あたしは神になるしかないんだ。
「どうも、話をした結果、オホ国秘密会議に出席できることになりました。いえい!。」
ヒメカは、ガッツポーズをみせて、喜びました。
『おめ!』
『やるじゃん。』
『ほんとにオホ国を変えてくれそうだな。期待。』
「会議の内容を生配信できるかも知れないので、楽しみにしててね!。」
ヒメカは、遠慮なくいった。
未だ、決まってもないことを言ってしまうとは、なかなかいい性格してるなこいつ。
こうなると、オホ国政府も安易に、断りにくくなってくる。
きっと、この配信をみていることだろう。
「ということで、今日はこれで配信終わりまーす。ありがとうございましたあ。」
ヒメカは、手を振った。
「ありがとうございました。」
おれも、とってつけたような「ありがとう」をいった。
「サーバー会社に連絡をとろう。」
配信が終わると、ヒメカは、行動を起こそうとした。
ヒメカは先のことまで考えている。
これから、国家や世界に目を付けられ、潰されるかも知れない。
その前に、圧倒的な力を手にして、手出しが出来なくするのだろう。
オホ国中の、サーバー会社に連絡した。
ユキさんが、よさげなところを分析して、交渉が上手くいきそうな文章を生成して、送った。
「メティス株式会社から連絡が来ました。」
ユキさんはいった。
メティス株式会社
オホ国の中でも、有数のサーバー管理会社だ。
かつては、世界でも戦っていける会社になると期待されていたほどの会社だった。
2023年において、IT会社は独占状態になっている。
メティス株式会社は、世界的にみれば小さいながらも頑張っている会社だ。
「メティス株式会社の今後を思うと、胸が張り裂けそうだが、仕方ない、一緒に地獄の底までついてきてもらうぞ。」
ヒメカは、くくくと、悪どい声を上げ笑みを浮かべた。
なんて、女なんだろう。
もし失敗すれば悪女として後世に名を残すかも知れないし、あるいは上手くいって女神として祀られるのかも知れない。
いずれにせよ、歴史に名前が残るような人物になりそうな予感が、おれにはしていた。
メティス株式会社からのメールには、次のように書かれていた。
“メティス株式会社取締り役のリンです。ご連絡をいただきありがとうございます。もしよろしければ、うちの会社でサーバーを提供いたします。料金は、使用料に応じて支払ってください。”
「メティス株式会社のリン。これから一緒に神話になってもらうぞ。」
神話?
ヒメカは神にでもなろうとしているのだろうか。
「オホ国を世界を根本的に変えていくには、あたしじしんが神話になるしか方法はない。あたしは神になるしかないのだ。」
「神になんてなれるわけないだろ。」
おれは、鼻で笑った。
「なるよ。」
ヒメカは本気の様子だった。
笑っちゃうね。
内心で、おれはヒメカを見下していたが、やってくれるのではとどこかで期待もしていた。
「神になる為には、影響力と神話、軍事力、技術力が必要だ。オホ声経は、そうやって生まれたものだ。人々の願いが作り出した経典なんだ。」
バカげたことでも、ヒメカが話だすとどこか現実味を帯びてくるのがコワいところだ。
こいつは、思考を具現化していく謎の能力がある。
脅威的だが、おれはヒメカのそういったところが好きだ。
「だから、国の軍隊も味方につける、世論も、研究機関もね。そうやって取り込んで、大きな神話を作り上げていくんだ。神は人をまとめてくれる、あたしは人間を捨てても構わない。」
ヒメカ―。
おまえは、神にはなれないよ。
人は人だ。
誰だって神のように完全で完璧にはなれない。
信仰の対象にはなれない。
ヒメカが死んだあと、きっと上手くまとめられなくなる。
だから、人は話し合って、物事を決めていくんだ。
「あたしはデモクラシーを捨てたんだ。今のオホ国のデモクラシーはバカがバカを増やすデマによって汚染されていくだけだ。神の元に人々はデモクラシーをした方がまだマシだ。」
神の元にデモクラシーというわけのわからんことをいい出した。
おれには、ヒメカの思想は理解できなかった。
「あたしは、王家とも近づく。国民を納得させていく。神になる為に、いや―。」
