オホ国秘密会議

 「第911回オホ国秘密会議をはじめる。」


 壇上で、白髪交じりの黒髪の男が、会議を取仕切っている。

 黒色のスーツに身を包んでいる。

 歳は40代前半だろうか。

 集まっているものの中では、一番年配に思われた。

 

 「よく来てくれたね。」

 

 白髪交じりの黒髪の男は、おれたちの方をみると微笑んだ。

 

 「参加できて光栄です。」

 

 ヒメカは深々とお辞儀をした。

 

 「君たちのことは、よくみさせてもらっているよ。」

 

 「恐縮です。」

 

 ヒメカは、謙遜の態度を示した。

 

 「私は、チア。一応、オホ国秘密会議の議長だ。」

 

 「よろしくお願いします。」

 

 おれたちは、挨拶した。

 

 チアさんは、目を細めた。

 

 「物扱いされて、粗雑に扱われる気分はどうだあ?」

 

 「うひいい。最高でしゅううう、私は皆様の奴隷でしゅうう。どうぞ、ご自由にお使いくだしゅああいいい。」

 

 何やってんだ。 

 驚愕した。

 

 内閣総理大臣が、椅子になっていた。

 正確には、四つん這いになっていて、背中には金髪ロングの女が座っているのだ。

 ちょっと大きめサイズな青色のTシャツに黒のデニムショートパンツを履いている。

 高そうな服だ。

 いいところのブランド品なのだろう。

 カジュアルな服装だ。

 特別な会議に着て来る服装ではないように思われるが、誰も気に留めていない。

 むしろ、オホ国秘密会議に来ている人たちは、好きな服装で来ているような感じだ。

 

 「全世界に、ネット配信されてるぞお。情けないねえ?。」

 

 金髪ロングの女は、おれたちの方をみて微笑みかけつつ、内閣総理大臣を椅子にしている。

 

 『え。なにこれ。』

 『あかんやろ』

 『配信して大丈夫なんか。』

 『内閣総理大臣って、こんな扱いされるものなのか。』

 『綺麗な女に乗ってもらえて羨ましい。』 

 『ご褒美だよな。』

 『屈辱だろ。』

 『仮にも一国の長が、これじゃあなあ…。』

 

 コメント欄も混沌としはじめた。

 

 「こんにちは、かわいいボーや。」

 

 おれの方をみて、ニコリと、金髪ストレートロングの女は、目を細め、微笑みかけた。

 

 「どうも。」

 

 おれは、頭を下げた。

 

 「あたしは、ウェヌス。ヴィヴァーチェ株式会社の創業者であり、最高責任者をやっているわ。」

 

 ヴィヴァーチェ株式会社。

 オホ国内で時価総額1位の巨大会社にして、財閥だ。

 金融、工業、オンデマンド配信プラットフォーム、ゲーム等、様々な分野に手を広げ時代に対応してきている。

 オホ国では珍しい会社だ。

 

 「行儀が悪いぞ、ウェヌス。」 

 

 ピンク色のストレートロングヘアの男が鋭い目つきで一瞥した。

 身長は160cmほどで小柄だ。

 

 「どうも、はじめまして、僕はソピカ。哲学者だよ。」

 

 ソピアはおれたちの方をみた。

 

 「どうも、はじめまして。」

 

 おれたちは、挨拶を交わす。

 

 「でもよよお、ポチ内閣総理大臣は、おれたちの犬だよなあ?」

 

 語尾の母音が、ところどころ大袈裟で、距離感が妙に近い男だ。

 年齢は20代前半といったところだろうか。

 赤紫色の髪をしている。

 

 「まあ、否定はしないが、モラルってものがあるだろ、モラルってものが。」

 

 ソピアさんは、呆れた様子で、お凸に右手拳を当てて、俯いた。

 

 「モラルねえ。偽善じゃあないのかい。そりゃあ。」

 

 赤紫色の髪の男は、二ヤリと厭な笑みを浮かべた。

 

 「相変わらず厭~な性格してるわね、あんた。」

 

 青紫の髪で、赤色のジャケットに白いシャツ、茶色のショートパンツに黒のストッキングの女は、いった。

 目は細く大きい。

 鼻筋が高く、勘の鋭そうな、顔つきをしている。

 

 「あたしは、フュシス。物理学者よ。」

 

 フェシスさんは、感じのいい表情で、おれたちを歓迎した。

 

 「どうも。」

 

 おれたちは、頭を下げた。

 

 「おれは、スサノオ。一応、アレス自警団の団長やってるぜ。」

 

 赤紫色の髪のした男はいった。

 アレス自警団は、オホ国が荒廃としてから、出てきた民間の軍事組織だ。

 民兵のようなものにまで成長している。

 

 「まあ、でもポチも頑張ってるよ。あたしたちの傀儡としてね。かわいいポチ。」

 

 「ワンワン。」

 

 内閣総理大臣さんは、犬のようにワンワンと鳴いた。

 たぶん犬なのだ。

 

