黒い手の呪い

 「さあ。皆様、ここは旧首都オホンヌ。美しき世界一の都だった場所!ご覧ください、この有様を!。」

 

 ヒメカは、いつの間にか配信を取り仕切っていた。

 こいつ、おれなんかよりずっとカリスマ性がある。

 もう同時視聴は1万を超えていた。

 

 「これは、オホンヌが誇った世界一の電波塔 オホヌンの残骸です。」

 

 ヒメカは涙を流しつつ、旧首都の遺産の残骸を紹介していった。

 

 オホヌン電波塔は世界一の高さを誇る電波塔であった。

 

 建物の残骸が、いつ倒れて来るかもわからない危険な場所へ、ヒメカは気にぜず入って行く。


『危ないですよ!』

『気を付けて。』


ヒメカを心配するコメントが流れる。


じぶんはといえば、ヒメカの撮影係になっていた。

ヒメカが果敢に、危険なエリアを探索し、現状を知らせているのを、撮るのだ。


ヒメカは、どんどん瓦礫の中を進んでいく。


「おい、ヒメカ。黒い手の呪いが残ってるエリアに行くつもりなのか?危ないからやめとけって。」

 

 首都の中心部、かつて王が住み、国家の主要な政治や軍事機関が集まっていたエリアは、黒い手の呪いで覆われている。

 

 黒い手の呪いは、防護服を着ていかないと、身体中が毒される。

 濃度によって、1秒で寿命が1ヵ月縮むエリアC、1年縮むエリアB、10年縮むエリアA、即死するエリアSに分かれている。

 防護服を着たとしてもエリアB以上は、殆ど効果はない。

 

 「黒い手の呪いは、お経を読むことで無効化できる。」 

 ヒメカは、静かに、呟いた。

 

 お経って?

 黒い手の呪いを解く事ができれば、大発見だぞ。

 

 『どういうこと?』

 『黒い手の呪いって無効化できるの?』

 『お願いだから、黒い手の呪いに近づかないでください。親が呪いにやられて死にました。』

 

 配信のコメントもざわついている。


 「大丈夫なのか。黒い手の呪いを無効化するお経なんて、きいたことないぞ。」

 

 「黒い手を産み出すお経があれば、解除するお経もないとおかしいだろ。」

  

 

 そんな単純な話ではないように思われた。

 無謀だ。

 

「あたしのひいひいお爺ちゃんがね。お経の研究者だったのよ。源次郎大先生っていってね。去年、152歳老衰でしんじゃったけど、あたしはお経を叩きこまれたわ。」

 

 『うそっ。ヒメカさん、あの源次郎大先生の曽曾孫さんだったの!。』

 『誰、源次郎大先生って?』

 『ググれカス!。』

 『天才的お経学者の方で、近代オホ声経解読の第一人者よ。彼がいなかったら、近代兵器や建造物、工業技術をオホ声で再現することは不可能だった。1881年生まれで、歴史上の人物。』

 『漫画みたいだな。』

 『長生きすぎるやろ。胡散くさ、嘘ちゃう。』

 『源次郎大先生って架空上の人物やろ。そも、152年も人生きれんやろ。』

 

 コメント欄が荒れてきた。

 

 じぶんもヒメカのいうことが信じられなかった。

 妄想か、頭がおかしくなったのだろうかと思った。

 源次郎大先生は、1941年に戦死したと言うのが通説だし。

 

 「まあ、よくみているといいわ。ちょっと恥ずかしいけれど、やるわね。」

 

 ヒメカは恥ずかしそうに、お経を唱え始めた。

 

 「オホの神よ、チンマンの祖先よ、我は今日も元気にオッホオホしておるます。では、皆さんご一緒に、オッホオホ、神様踊ってオッホオホヌ、オンオンいい天気、オンオン晴れの日、快晴!、飛んでけ飛んでけ、黒き呪い、オッホオホありがとうオホです。」

 

 ???

 大丈夫かこの人。

 

 『悲報 ヒメカさんが壊れました。』

 『これはマズい』

 『精神病かな。』

 『うんわかる。現実逃避したくなるよな。』

 『ヒメカさんのオホ声正直、好き。』

 『えっち』

 

 「じゃ行くわよ。」

 ヒメカは、黒い手の呪いのあるエリアCに入って行った。

 

 「死ぬぞ!やめとけって!ヒメカっ!。」

 

 「あたしを信じられないっての?来なさいよ、ちゃんと撮影してくれないと、世の中に現状を伝えられないじゃない!。」

 

 ヒメカは、エリアCに入ってしまった。

 防護服も着ずに。

 

 『ヤバい。通報した方がいい?』

 『こりゃ、早死にしますぞ』

 『はやく、戻ってきええ?』

 

 「もう、どうして誰も信じてくれないの!。もうわかった。」

 

 ヒメカは何を血迷ったのか、奥の方まで走っていった。

 エリアSに入ってしまった。

 

 『やめてええ!』

 『自殺だよ。こんなの』

 

 「ヒメカあああ!」

 

 僕は、ヒメカを追いかけて、黒い手の呪いのエリアの中に入っていた。

 

 「あれ?全然大丈夫だぞ。」

 

 『うそ!。』

 『すごい、これって大発見なのでは?』

 『世界変えられるぞ。』

 

 コメント欄は手の平返しだ。

 

 「だからいったのに。ま、これでわかったでしょ。」

 

 ヒメカは満足そうに頷いた。


 

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