ルイ

「やめろ。おれはおまえの下僕じゃないぞ。」

 

 おれは、いってやった。

 よし、ちゃんといえたえらい。

 

 「はあ?あんた、あたしがいないとただのゴミよ。何の結果も出せないじゃないの。あたしに使われているのが、あんたには丁度いいのよ。」

 ヒメカは、容赦なく、おれの心を抉って来る。

 

 「お前とだって今日会ったばかりだ。なんで、行動を共にせにゃならんのだ。」

 

 「なによ!あたしに逆らう気?あんたはあたしのものなんだから、あたしの為に働いて、一生、仕えていればいいのよ。」

 

 「ちょっと2人とも、仲間割れはよそうよ。」

 

 カナちゃんが、震えた声で、割って入る。

 きっと勇気を出して喧嘩を止めようとしてくれているのだろう。

 喧嘩といっても、しょぼい言い合いみたいなものだが―。

 大人げない。

 

 「カナちゃんは黙ってて。今はハルトのばかと話をしてるのよ。わからせてやらないとダメだわ。」

 

 「おれはおまえと仲良くしたいだけなのに。下僕だなんていうなよな。」

 

 なんだか、じぶんでいってて悲しくなって来た。

 

 「あたしと仲良くねえ。あたしといられるだけでもありがたく思ってほしいものねえ。」

 ヒメカは、少し、気を少し治した様子だった。

 

 「お二人は仲が大変よろしいのですね。じいやは、ヒメカお嬢様のお友達が増えて嬉しいでございます。」

 じいやは、ニッコリと笑っていた。

 

 なあんだ、案外いい人そうじゃん。

 ヒメカの召使、てっきり、ちょっといかれた人かと思ってたけれど、意外に常識がありそうだ。

 

 「誰が、こんなバカと。あたしとハルトのバカには圧倒的な上下関係があるのよ。あたしが絶対的な君主でこいつが下僕なの。」

 

 なんか、もう下僕でいいような気がしてきた。

 こいつと話していると頭おかしくなってくる。

 

 「ごめんな、ハルトくん。お嬢様はいつもあの調子だが、君のことをだいぶん気に入っているようだ。よくしてやってくれ。」

 じいやが、小声でおれに耳打ちした。

 

 悪い気はしないな。

 

 「はい。わかりました。」

 

 「お嬢様につく蠅かと思っていたが、君は大丈夫そうだ。悪いやつではない。」

 じいやは、少し安堵の表情を浮かべた。

 

 ヒメカは心配されているのだとわかった。

 いい使用人がいてよかったな、あいつ。

 

 「なによ、じいやまで、ハルトの味方をするわけ?」

 ヒメカは不満そうに、じいやをみた。

 

 「わたしはいつでもヒメカお嬢様の味方ですよ。ハルトくんも悪い人ではなさそうだ。じいやは、安心しました。」

 じいやは、優しく微笑んだ。

 

 「申し遅れましたが、私、ルイといいます。よろしくお願い致します。」

 

 じいやはルイという名前らしい。

 

 「もう日も跨いじゃったことだし、はやく車に行きましょ。」

 

 「この瓦礫の山を越えれば、すぐのところに車はありますぞ。徒歩5分くらいでしょうかな。」

 

 おれたちは、瓦礫の落下や、転倒、打撲に注意しつつ、車に向かった。

 

 「このあたりの瓦礫もどうにか撤去して、ちゃんと道を作りたいわね。」

 

 道なき道を進む途中、ヒメカは、街の建て直しについてイメージを膨らませ、語っていた。

 なんか、無茶苦茶なやつだが、いろいろと考えているやつなのだと思うと憎めなかった。

 

 瓦礫を出ると、大きな、キャンプカーが停まっていた。

 6~10mくらいの長さがあるように思われる。

 小さなバスのようだった。

 

 「ここで寝泊まりするわよ。」

 ヒメカは、キャンプカーの中に入って行った。

 

 中に入ると、まるでホテルだった。

 

 入口から入るとまず、小さなキッチンと机椅子があり、ダイニングキッチンのようになっている。

 ゆったりとしたスペースで、インターネット対応のテレビが取り付けられている。

 キッチンにはガス台が2台とシンクがあり、電子レンジやポット、IHヒーター、冷蔵庫が設備されている。

 

 奥に進むと通路の右横には洗面所とトイレが、左横にはシャワールームがある。

 

 一番奥には、ベッドがあり、大人2人ほどがゆったり寝られるスペースがあった。

 

 シャアアアアア

 

 シャワールームからヒメカが、お湯を浴びている音がきこえる。

 

 「ヒメカお嬢様は、綺麗好きですからね、外から帰って来るとすぐに、シャワーを浴びられます。」

 じいやは、気を使ってか、話はじめた。

 

 「あたしと、カナがベッドで寝るから、あんたとじいやは、この寝袋つかって床で寝るか、外でテントでも張って寝て。」

 シャワールームから出て来るなり、ヒメカは、いった。


 少し濡れた髪が美しく、見蕩れそうになる。

 パジャマ姿になっていた。


 それにしても、相変わらず、おれに対する扱いが雑だ。

 

 「わかったよ。ルイさん、ぼくたちは外で寝ましょう。」

 

 「そうだな。お嬢様を床で寝かせるわけにもいかない。」

 

 ぼくとじいやは、外に出た。

 

 キャンプカーの横にテントを張る。

 

 寝袋の中に入り、テントの中でおれたちは眠りについた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る