

 ヒメカは呆れた顔で、ユミをみた。

 

 「なんか、おまえら仲よさそうだな、幼馴染か何かか?」

 

 ヒメカは、おれとユミをみて、言い当てた。

 

 「はい。」

 

 ユミは驚いた様子で、目を見開いた。

 

 「すごい、どうしてわかったの?」

 

 「あ~、目線と匂いかな。あとちょっとした仕草。」

 

 ヒメカは答えた。

 

 ヒメカの前で嘘は通用しないと思った方がいいだろう。

 彼女は人のちょっとした言動や態度から、だいたいのことがわかってしまう、観察眼がある。

 

 「ハルトのこと好きんでしょ?図太い女ねあんた。」

 

 ヒメカは、二ヤ二ヤと笑った。

 

 「はい。」

 

 ユミは顔を赤らめた。

 

 「かわいいわね、あなた。」

 

 ヒメカは、ユミの反応をみて、楽しんでいた。 

 

 「でも、ハルトはあたしにゾッコンだから、あたしが死ぬまで、あなた結ばれないわよ。」

 

 ヒメカは、愉悦に浸った表情で、二ヤりと笑った。

 腹黒い。

 

 「いいんです。今はハルトの傍にいたい、それだけです。」

 

 ユミは、ヒメカの目をみて、答えた。

 

 「いい女だね。」

 

 ヒメカは、感心した様子でいった。

 

 「ハルトも罪な男だね。」

 

 ヒメカは、おれの方をチラっとみた。

 

 「あたしも、気を落としてばかりいられないよね。」

 

 ヒメカは、じぶんの顔を叩いて、背筋を伸ばした。

 

 「しっかりしないとね。」

 

 ヒメカは、立ち上がってテントから出た。

 

 「ヒメカさんって、いい人ね。」

 

 ユミは安心したように呟いた。

 

 おれは、ホッとして胸を撫でおろした。

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