テミス/オオクロ

「お前たち、ユキテクノロジカ株式会社が、法人として認められたぞ。」

 

 ヒメカは、おれたちを呼び集めて、満足そうにいった。

 

 「テミスくんに、いろいろと書類はやってもらってね。」

 

 テミスくん。

 ヒメカ心酔している男で、遠路はるばる、オホンヌ再建を手伝いに来た、法律家の男だ。

 司法試験に合格しており、行政にも司法にも精通しているらしい。

 しかも、高身長で、かっこいい。

 年齢は30代後半くらいだろうか。

 

 「ヒメカお嬢様は素晴らしいお方です。私は、じぶんの人生の一生を捧げると誓いました。」

 

 出た。

 たぶん、ヒメカに魅了されて信者になったのだろう。

 

 「どうも、はじめまして。ありがとうございます。テミスさん。」

 

 おれは、軽く挨拶をした。

 

 「はい。どうも。」 

 

 テミスさんは、おれを値踏みするような目でじろりとみた。

 

 「で、こっちが会計の、オオクロさんよ。」

 

 「はじめまして、オオクロです。」

 

 20代後半くらいの女だ。

 公認会計士と税理士の資格を持っているらしい。

 ヒメカが雇ったのだという。

 


 法律やら、書類云々のことも大事だし、お金周りのこともちゃんとしないとマズいことになる。

 税金だって納めなくてはならないし、出すものは出さないと、逮捕されかねないのだ。

 

 「ユキテクノロジカの社員になったんです。」

 

 オオクロさんは話はじめた。

 

 「給料もいいですし、配信とかみてる限り、やり甲斐のありそうな職場だなあと思いまして。」

 

 オオクロさんは、てへへと笑った。

 

 「もともとは、そこそこの大企業で働いてたんですけど、疲れちゃって…、なかなか給料も上がらないし―。ユキテクノロジカは破格の待遇ですからねえ。」

 

 1週間前ほどから、ユキテクノロジカの求人募集をしていた。

 配信の概要欄に応募フォームのURLを張るように言われていたのだ。

 フォームに、経歴やらをアピールできるものを記入して、送ればいいのだ。

 確か、給料は月収1000万くらいだった気がする。

 財政難と経済がよくない今のオホ国にとっては、破格の待遇だろう。

 

 「オオクロちゃん。いい子でしょ?。」

 

 ヒメカは、おれの顔を覗き込むようにしてきいた。

 

 オオクロさんにしても、テミスさんにしても、感じのよさそうな人だった。

 

 「あたし、写真とか文章の感じから、だいたいどんな人か検討がつくのよね。」

 

 ヒメカの観察眼故だろう。

 

 「会って話をすれば、どういう人生を歩んで来たのかまで、だいたいわかる。」

 

 話し方や、使っている単語、見た目、雰囲気などから、だいたいの人生を当ててしまえるのだという。

 

 チート能力みたいなものだ。

 頭がいいのだろうと思った。

 

 「ちょっと、いいですか?。」

 

 オオヤビさんが、話の中に入って来た。

 

 「いいわよ。」

 

 「都市計画ができました。」

 

 オオヤビさんは、オホンヌの街の設計図を、ディスプレイに映し出した。

 ディスプレイには、オホンヌの未来の姿と、復興に掛る日数、人手、機材、道具、お金が、まとめられていた。

 わかりやすい。

 オホンヌは、素晴らしい街に生まれ変わるだろうと、思えた。

 

 「よくやったわ。オオヤビ。」

 

 ヒメカはオオヤビを褒めた。

 

 現在は5月20日土曜日。

 オホンヌにあった瓦礫はずいぶんと片付いて、広場の建設がはじまろうとしていた。

 

 「広場を作りましょう。」

 

 ヒメカは、オオヤビの方をみた。

 

 「はい。図面もあります、やりましょう。」

 

 オホンヌには、優秀な建築家や大工、土木建設師が集まっていた。

 求人を出していたら、たくさん応募があったらしい。

 自ら、オホンヌに来て、手伝ってくれる気のいい人もたくさんいた。

 

 100人ほどの建設に携わる人が集まっていた。

 

 オホンヌはいつの間にやら、人口1000人ちょっとの地域になろうとしていたのだ。

 

 「はやいとこ、オホンヌを一つの行政区間として、認めてもらわないとマズいわね。」

 

 ヒメカは、瓦礫撤去作業や、テントの組み立て、食事作りなどの仕事を、懸命にしている、オホンヌの未来の町人たちをみて、爪を噛んだ。

 

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