じいや
「ということで、カナちゃんが仲間になりました。よろしくねー。」
ヒメカは、スマホのカメラに向かって、話しかける。
もちろん撮影者はおれだ。
カナちゃんは恥ずかしそうに、俯いていた。
「ほら、カナちゃん。挨拶は?」
ヒメカは、カナちゃんが挨拶するようにせかす。
「カナです。よろしく。」
小さな声で、カナちゃんは精一杯挨拶しているようにきこえた。
「声がちーさい!もっかいいって!。」
ヒメカは容赦なく、カナちゃんに、ダメだしをした。
『やめたげて。』
『カナちゃんかわいそう涙目になってるじゃん』
『必死にやってるじゃん。』
『不憫だ。』
配信のコメント欄でも、カナちゃんに同情する声が集まっていた。
「ひい。コワいです、にいさん。」
カナちゃんは、おれのズボンの裾を小さな手で掴んで、後ろに隠れた。
ヒメカは、射殺すような目で、おれを睨みつけた。
「カナを甘やかすな。こいつには、ちゃんとしてもらわないと困る。」
これはマズい。
ヒメカにとって、結果を出すことが何よりも重要なのだ。
カナちゃんの気持ちなんて知った話ではない。
「でも、ほら。カナちゃんのこういったまだ、あどけないところも、視聴者の皆さまには評判がいい感じですよ。」
おれは機転を利かせて、カナちゃんをフォローする。
「まあ、それもそうだな。なるほど、こういうのも受けるのか。」
ヒメカは、どこか嬉しそうにしていた。
ヒメカはじぶんが気づけていない有益な情報を知ると、嬉しそうにするところがあるらしい。
チャンネル登録者がいつの間にか6万人を超えていた。
同時視聴者数は10万5034だ。
たった一度の配信で、ここまで視聴者を集め、登録者を増やすだなんて、すごい成果だ。
外は暗く、夜の10時を過ぎようとしていた。
「よし、今日の配信はこのくらいにしておこう。明日は朝10時からすぐ配信はじめるから、お楽しみにね。旧首都の探索の続きやるよ。」
ヒメカは、スマホのカメラを目の前に手を振った。
ヒメカからの目配せを察して、僕は配信を切った。
最大同時視聴12万4291
新規チャンネル登録者数6万6908
なんじゃこりゃ!
通知が鳴りやまない。
通知をオフにする。
「大人気になれてよかったじゃない?」
ヒメカは、おれの背中を右肘でかるくドツいて、目を細めた。
人気?
ああ、あなたがね!
おれは撮影係ですよ!
っく。なんなんだ。
たった三分の二日程度で、こんなに距離が近い。
おれはもしかしたら、この女に惚れているのかも知れない。
こんな無茶苦茶な、女に―。
ニコリと微笑む、ヒメカの姿、眩しくみえる。
ああ、恋という病にでもかかったのかも知れない。
悔しい。
おれは、じぶんの恋心がバレないように、取繕った。
気づかれてないよな―。
「で、どうするんだ?一度解散するのか。」
「今日は、一緒に車中泊よ。」
「車がないじゃないか。」
「あるわよ。」
ヒメカはポケットからじぶんのスマホを取り出すと、誰かに連絡を取り始めた。
「じいや。迎えに来なさい。」
じいや?
誰だ。
お嬢様かこいつは。
「優秀な使用人でね。あたしのいうことはなんでもきくのよ。」
「使用人ねえ。ヒメカって金持ちのところの子なんだな。」
「金持ちってほどでもないわよ。」
「家はどれくらいの広さ?」
「ちょっと小さめの遊園地くらいかしらね。あと別荘と、不動産としてのビルやマンションがたくさんあるってきくわ。」
「はは。すごいね―。」
どうやら、ヒメカは、正真正銘のお嬢様ならしい。
やはりあの伝説の源次郎の曾曾孫なだけはある。
「お嬢様。ただいま参りましたぞ。」
じいやなる、ヒメカの使用人の男が、やってきた。
「おお、きたかじいや。」
ヒメカは、両手を振った。
「ヒメカお嬢様!。」
じいやは、黒いスーツ姿のお爺さんだった。
ダンディな容姿で、白髪交じりの短髪。
身長は180㎝ほどの高身長で、できる大人といった雰囲気を纏っていた。
「誰ですか、そこの下賤な男は?」
じいやは、おれを蔑むような目でみて、鼻で笑った。
このクソじじい、おれのことを舐めてやがる。
「ああ、あたしの下僕よ。」
「さすがはお嬢様。男を飼い慣らせるとは、感服いたしました。」
じいやは、涙を流し、喜んでいた。
は?
おれ、こいつの下僕になった憶えないのだが?
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