ユキ

「ハルトくん、朝ですよ。起きてください。」

 

 じいやがおれを起こす声がきこえる。

 もう朝か。

 

 おれは起きて、スマホをつけた。

 ロック画面には、7時1分と表示されていた。

 

 「朝ごはんができているので、皆で食べましょう。」

 

 朝ごはん?

 支度はやくねえか。

 絶対早起きして、作ってくれてるやつだ。

 

 キャンプカーの中に入る。

 キッチンリビングでは、もう皆集まっていた。

 

 ご飯は、バゲッドのサンドウィッチだった。

 じいやの手作りらしい。

 あと、ヨーグルトがあった。

 

 「じいやの御飯は美味しいでしょ。」

 ヒメカは、サンドウィッチを頬張り、モグモグとさせて、飲み込んだ。

 

 「美味しい。」

 おれは、素直に美味しいと思った。

 

 調味料の組み合わせが、上手なのだろうか。

 バゲッド自体のパンも美味しい。

 具材の焼き加減や鮮度も抜群だ。

 

 「ありがとうございます。」

 じいやは、照れくさそうに頭を掻いた。

 

 「じいやはねえ、料理も出来るし、運動神経も凄まじいし、武道の達人で、頭もいいのよ。だからこそ、あたしの専属使用人なの。」


 ヒメカの話によると、物心つく前から、じいやに面倒をみてもらっているらしい。

 

 カナちゃんも美味しそうに、もぐもぐしていた。

 かわいい。

 

 食事を終えると、着替えたり、顔を洗ったりして、身支度を整えた。

 

 「行くわよ。」

 ヒメカは、出発の声をかけた。

 

 「行ってらっしゃいませ。」

 じいやは、手を振った。

 

 「ルイさんは、来ないんだな。」

 

 「じいやは、車で留守番よ。」

 

 留守番か、大変だな、ルイさんも。

 おそらく、昨日も、車で留守番していたのだろうなと思った。

 

 瓦礫の中を、ヒメカはぐいぐいと進んでいく。

 本当、こいつこわいもの知らずだよな。

 

 「もうすぐ10時よ、配信の準備は出来てるんでしょうねえ?」

 ヒメカは、おれに確認を取った。

 

 いわれなくても、してる。

 ちゃんと、アプリを開いて、待機画面だ。

 

 「配信タイトルと、概要欄はどうするんだ?あとサムネ。」

 

 「タイトルは、旧首都を探索します。【超絶美少女ヒメカ様と天使のカナちゃんの探索】#旧首都 #ライブ配信 #オホ声経ね。」

 

 なんじゃ、そのわけわからんタイトル。

 

 「概要欄には、Witterのリンクと、よかったらゆっくりみてってください。ありがとうございます。と書いておいて。」

 

 おれはヒメカの指示通り、配信画面をセットする。

 

 「サムネは、自然な感じであたしと、カナちゃんが映ってるところを撮って。」


 ヒメカはカナちゃんの近くに行くと、いちゃいちゃしはじめた。

 なんというのか、微笑ましい、姿だった。

 

 おれは、2人の微笑ましい姿を撮影した。

 背景は瓦礫。

 

 「これでいいか?」

 

 「うん。まあまあね。3点ってところかしら。」

 

 3点。

 ばかにしてやがる。

 

 「でも、あたしが美しいから及第点にしといてあげる。1億点よ。あたしの存在がね。」

 

 なんだこいつ、自意識過剰じゃないか。

 しかし、おれはこいつのそういったところも好きなのだ。

 いま、少しトキめいたじぶんがいた。

 

 「はい。10時。配信開始して!」

 

 ヒメカにせかされ、おれは配信ボタンを押した。

 

 「どうも、ヒメカです。旧首都に来てます。今日も元気に探索してきます。」

 

 旧首都を歩いていく。

 どこへ向かっているのかわからないが、ヒメカには行く当てがあるらしく、迷いなく、進んでいく。

 

 「ここね。」

 

 ヒメカは、立ち止まった。

 瓦礫の山だった。

 

 「この瓦礫の下に、地下室があるって、源次郎爺ちゃんからきいてるわ。」

 

 また源次郎さんか。

 

 ヒメカは、瓦礫の間を潜り抜けて、地面を探る。

 

 「危ないぞ。ヒメカ。」

 おれはヒメカに駆け寄る。

 

 「あ、あった。通路よ。」

 

 ヒメカは、瓦礫に隠れていた、通路をみつけた。

 確かに、地下に続いている。

 

 ガサッ。

 

 「危ない!。」

 

 突然、瓦礫が崩れ落ちて、ヒメカに直撃しようとしていた。

 

 「ヒメカ。」

 おれは、咄嗟に、ヒメカに向かって突撃した。

 

 「ハルト?」

 

 ヒメカの心配そうな震える声がきこえる。

 違うだろ。

 おまえは、もっと、お調子ものじゃないと。

 

 あれ、身体が重いな。

 おれ、死ぬのかな。

 

 瓦礫がおれの身体に直撃した。

 血?

 痛いなあ。

 

 人生、なんもいいことなかったけど、ヒメカに会えて幸せだったなあ。

 

 「ああ!あああああああ、ハルトがああああ。誰か、誰か、助けてええ。」

 

 ヒメカが、我を失ったように泣いている。

 助けを求めている。

 君らしくないな。


「かわいい泣き声がきこえるな。こんなところに人か?」


 カラッとした明るい声がきこえる。

 白い、防護服で全身を覆っている。

 

 「ぼくが助けてあげるよ、泣かないでくれ、お嬢ちゃん。」

 

 「誰え、あんたあ?」

 ヒメカは、泣きながらじぶんを取り繕う。

 

 「ぼくはユキ、この辺りに住んでる者だよ。」 

 

 「へ?こんなところ人は住めないでしょ?」

 

 「ま、話は後だ。」

 

 ユキは、おれを観察した。

 

 「あちゃあ、こりゃ肋骨が折れちゃってるね。手と脚もぐちゃぐちゃだ。」

 

 「はやく、地下室へ運ぼう。」

 

 地下室だって?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る