オオヤビ
「だいぶん、瓦礫が片付いてきた。」
おれは、ハサミがついた油圧式の重機が瓦礫をトラックの荷台に運ぶ様子をみて、呟いた。
操縦しているのは、重機操縦の資格を持っている、3人の大人たちだ。
あとは、自動で動くユキが作った重機が6台動いている。
少しずつだが、瓦礫が片付き、地面のみえる箇所が増えてきた。
建物の1つや2つ建てる場所はできただろう。
「道を作っていくのがいいと思う。」
ツチイワ株式会社の社員の男がいった。
「いいわね。そうしましょう。オホンヌ都市計画の設計図作成はあなたに任せるわ。名前は?」
ヒメカは男の顔をじっとみてきいた。
「オオヤビです。」
「建築に詳しいんでしょ?都市計画とかもやって来た人よね。」
「どうしてわかったのですか?」
オオヤビは不思議そうに首を傾げた。
「はったりをいうような気質に思えないのに、妙に自信がありそうだからよ。ちゃんとやってきた人だから、どうやって復興させていけばいいかわかるのでしょう?」
「まあ。大学で建築を勉強して、院では都市計画の研究をやりました。世界中を巡ってフィールドワークをしたり、実際にオホ国の都市計画に参加したこともあります。」
いわゆるエリートってやつか。
歳は30代前半くらいにみえるが、おそらく実際は30代後半くらいだろう。
妙に若くみえる。
「なんとなく、そんな雰囲気してたわ。」
ヒメカは、微笑んだ。
ヒメカは人のちょっとした言動や、仕草、動き、身なりから、人の能力を瞬時に判断する能力が高かった。
勘が鋭いとでもいえばいいのか。
人の特性を見抜き、使うのが得意なのだ。
天性の指導者なのかも知れない。
「道路を作ってくわよ。」
ヒメカは、広場から道を作るために、瓦礫を撤去するように、命じた。
「オオヤビは広場に、人々の憩いの場所になるような公園を作ってくれ。」
ヒメカは、オオヤビに命じた。
「わかりました。オホンヌに住む人々のことを考えた素晴らしい公園にしてみせましょう。」
オオヤビは嬉しそうにヒメカの命令を申し受けた。
「配信に使うカメラの代数も増やしましょう。」
もう、おれのスマホだけで配信するフェーズではなかった。
カメラの代数も増えて、常にオホンヌ復興の様子を配信していた。
ただ、視聴者の数が一番多いのは依然として、おれのチャンネルだった。
ハルトのオホンヌ旅チャンネルという名前だが、そろそろチャンネル名を変えた方がいいような気がしていた。
「ヒメカ、チャンネル名を変えようと思うのだが、どうしようか?」
「オホ!っと元気に再生チャンネルでいいじゃないかしら。」
少しの沈黙の後、ヒメカは、思いついたようすで、いった。
「わかった、早速変えておくよ。」
おれはチャンネル名を変えた。
「チャンネル名変えたから、よろしくねえ。」
ヒメカは、視聴者から理解が得られるように、報告した。
『うん。無難なチャンネル名だと思う。』
『オホっとチャンネル登録したくなる名前。』
『ダサい』
『頭に残りやすくていいと思う。』
コメント欄が少しざわついた。
「あんた明日から、学校よね―、どうすんの?」
ヒメカは、探るようにおれをみつめた。
訴えかけてくるような瞳にドキりとした。
もうゴールデンウィークもとっくに終わって、土日休みも終わりを迎えようとしていた。
どうしたものか―。
「どうしようもないよ。ここから学校まで歩いて3日半、車では5時間はかかる。」
今時刻は、午後3時半、車で帰っても、夜の8時ごろに家に着くことになる。
おれは、帰る気がなかった。
じゃ、学校はどうするんだ?
高校はちゃんと卒業できるのか。
大人になったら、どうするんだ?
仕事は?
誰も、わけのわからんチューバ―のことなんて、雇ってはくれないのでは―。
本当におれは、このままでいいのか。
でも、今は学校より、オホンヌの復興を頑張りたかった。
出席日数が足りなくなるかも知れない。
1日2日休むくらいだったら問題はないかも知れないけれど、一度休むことを憶えたら、もう帰って来られなくなるような気がしたのだ。
きっと、学校の先生も、クラスメイトも、この配信をみている。
もう、一般人ではなくなったのかも知れない。
配信者。
その肩書に責任が掛かってきているのを実感していた。
配信はいいコメントばかりではなかった。
炎上、とまではいかないが、酷い言葉も中にはある。
おれに、親はもういないが、妹には迷惑をかけるだろう。
おれと妹は、親が死んでいなくなってから、保護施設で育った。
ネット上で、おれの家の住所は、もう特定されていた。
通っている高校も、すでにバレていた。
それ自体、別によかった。
ただ、一般人ではなくなったというだけだ。
おれは、有名人なのだ。
責任を持たなくてはならない、じぶんの影響力を考えないと、えらい目に遭うだろう。
でも、おれは、今は、オホンヌ再建に集中したい。
ある程度、落ち着くまで、ヒメカの隣で、彼女に尽くしたい。
おれは、ヒメカのものだから―。
って、おれ、なに考えて―。
ダメだ、本当に、おれってヒメカのことが好きなんだな。
「妹と学校に相談するよ。しばらくは、オホ国再建に集中したいし。」
おれは、答えた。
「そう。嬉しいわ。」
「それって、どういう―。」
「深い意味はないわよ。あなたがいないと寂しいものね。だって結成メンバーじゃない、どこにも行ってほしくないの。」
ヒメカは少し顔を俯けて、背中を向けた。
照れているのだろう。
そういった不器用なところも、好きだと思った。
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