ヒメカは少し言い淀んだ後、ハっと気が付いた様子で言い直した。
「神を思い出す為にか。神だけじゃない、みえなくなった忘れ去られてしまった、精神を取り戻す為の、切っ掛けになりたいんだ。」
神なんていないだろ。
おれにはわからない。
逆にそれは神に頼って、人々は考えなくなるのではないのか。
オホ声経の二の舞ではないのか。
疑念だけが残る。
反対の意見もききいれ、よりよい考えにしていくことが、本当のデモクラシーなのではないのか。
大事なことではないのか。
1人の人が神になると、暴走して、歯止めが効かなくなったりしないのか。
歴史上、独裁は、最初の1人が賢い場合、上手くいくが長続きはしないものだ。
「独裁するつもりか?」
おれは、おそるおそるきいた。
「しないわよ。あたしは神話の一部になるだけ。みえないこの国の宗教じみた空気を食べて1つになりたい。それさえも神の一部にして受け止めるには、誰かが絶対的な神を作り出すしかないのよ。」
「話し合えばいいのでないか?」
「話し合いが通じない人もいるわ。でも神はあたしたちをいつもみているし、誰も彼もが神の元では人に過ぎないの。謙虚でいられるわ。」
神や仏はきらいだった。
宗教というものに嫌悪感を持っていた。
どこかじぶんで考えることを放棄しているかのような、印象を持っていた。
だから、ヒメカの神になるという思想にどこか違和感を憶えていた。
「神仏をありがたがり、死者を悼み、霊魂と対話する。わたしたちはそうやって生きてきたんだ。罪や罰について悩み考えてきたんだ。生老病死を受け入れ、無常を感じ、情緒を育んできたんだ。」
確かに、おれたちは忘れているのかも知れない。
大事な何かを置いて来てしまったのかも知れない。
世界中が、何でも科学や喘ぎ声の経典で解決してしまえると思っている。
だから、神仏を忘れ、霊や魂の存在をみなくなった。
ある意味では、考えなくなった思考を放棄したと考えれないこともない。
「今の時代だれも、神をありがたがってはくれないよ。みんな金が好きなんだ。あとは、権力と、フォロワーでしょ。」
おれは、ヒメカが理解できなかった。
今時、神なんて流行らない。
誰もが、金をほしがり、人との繋がりを求めている。
そんな時代に、神?
神なんて誰も助けてはくれないだろ、ただの偶像、人の妄想。
そう考えるのは自然なことだ。
「おまえはだからバカなんだ。昔の人たちの知恵を学ぼうとしない。」
ヒメカは呆れた様子で溜息をついた。
「あんたの頭の中にある、神をいないと考えること自体も神なのよ。なんといえばいいのしらね、神を想定した方が説明できることが多いのだから、大発見なのよ、神という存在は。」
でも、それでは、分解できないのでは?
現象を分解して、細かくして、科学が発展しないのではないのか。
神は分解できない。
神は、科学では解明できない。
人は、好奇心を削がれ、探求することをやめてしまい、神だけをみるようになるのではないか。
「神は真実を隠しますよ。科学は神を殺して、真実を明らかにしました。そうやって、様々な物理法則や現象が発見され、技術が発展しました。」
「バカだな。神がいるから、おまえは真理を知ることができるんだ。科学上の発見にすら神が宿っている。あらゆる現象は神とともにある。わからないのか?」
わからない。
神なんて感じない。
なにも、みえない、きこえない。
現象はただの現象だ。
「おまえは神から与えられているんだぞ、それと同時におまえも神の一部なんだぞ。」
???。
もうわからん。
ヒメカの持つ神に対する認識なのだろう。
世の中、様々な神に対する認識があるものだ。
唯一神、汎神とある。
種類もあるし、なんとかの神とかと世の中にはいろんな神がいて、祀られている。
どうして、神など信じぬ世のはずなのに、オホ国にでさえ、神や宗教が入り乱れているのだろう?
本当は、おれたちは、ぐちゃぐちゃに色んな神や宗教の入り混じった、名前もない宗教の中にいるのかも知れなかった。
それは、いわゆるオホ国に蔓延する空気のようなものの総和なのだろう。
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