ミカヅチ

「もしもし、ツバメです。」

 

 男はツバメという名前らしかった。

 ツバメは、軍部大臣に電話をかけた。

 

 「話はついたよ。直接話してくれ。」

 

 ツバメは、スマホをヒメカに手渡した。

 

 「ありがとう。」

 

 ヒメカはスマホを受け取った。

 

 「もしもし、ヒメカです。」

 

 「もしもし、軍部大臣のミカヅチだ。」

 

 ヒメカがスマホのスピーカーをオンにしたのであろう、大臣の声がしっかりと、きこえる。

 

 軍部大臣のミカヅチの声は、芯のはっきりとした声だった。

 低音と高音が混じったような声音で、いい音色だと思った。

 

 「オホ国も、衰退続き、軍事力低下で困っているでしょう。あたしたちが力になりますよ。」

 

 「話がはやくて助かる。ただこちらとしても、君たちにかってなことをされては困るんだ。国の信頼と威厳にかかわる。」

 

 「あたしたちは好きにやらせてもらいますよ。国からのどんな圧力にも屈しない。」

 

 「流石は源次郎の曽曽孫だな。肝が据わっている。」

 

 ミカヅチはどこか懐かしそうに笑った。

 

 「おまえらがやりすぎた時は、おれたちオホ国の軍事力のすべてを賭けて、止めにいくぞ。戦略兵器もお構いなしに使う。」

 

 「オホ国なんて大したことないでしょ。それよりヤバいのは、アヘ国、アンアン国とかよ。あたしたちを脅威とみなせば、オホ国ごと報復させに来るでしょうね。」

 

 「だからこそ、おまえたちには静かにしてもらわんと困るのだ。国の面子というものがある。」

 

 ミカヅチは苛立ちを露わにした。

 

 「そんなに他国からの報復がコワいですか?かつては、世界一の大国だった癖に。」

 

 ヒメカはミカヅチを煽った。

 

 「あの黒い手にやられればお終いだ。私たちの知らない未知のお経でメタメタにしてやられる、科学技術力でも大きな後れを取っている、どうしろというのだ。」

 

 ミカヅチは、情けない声で、いった。

 なんて、惨めなおじさんなんだろう。

 いい年をした大人が、高校2年の女相手に、必死になっている。

 プライドを守ろうとしている。

 

 「あたしたちが、ぜんぶなんとかしますよ。一緒にオホ国を再建させましょう。」

 

 「わたしの一存で、おまえたちを応援するわけにもいかん。とりあえず、後日、オホ国秘密会議に来なさい。」

 

 「秘密なのがいやだなあ。配信させてくれるんだったらいいすよ。」

 

 ヒメカは、交渉しはじめた。

 

 「配信かあ―。世界に垂れ流すんだろ?国家安全保障上許されないなあ。うううん。」

  

 「変なこといわなかったら大丈夫ですよ。マズそうなところは流石にミュートします。」

 

 「だったらいいか。いちおう、総理大臣に相談しとくよ。また後日連絡するね。」

 

 ミカヅチはさんは、少し考え込んだ様子だった。

 

 「わかりました。」

 

 「君たちも気を付けた方がいい。他国の政府要人たちも、君たちの配信をみて警戒している。命を狙われていると考えてもいいだろう。」

 

 そりゃあそうだ。

 お経のことにしろ、黒い手のことにせよ、他国にとって都合の悪い事実があるのだから。

 おれたちのしている配信は、危険なものなのだ。

 そのうちチャンネルだってバンされかねない。

 

 「あたしたちは、サーバーを獲得して独自の投稿配信サイトを作ってそこで、自由に配信しないといけない。」

 

 「犯罪者になるつもりか。」

 

 「ええ。なっても構わないわ。黙らさせるだけの軍事力で以て、手出しはさせない。」

 

 コワい女だ。

 おそろしい女だ。

 ヒメカ。

 何を考えているんだ。

 

 「おまえたちは危険だ。危険だが利用価値がある。悩ましい存在だよ、本当にね。」

 

 ミカヅチは、悩まし気に溜息まじりに呻いた。

 

 「じゃ、また連絡する。くれぐれも無理をして死ぬなよ。」

 

 「ありがとうございました。」

 

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