地下室

 ピピピィ

 

 ユキがタブレットを操作すると、どこからともなく、人型のロボットが2体走って来た。

 

 「この子を運んであげて。」

 

 人型のロボットは、おれを優しく持ち上げた。

 

 「行くよ。あんたたちもついてきな。」

 

 ユキさんは、ヒメカと、カナちゃんに声をかける。

 瓦礫の中にある通路から、地下に降りて行った。

 

 通路の先は、地下まで続く、高さ3メートルほどの螺旋階段になっていた。

 

 「落下物に気を付けなよ。」

 

 「はい。」

 ヒメカと、カナちゃんは、落下物に気を付けつつ、螺旋階段を下りる。

 

 地下に降りると、結構な広さの場所に出てきた。

 

 電灯がついていて、近未来を思わせる作りになっている。

 「ぼくは、世界中を探検してる探検家なんだ。」

 

 「へえ。探検ですか、凄いですね。」

 

 地下室には、奇妙な土偶や、石、儀式に使われそうな器や木簡、剣、勾玉、骨などが飾ってあった。

 かと思えば、実験に使われそうな、薬品や、装置が雑多におかれている。

 ロボットももしかしたら、自作かも知れなかった。

 

 「この子を今から手術するよ。君たちは外で待っていてくれ。」

 

 ユキは、手術室と書かれている電光板の光る部屋に入って行った。

 

 パン!

 電光板が手術中という文字に切り替わり、赤く光はじめた。

 

 おれは強い麻酔を掛けられ、意識を失った。

 

 身体が軽い。

 

 助かったのか―。

 おれは目を覚ました。

 

 「ハルト、起きたの?」

 隣で、おれの名前を呼ぶヒメカの声がきこえる。

 

 おれを覗き込む、ヒメカの不安げな表情が、心に残る。

 きれいだ。

 思わず見蕩れてしまいそうになる。

 

 「ありがとうヒメカ。」

 

 たぶん、ヒメカはおれを心配して、ずっと隣にいてくれたのだろうと思った。

 

 「お兄さん、よかったです無事で。」

 カナちゃんも心配してくれていたようだ。

 

 「君はかわいい女の子2人に心配されて、恵まれてるね。」

 部屋にユキが入って来て、嫌味そうにいった。

 

 「骨も筋肉も内臓もぐちゃぐちゃだったから、入れ替えといたよ。」

 

 「誰のにですか?」

 おれはおそるおそるきいた。

 

 「人工のだよ。」

 

 人工で筋肉や骨が作れるのか―。

 すごいテクノロジーだ。


 「ほんとはこの手術高くつくんだよ。ま、今回は特別無料ってことで。天使様にも会えたわけだし、君たちはなんか、面白そうだ。」

 

 ユキは、愉快そうに笑った。

 この人にとって、金銭は大した意味を持たないのかも知れなかった。

 今の人生を楽しんでいる。

 そういった雰囲気が感じられる。

 考えるより先に、行動してしまうようなやつに多い感じを受ける。

 きっとおれを助けたのにも大した理由はなくて、単に面白そうだからやったのだろうと思った。

 

 「ありがとう、ユキさん。助かりました。」

 おれは、お礼をいった。

 

 「ん?いいよいいよ。好きでやってるんだ。身体がかってに動いてた。それだけだよ。」

 

 身体がかってに動いてた。か、ちょっと尊敬しちゃうな。

 おれは、行動より先に、どうでもいいことを考えてしまう。

 ヒメカみたいに理論を建てているわけでもなく、行動に意味があるのかとか綺麗ごとを大事にしてしまうのだ。

 やるより前に、美徳ばかり追い求めてしまうのが、おれの悪いところかも知れない。

 

 「ぼくも君たちの仲間になるよ。」

 

 ユキは、決心した様子でいった。

 

 「もう話はついてるわ。あんたが寝てる間にね。」

 ヒメカが話に入って来る。

 

 「ぼくは、黒い手の生き残りでね、あれからずっと旧首都に住んでいるんだ。」

 

 ずっと住んでいるだと?

 どうやって人のいないこんな、荒れた果てた地で生きてくんだ。

 

 「困惑する気持ちもわかるよ。ぼくは、人工生命体のサイボーグだからね。」

 

 「人工生命体?サイボーグ?」

 

 「人工的につくられた受精卵から生まれ、機械と融合し、ぼくが生まれたんだ。」

 

 にわかには信じがたい話だ。

 

 「源次郎って人が、おれをつくったらしい。一度はあってみたかったな。ぼくにはおやがいないんだ。」

 

 またしても源次郎か。

 

 「命を人工的に制作して、機械と合体させるなんて、さすがは、あたしのおじい様でしょ?」

 ヒメカは誇らしげに、胸を張った。

 

 

 

 

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