ユミ


 ユミとはじめてであったのは、保育園だった。

 

 ユミとはよく遊んだ。

 

 だいたいユミは、おれの行くところ行くところに付いて来た。

 

 ユミは優しい女だ。

 内気で、恥ずかしがりなところもあるが、優等生で、頭がよかった。

 おれなんかよりずっといい。

 

 学校のテストはだいたい満点だし、博識だった。

 図書館が好きで、本を読むのが好きなのだといっていた。

 

 だいたいなんでも熟してしまう女だ。

 

 おれを、いつからか「かわいそうな劣等生。」としてみるようなった。

 落ちこぼれたのだ。

 中学くらいから。

 

 ユミは、「あたしがいないと、ハルトはダメになる。」とでも思っているようで、勉強の面倒やらなんやら、色々してくれた。

 

 高校に合格したのも、半分はユミのお陰みたいなものだ。

 

 おれは、ユミの気持ちを知っていたのだ。

 知っていて、友だちのままでいたかった。

 

 話さないといけない。

 

 「もしもし。」

 

 おれは、思い切って1年半ぶりに、ユミに電話をかけた。

 

 「ハルト?」

 

 「うん―。」

 

 「遅いよ。嫌われちゃったかと思ってた。」

 

 ユミは、安堵の溜息と、切なさの入り混じったような、声を上げていった。

 

 「あ~ごめん、おれ、実はさ―。」

 

 「???。」

 

 「好きな人が出来たんだ。」

 

 長い沈黙

 重苦しい雰囲気が電話越しからでも、わかった。

 

 「ハルカって人?」

 

 「うん。」

 

 「やっぱり―。先、越されちゃったな。」

 

 ユミは泣きそうな声で、消え入りそうだった。

 

 「ハルトはズルいよ。」

 

 「ごめん。」

 

 「謝らないでよ。ごめん、あたし、邪魔だよね。」

 

 「邪魔じゃないよ。」

 

 「だったら、会いに来てよ、あたしを選んでよ。」

 

 ユミは声を荒げた。

 

 「あ、あたし何言って―。」

 

 取り返しのつかないことを言ったような表情が声から感じ取られた。

 戸惑っているのがみてとれた。

 

 「あたし、ハルトが好きなんだ。」

 

 ユミは決心を付けた様子で、告白した。

 

 「ありがとう。」

 

 「その先は、いわないでもわかってるわよ―。」

 

 ユミは、おれの次にいう言葉を遮った。

 

 「よし、決めた。あたしもオホンヌに行く。」

 

 ???

 何言ってんだ?

 聞き間違いかな―。

 

 「ヒメカって人とも話してみたいし、ハルトのことが気になるから。」

 

 どうやら、本気みたいだ。

 どうしてこうなった?

 

 「やめておいた方がいいと思うけどなあ、危ないし、学業もあるし。」

 

 おれは、止めた。

 止めなくてはならないと思った。

 ユミは、将来有能な人材なのだ。

 バカなことに巻き込んじゃいけない逸材なのだ。

 

 「あたしはやると決めたらやるよ。」

 

 ヒメカは頑なだった。

 

 「ユミは俺が守ってやる。くらいいってくれれば、いいのに―。」

 

 ユミは不服そうに、おれをジト目でみた。

 

 「ハルトが、活躍してるところみてるのが好きなんだ~。楽しみだなあ、はやく会いたいなあ。」

 

 もうユミは、その気満々の様子だった。

 

 ごめんなさい。

 ユミを惚れさせてしまった罪は重い。

 

 それだったら、嫌われるように、酷いことをいえばいいのに、嫌われ役にもなり切れないおれは、なんて、罪なやつなんだろう。

 

 おれは、罪悪感を募らせていた。

 

 「あたしは、好きでやってるんだから、気に病まなくていいよ。」

 

 ユミはおれの心情を察してか、気を遣ってくれる。

 

 その優しさがかえって、じぶんには重りに感じられていた。

 

 だったら、せめて、おれがユミを、責任持って、幸せにしないとな。

 

 ユミとは、結ばれないかも知れないけど、出来る限り、大事にしよう。

 

 「おれも、覚悟を決めるよ。」

 

 おれは、無意識に呟いていた。

 

 


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