オホンヌに住んでみませんか?

 日が沈もうとしている。

 夕日をみると、心が洗われるような気持ちになる。

 きれいだ。

 

 時刻は午後5時30分ごろだ。

 明日は日曜日か。

 

 即席のテントを建てて、集まっていた。

 現在のオホンヌには家と呼べる家は1つもなく、テントが立っているだけだ。

 

 「今日は来てくれてありがとう。」

 

 ヒメカは、感謝の言葉を伝えた。

 

 午後5時になって、数人の人は、帰っていったが、まだ30人ちかくの人が残っていた。

 

 「よかったら、オホンヌに住まないか? 今、配信を観ている人も目の前にいる人も、真剣にきいてくれ。オホンヌの市民になって、一緒に街を作っていかないか?」

 

 ヒメカは提案した。

 

 市民を集めようとしているのだ。。

 まだ、家が一軒も建っておらず、土地もぐちゃぐちゃで、道路もなく瓦礫塗れの、このオホンヌに人を集めようとしているのだ。

 

 「瓦礫を撤去するにしたがって、道路を設備し、建物を作り、上下水道を確保し、電線を設置で電気を通す。」

 

 いつのことになるやら。

 先が思いやられる話だが、もし仮にオホンヌが復興すれば、地価は急激に上昇するであろう。

 

 「役所を作り、学校を作り、工場を建て、研究所を作る。港を発展させ、空港を作り、国際的な窓口とする。0からだからこそ、面白いことがいくらでもできる。」

 

 ヒメカは、声を弾ませながら未来のオホンヌを語った。

 ヒメカの話をきいていると、元気が貰える。 

 本当にできそうな気がしてくる。

 

 「あたし、やってみようかな。やりたいことも特にないし。」

 

20代前半くらいの女が、声を出した。


 「おれは、家族がいるから、流石に今すぐ、オホンヌに住むというのは出来ないな。時々、手伝いには来れるけれど―。」


 30代後半くらいの男は、少しバツが悪そうに、いった。

 

 「儂は、やりがいのありそうなことをずっと探しておった、丁度よさそうだ。人生をかけて、復興を手伝おうと思う。」

 

 50代ほどとみられるおじさんは、覚悟の表情をみせた。

 

 「ワイは、将来大工になりたかったから、丁度修行にもなってよさそうやし、ちょい住んでみようかと思うわ。」

 

 20代前半の男は、やる気をみせた。

 

 「みんな、ありがとう。」

 

 結構、住んでもいいという人が多かった。

 全体の五分の三くらいは、住んでもいいと言っていた。

 それくらい、やる気のある人たちで集まっていたのだ。

 情熱があった。

 

 住むのは無理でも手伝うといっている人は全体の9割はいた。

 

 残りの一割は、遊びで来ただけらしかった。

 それでも、来てくれただけありがたいことだと、思う。

 

 『ワイも、やってみよかな。』

 『悪い話ではないかも』

 『普通に働くよりは、やりがいありそう、楽しそう。』

 『家族おるし、じぶんはいいかなあ。』

 『頑張ってくれ。おれは、やっぱ実家が一番や。』

 『何もないオホンヌになんかあたしは住みたくない。』 

 

 コメント欄は賛否両論かといった塩梅だった。

 同時接続は50万人で、コメントは流れるようにバアーと来ていた。

 ありがたい。

 これだけ関心を持っている人がいるのだと思うと、嬉しかった。

 声には出していないだけで、心では、オホンヌを慮っていた人もたくさんいるのだ。

 

 瓦礫塗れのオホンヌで、キャンプをした。

 とても心地がよかった。

 

 政府もお手上げのオホンヌをおれたちが、復興させていくんだ。

 

 ヴァルカンさんが運んできてくれた、食料を焼いて、みんなで食べた。

 とても美味しかった。

 

 「ヒメカ、オホンヌの街は、かってに使ってもいいのか?国からの許可が必要だよな―。」

 

 おれは、疑問に思っていたことを口にした。

 

 「そうね。会議の時にちゃんと交渉して、自由に使ってもいいと許可を得る必要があるわ。」

 

 おれたちは、国からの許可も得ず、かってに瓦礫を撤去し、街を作り出そうとしているのだ。

 犯罪になりかねないことであった。

 国公認ともなれば、活動もしやすい。

 

 「オホンヌに今日から住んでいいって人は、あたしのところに集まってくれ。」

 

 ヒメカは、呼びかけた。

 

 10人ほどの人が集まった。

 

 「ありがとう。」

 

 ヒメカは、1人1人に握手をして、感謝を述べた。

 

 「しばらくはテント暮らしだろうが、今日からお前らはオホンヌ市民だ。一緒に街を盛り上げていこう。」

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る