天使の少女

「でも、それって結局、オホ声を頼ってないか?」

 

 おれは、ふと疑問に思った。

 ヒメカはオホ声によって、黒い手の呪いを解除したのだ。 

 

 「お経にはお経でしか対抗できないわよ。当たり前のことじゃない。」

 

 「お経で出来るのは、黒い手を呪いを解除するまでよ。復興は科学技術を駆使してあたしたちがやっていくしかない。」

 

 ヒメカは、瓦礫塗れの旧首都をみた。


「技術を開発したり、建物を建てたり、身体を治療したり、理論を作って、実現させていくことは、お経では今のところはできないのよ。」

 

 「今のところは?」

 

 「全自動お経。これがアヘ国やアンアン国で実用化されようとしている。人より賢いお経が、いるらしい。」

 

 なんだそりゃ。

 きいたことない。

 

 「人工知能の技術をお経に応用することで、自らで考え学習し万物を産みだすお経ができるらしい。」

 

 そりゃ人を超えた存在じゃないか。

 

 「それはそうと―。お経に頼りきると碌なことがない。自らの頭で考え、行動するのが大事なのよ。」

 

 ヒメカは、首都の王の城があった場所に入った。

 

 廃墟というよりもう、原型を留めていない残骸だけがあった。

 

 「これだ。」

 

 ヒメカは地面を掘り起こしはじめた。

 

 「何してんだ?」

 

 もうヒメカ、謎行動多すぎて、疲れる。

 

 「みてなさい。」

 

 しばらくすると、地面から、女の子が出てきた。

 

 「誰だそれ。ってか、死んでるんじゃないのか。気味が悪い。」

 

 ヤバすぎる。

 ヒメカは、地面から女の子を掘り起こしやがった。

 

 「大丈夫生きてるわよ。ほら。」

 

 ヒメカは笑顔で女の子の頬をつねった。

 

 「いたた。やめてくださいよお。もうっ。」

 

 かわいい。

 なんだこの天使は。 

 ピンク色のショートヘアで、たれ目をした巨乳だ。

 背中には、白い羽が生えている。

 

 『天使!?』

 『合成か?』

 『ひええ。地面から天使出てきたあああ!』

 『天使の羽かわああ!。』

 

 「どうして地面から少女が掘り起こされたんだ?。頭が追いつかん。」

 おれは、困惑していた。

 

 「あ、この子のこと?」  

 ヒメカは、少女を指差して、横目でみた。

 

 「ふええ。」

 少女はヒメカに指を差してみられて、怯えていた。

 

 「こわがってるみたいだけど?」

 

 「大丈夫よ。この子はねえ、喘ぎ声の天使さんよ。」

 ヒメカは、にんまりと笑って、少女を撫でた。

 

 どうも、よからぬことを考えていそうな笑みだった。

 喘ぎ声の天使さんってなんだよ!

 

 「どうして地面に埋まってたんだよ?」

 

 「知らないわ―。」

 ヒメカは、バツが悪そうにして、言い淀んだ。

 彼女にも知らないことがあるようだった。

 

 「源次郎爺様からの言い伝えでね。」

 

 ヒメカの話によると、源次郎さんの遺言で、彼が死ぬ間際に、「旧首都にある王の城の地面に、天使様が埋まっておられるから、掘り起こして差し上げなさい。きっとおまえたちの力になってくれるじゃろう。」と言い残していたのだという。

 

 その天使が、今目の前にいる美少女だというのだろうか。

 弱弱しく、逆におれたちが守ってやらないといけないような気がする雰囲気を醸し出している。 

 いとけなく、たどたどしい。

 

 「どうも、こんにちは。僕は、ハルト。」

 おれは、腰を屈めて、優しい口調で、話しかけてみた。

 

 「…。」

 少女は、僕にそっと目をやると、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 

 「嫌われちゃったかな。」

 おれは、ショックを受けて落胆していた。

 

 「ごめん。お兄さんのこと嫌いにならないで。」

 気を持ち直して、少女の機嫌を伺った。

 

 「…。」

 

 沈黙が流れる。

 

 「シャイなのよ。でもこんな役に立たなそうなのが、力になってくれるのかしら。」

 ヒメカは、少女のホッペを軽くつついて、二シ二シと笑った。

 

 いい玩具をみつけた時の顔だった。

 

 「人を道具みたいに使えるか使えないかで考えるのよくないぞ、ヒメカ。」

 

 「でも、使えないやつを仕事仲間にしようとは思わないわよ。役に立ってもらわないと、クビよ。」

 

 冷徹なやつだな。

 ヒメカはだいぶん、結果にシビアな性格なのだというのがわかった。

 

 「色んなやつがいた方が結果的には、利益を生み出すかも知れないよ。もしかしたら、この子は、君が知らないことや、僕が持ってないものを持っているかも知れない。」

 

 「随分と寛容な考え方をするのね。ミジンコ以下の脳みその癖に。」

 

 ったく、こんないたいけな少女になんてひどいことをいうやつなんだ。

 

 「どうして土に埋まっていたのか、教えてくれないかな?」

 おれは、めげずに少女にゆっくりと話しかける。

 

 コワがらせないように自然な感じを心掛けた。

 

 「…。」

 

 相変わらずの無視だ。

 

 「無視されてるじゃない。偉そうなこといっておいて、全然、少女から話をきけてなくて草よ。やっぱり童貞陰キャ変態男はやることが違うわね。」

 

 っく。

 こいつ、おれを馬鹿にしたいだけではないのか。

 しかし、少女が心を閉ざしていて、到底口を開いてはくれなさそうなのは確かだ。

 

「お父さんやお母さんはいるのか?、友だちは?、どうやって生きてるんだ?」 

 おれは、とりあえず、疑問に思ったことを、少女に質問していた。

 

「お腹は空いてないか?」

「寝むたくならないのか?」

「天使って、どういう生活を送ってるんだ?」

「綺麗な羽だね、空は飛べるのかい?」

「土の中は苦しかったかのか?大丈夫だったのか?」

「掘り起こして迷惑じゃなかったか?」

 

 あれこれと質問していると、半日が過ぎて、日が沈もうとしていた。

 

『半日かけても、何もじゃべらないとかすご。』 

『ハルトさん、もしかして、嫌われてる…』

『まだやってたのか。』

『まるで拷問だな、少女に同情する。』

 

どうしたものかなあーと考えていると、突然少女は、口を開いた。


「ふああああ。よく寝たああ。ん、どこだここは?」


少女は眠たそうに目を擦って、両手を大きく上げて伸びをして、欠伸をした。


よく寝た?だって。

ってことはもしかして、いままでずっと眠っていたのか。


「あ、そういえば、こわい女の人に髪の毛を掴まれて地面から掘り起こされる、なんかとんでもない夢をみていたような記憶が―、意識が朦朧としているな。」

 少女は、困った様子で、目をしばしばさせていた。

 

 まさか。

 ヒメカに掘り起こされて、恐怖で立って目を開いたまま、気絶してしまっていたのではないのか。

 気絶した状態で無意識で、おれを拒絶していたのか、さらに心が傷つく。

 

 おれはヒメカの方をみて睨んだ。

 

「っく。悪かったわよ。少し強引すぎたのね。反省するわ。」

 

「ごめんなさいね。お嬢さん。」

 ヒメカは、少女相手に深々とお辞儀をして、謝った。


「子供は距離感がわからないから苦手なのよね。」




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