ヴォルガン

 ユキの技術力がいくら凄いとはいえ、やはりロボットの数も重機の数も足りない。

 

 人手が必要なのだ。

 

 「おーい。配信をみて来てやったぞー!。」

 

 大型トラックに乗った男がいた。

 

 「本当に、やってたんだ、すげえ。」

 「手伝いにきたよお。」

 

 配信から3時間ほどして、ちらほらと、オホンヌに人が集まって来た。

 

 オホ国民は、オホンヌを見捨ててはいなかったのだ。

 

 「あたしもオホンヌ出身であの大戦までは、オホンヌに住んでいたんです。もう諦めてましたけど、心動かされまして、来ました。」


 オホンヌ出身だというアラサーくらいの女は、少し気恥ずかしいそうにした。


 色んな年代の人が、オホンヌに集まってきてくれた。

 その殆どの人が、オホンヌ出身か、あるいは長く住んでいた人たちだった。

 黒の手による災いで、立ち入れなくなっていただけで、本当は、オホンヌを忘れてなどいないのだ。

 

 「来てくれてありがとうございます。復興させましょう。」

 

 ヒメカは、来てくれた人達に呼びかけた。

 オホンヌの街は、相変わらず瓦礫に埋もれているが、本当の堕落を知った敗戦者たちの面持ちは、険しくかつ、希望に満ちていた。

 ヒメカには、人を正しく導く力だあるようだ。

 

 「ワイ達は、土木建築の仕事やってる建設会社ツチイワの会社員。力になれると思うわ。」

 

 ツチイワか―。

 きいたことのある会社の名前だった。

 

 「建設に使う道具一式もトラックに積んで持ってきたで。」

 

 ありがたい。

 

 「食べ物やらはどうするんですか?」

 

 20代くらいの男から、質問があった。

 

 確かに、食べ物を確保できていない。

 隣街まで、流通の道路を作るには、数か月はかかるだろう。

 

 「当分は船で交易するのがええでしょうな。オホンヌ海からの航路を使えば、中枢都市へもアクセスできますよ。」

 

 年寄りの男は、いった。

 

 「儂は、ウカノ株式会社の会長じゃ。君たちを広告に使わせてくれれば、船を貸すよ。自由に貿易に使ってくれたまえよ。」

 ウカノ株式会社。

 オホ国の、車、船、飛行機とかの重工業をしている会社だ。

 ウカノの船は、世界的にみても高性能でいいものとされている。 

 

 色んな人が、おれたちの配信をみて、駆けつけて来てくれている。

 互いに、協力して、オホンヌを復興しようとしている。

 

 重機もウカノ株式会社のものを使えそうだ。

 

 「いいね。いずれウカノ株式会社を買収して、あたしのものにするよ。」

 

 ヒメカは、にっこりと笑った。

 

 「欲があっていいね。君だったら買われてもいいかな。」

 

 ウカノ株式会社の会長は、二ヤりと笑った。

 

 「事業をしようと思ってて、まだ特許もない、新技術を活用した商品を売ってく会社をやろうとしてます。」

 

 ヒメカは、話出した。

 

 「ほう。」

 

 「ユキテクノロジカ株式会社っていう名前なんですけれど、いずれ、ウカノ株式会社を子会社にしようと思います。」

 

 「できるだろうね。配信をみていたけど、君たちの技術力だったら可能な話だ。むしろさっさと買収された方が健全だろうね。」

 

 「ですよね。」

 

 「むしろ、買収されることが生き残る為には、いいだろうね。」

 

 「会社への投資と、支援お願いしますね。」

 

 「ああ、もちろんだ。君たちはオホ国の希望だ。」

 

 「儂は、ヴォルカンだ。よろしく。」

 

 「よろしく。ヒメカよ。」

 

 ヒメカはヴォルカン会長と握手を交わした。

 

 『すげえ。ウカノ株式会社を味方につけた。』

 『ユキテクノロジカ株式会社か、上場したら投資するかあ。』

 『間違いなく今後、大企業になるぞ。』

 『大期待。』

 

 コメント欄は、期待とワクワクの声で溢れていた。

 ヒメカの交渉も凄いが、ユキのテクノロジーが異常なだけな気もした。

 

 「早速、港から船を出そう。」

 

 ヴォルカンさんは、オホンヌの港へ出向いた。

 

 港は、瓦礫塗れで、使い物になりそうにはなかった。

 

 「港はこんな有様だが、船が出せないわけではない。」

 

 海には、大きな産業用船が、3隻泊まっていた。

 

 「これは?」

 

 「儂の会社の船じゃよ。物資を届けるにはいいと思ってな。」

 

 「ありがとう。」

 

 「重機やら、道路の舗装に使うコンクリート、木材、だいたいの道具と材料を、3隻の船に詰めるだけ入れて持って来てもらっておいたよ。」

 

 「助かる。」

 

 「あと、当面の食料もあるよ。これで、うちは大赤字だ。ははは。」

 

 ヴォルガンさんは笑った。

 

 「でも、これで、復興が上手くいけば、うちの株は間違いなく上がるよ。」

 

 「ですね。」

 

 ヒメカとヴォルガンさんは、グヘグヘと気味の悪い声を上げて二ヤ二ヤと笑い合っていた。

 

 

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