 「あたしはアメノ。画家をやってるの、よろしくね。」

 

 アメノさんは、ウェヌスさんに椅子にされている内閣総理大臣のポチの顔に落書きをしながら、微笑んだ。

 

 「うん。いい絵が描けた。」

 

 アメノさんの絵は綺麗で美しく、内閣総理大臣の顔をキャンバスとして、素敵な美少女を描いていた。

 かわいくデフォルメされたアニメや漫画調の絵だ。

 角度によってみえ方の変わる、光の反射を利用した技法が使われている。

 キラキラと反射していて、美しい。

 背景は、オホンヌの街で、よくみると、配信しているおれたちも、ところどころに描かれている。

 緻密だ。

 

 「アメノは、相変わらず素敵な絵を描くのねえ。」

 

 背後から緑色のウェーブがかった長い髪をした綺麗でどこか透明な女がアメノさんに話かける。

 

 「ああ、ミューズか。」

 

 アメノさんは、後ろを振り返って、緑髪の女をみた。

 

 「あたしは、ミューズ。音楽家よ。」

 

 ミューズはおれたちの方をみて、挨拶した。

 

 持っていたバイオリンを取り出すと、楽し気にゲームのキャラクター登場シーンの音楽でも奏でるように、軽く演奏した。

 いい音色だ。

 

 芸術だとか、文化についてあまり詳しくないじぶんには、アメノさんや、ミューズがどれほど凄いのかはわからなかった。

 コメントを観ている感じでは、世界的に有名な画家と音楽家らしい。

 

 僕たちが軽く挨拶を交わしている隅っこで、ずっと何か考え込んだりしつつ数式を記述している男や、ゲームしている女、カチカチとプログラムを組んでいる男がいた。

 

 「彼らは?」

 

 おれは気になって、質問した。

 

 「お~い。新人くんが、君たちのことに気になってるぞお。自己紹介くらいしてやってくれないかあ?」

 

 ミューズさんは、無遠慮に、集中している彼達に話しかけた。

 

 ミューズさんの呼びかけに、3人は気がついて、各々おれたちの方をみる。

 

 「私は、ナブー。数学者やってるよ。」

 

 数式を記述していた男は、おれたちの方をみて微笑みかけた。

 

 ナブ―は癖の強い少しボサボサとした青色の髪をした男で、メガネをかけていた。

 身長は150㎝ほどで小柄だ。

 どこか親しみを憶える風貌と顔だ。

 

 「あたしは、アテナ。プロゲーマーよ。」

 

 少し大きめの黒いマリンキャップを被った女だ。

 髪は艶やかなストレートで、黒い。

 服装は、おそらく部屋着のジャージに思われる。

 ゲーム廃人みたいな様相をしていた。

 しかし、顔をみてみると、おそろしいほどの美形で、たぶんオホ国会議の中で群を抜いての美人だと思われた。

 ただ、絶望的に、自堕落であった。

 

 コメントをみる限り、アテナというのは生きる伝説みたいなもので、滅多にお目に掛れないカリスマ的な存在なのだという。

 

 「僕は、ラクチェ。エンジニアだよ。データ分析も得意だ。」

 

 ラクチェは、白色の髪をした、女の子のような見た目をした男だ。

 色白で、どうしてかスカートを履いている。

 

 「僕、心は男なんだけど、女の子の格好が好きなんだ。てへへ。」

 

 ラクチェは、女装が好きならしい。

 

 「ユキさんの技術に凄く興味があって、ずっとお話してみたかったので、会えてよかったです。」

 

 ラクチェはユキをみつけると、目を輝かせた。

 

 「ああ、どうも。」

 

 ユキは素気なく挨拶を交わした。

 

 「紹介が遅れたな。おれはイム。医者だ。」

 

 「おれは、アポロン、映画監督だよ。」

 

 おれたちの会話をきいていた男2人が、話しかけに来た。

 

 イムは、薄紫色の髪の毛をした男で、細めの体格をしている。 

 アポロンは、茶髪のアップバングで、ムキムキだ。

 

 「どうも。」

 

 おれたちは軽く会釈した。

 

 「よし、全員揃ったようじゃな。では本題に入る。」

 

 チアさんは、おれたちが打ち解け合った様子をみて、話を進めた。

 

 チア オホ国秘密会議議長 法律家 男

 ウェヌス ヴィヴァーチェ株式会社創業者兼最高責任者 女

 ソピア 哲学者 男

 フェシス 物理学者 女

 スサノオ アレス自警団団長 男

 ポチ 内閣総理大臣 オス犬

 アメノ 画家 ??

 ミューズ 音楽家 女

 ナブ― 数学者 男

 アテナ プロゲーマー 女

 ラクチェ エンジニア 女装男

 イム 医者 男

 アポロン 映画監督 男

 

 オホ国秘密会議は、13人で構成されている様子であった。

 どれも、何かの領域で特異な成績を収めたものが集まっている。

 

 

 

 

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