ミケーネ先生 / 妹のハルカ

「もしもし。ハルトです。」

 

 おれは担任教師のミケーネさんに連絡をした。

 

 ミケーネ先生には、世話になっている。

 親身になってくれる、優しい人だ。

 物理の教師であり担任でもある。

 

 「ミケーネだ。ハルトくんか、凄い事になってるけど、大丈夫なのかい?」

 

 ミケーネさんは、心配そうにきいた。

 

 「はい。なんとか―。」

 

 おれは、答えた。

 

 「で、学校はどうするんだい?その調子じゃあ、無理そうだけど。」 

 

 「悩んでるんです。」

 

 「そりゃあそうだ。取り敢えず、休学でもしたらどうだい?校長に話しておこうか?」

 

 「助かります。」

 

 ミケーネさんは、おれの配信をみて、色々考えてくれていたのかも知れない。

 話がスムーズに進んでいく。

 休学という手もあるのだ。

 

 「若いっていいねえ。」

 

 「ははは。」

 

 「無理はしないようにね。君、危なっかしいから、すぐ死んじゃいそうだ。気を付けてね。」

 

 ミケーネさんは心配そうに、おれをみた。

 

 「ありがとうございます、先生。」

 

 「うむ。ヒメカって子を支えられるのは、あんただけなのかもねえ。あの子が真の意味で、危なっかしい感じだからねえ。なんか本当に世界を変えちゃいそうな勢い。」

 

 ミケーネさんは眉を少し顰めて笑った。

 

 「いえてますね。おれ、ヒメカを死なせたくないんです。」

 

 「じゃあ、頑張ってくれ給えよハルトくん。君たちはオホ国の希望だ。」

 

 ミケーネさんは、揶揄うように微笑んで、おれの背中を軽く叩いた。

 

 学校は、しばらく休むことになった。

 

 妹とも、話をしておかないとな―。

 一応、家族なんだし。

 

 「もしもし。」

 

 「あ!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!、やっと電話かけてくれた、遅い連絡よこすの!。」

 

 妹のハルカは、嬉しそうな声で、お兄ちゃんを連呼した。

 

 「あ、どうも。」

 

 「ねえ。きいてる?配信みたんだけど、お兄ちゃんヒメカって女の人にデレデレしちゃってさあ!あたしという妹がいながら、どういうことなの?ねえ、お兄ちゃん!。」

 

 「あ、ああヒメカね。」

 

 「お兄ちゃんのバカ。」

 

 無茶苦茶な妹だ。

 妹はいつもこうだ。

 

 「お兄ちゃんは、あたしだけのもののはずなのに―。」

 

 こいつは、ブラコンなのだ。

 しかも、病的なやつだ。

 そんな妹を心の奥底ではかわいいと思ってしまっている、おれもまた重度のシスコンなのかも知れなかった。

 ヒメカが指摘した通りは、おれは妹を愛している。

 それは、家族としてだが―。

 

 「お兄ちゃん!ヒメカって女だけじゃなくて、カナとかいう天使の女にもデレデレしちゃってさああ。お兄ちゃんのヤリチン!どスケベ淫乱男!。」

 

 なんなんだ、このかわいい生き物は!

 まったく不快に感じられないのはどうしてなのだろうか。

 妹に理不尽に罵倒されても、まあ妹だしなと思える。

 嫉妬している妹も、また愛らしい。

 

 「ごめんよ。お兄ちゃんは、妹だけのものじゃないんだ。」

 

 「わかってるけど―。お兄ちゃんは大事な存在だから。」

 

 「心配してくれてたんだよな。」 


 「うん。ヒメカって人と一緒にいると、お兄ちゃんが死んじゃいそうで、あたしコワいの。あの人は、たぶん、お兄ちゃんのこと道具としか思ってないよ。」

 

 「ヒメカが好きなんだ。」

 

 なにいってんだ。

 じぶんの妹に、ヒメカが好きだなんていってどうするんだよ。

 

 「やっぱり、そうだったんだ―。お兄ちゃん、無理しないでね。ハルカ、お兄ちゃんが心配だよ。」

 

 「お兄ちゃんの彼女は、ユミさんがよかったな。」

 

 ハルカは、しょんぼりとした様子で俯いた。

 ユミは、同じ高校に通っている、幼馴染の女だ。

 ハルカとも交流がある。

 

 ユミとは仲がいい方だとは思うが、彼氏彼女の仲というわけではなかった。

 

 「ユミさんがかわいそう。」

 

 「かわいそう?どうして?」

 

 「だって―、それくらいわかるでしょ?鈍感のフリをするのはやめなよ、お兄ちゃん。」

 

 ユミはおれに気があるのだ。

 なんとなくわかってはいたけど、みてみぬふりをしてきた。

 友達の儘で、ずっといたかったのだ。

 ハルカも気づいていたのだろう。

 ユミとおれの関係が、中学3年あたりから、変わり始めていたことを。

 少しずつ、互いに距離が出来ていた。

 

 「ユミさんとも、ちゃんと話をしてね。お兄ちゃん。」

 

 「わかってるよ。」

 

 妹にいわれてしまってはお終いだ。

 おれは、じぶんのダメさ加減に嫌気が差した。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る