カナ

 「あたしは、カナ。天使です。」

 

  天使の少女は、カナという名前らしい。

 

 「埋まっていたというより、埋葬されてたんです。」

  

 「埋葬?どういうこと?」

 

 おれは、カナちゃんに、続けて質問する。

 

 「かつて、喘ぎ声戦争で戦略喘ぎ声兵器として利用されたておったのです。」

 

 戦略喘ぎ声兵器だと―。

 教科書でも出て来るものだ。

 おれでも知っている。

 

 『戦略喘ぎ声兵器って実在しておったのかえ。』

 『すげえ。オホ国を戦争から救った伝説だぞ。』

 『あれがなかったらオホ国は、終わってました』

 『歴史の教科書に載ってるやつだぞ。実物が現存しているなんて。』

 

 「使えるわね。」

 ヒメカは、二ヤりと笑みをこぼした。

 

 「失敗作ですけどね。あたしは、喘ぎ声戦略兵器の中でも落ちこぼれでした。てへへ。」

 カナちゃんは、照れくさそうに、顔を少し赤くして頬を緩め、俯いた。

 

 どうやら、カナちゃんは純粋な子らしい。

 

 戦略喘ぎ声兵器の正体がまさか、天使だとは思わなかった。しかもかわいいし、人と遜色のない意識を持ってるようにみえる。

 

 戦略喘ぎ声兵器

 1939年に、戦争の為に作られた人型兵器で、敵国を返り討ちにしたと言われている。

 兵器の詳細や、設計図、映像に至るまですべて非公開であった。

 

 「あたしは、1945年8月15日の病気になりそうなほどの真夏の暑い日に、壊れて埋葬されちゃいました。兵器として使い物にならないと判断されたのでしょう。」

 カナちゃんはどこか寂しそうにいった。

 

 「カナちゃんは、何年生まれ?」

 気になってきいてみた。

 

 「1936年だったと記憶してます。」

 

 ということは97歳。

 こんな子供みたいな見た目で、97歳。

 脳がバグるうう。

 45年には埋葬されてたってことは実質9歳ってことか?

 

 「埋葬中はどういった感覚だったんだ?」

 

 「ずっと長い夢をみてました。空から無数の戦闘機が飛んできて爆弾を落とすんです。あたしは、ずっと喘ぎ声を喘いで、攻撃を防いでました。悪夢です。」

 

 埋葬ってことは死んだということだ。

 つまり、カナちゃんは一度死んでいるということであろう。

 目の前にいる彼女は、一度死んでいる。

 幽霊でもない、蘇生した天使なのだ。

 

 「カナを仲間にしましょう。」

 ヒメコは、カナちゃんの頭を撫でまわした。

 

 「仲間ですか?」

 カナちゃんは、怯えた様子でヒメコの方をみた。

 

 だいぶんヒメコを警戒しているようだ。

 

 「仲間よ。一緒に暮らしましょう。これからオホ国を一緒に探索してくわよ。」

 ヒメコは、にっこりと笑った。

 

 「わかりました。」

 

 「大丈夫なの?カナちゃん。」

 おれは心配になって、話に割って入った。

 

 「お兄さん、もし何かあったら守ってくださいね。」

 カナちゃんは、たどたどしく、上目使いでおれの方をみた。

 

 庇護欲をそそる。

 守りたい。

 

 「いやだったら、いやっていっていんだよ。」

 おれは、念を押す。

 

 「いやじゃ、ないです。助けてもらいましたし。」

 

 「じゃ決定ね。ハルトもカナを甘やかしちゃダメよ。97歳のおばあちゃんなんだから。」

 ヒメカは満足そうに、腕を組んだ。

 

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