伝説のはじまり
「オホ声経が通用しないからだろ。」
「半分は正解ね。黒い手にやられたところではオホ声による奇跡がなくなってしまう。ただ、それだけが理由ではないわ。」
黒い手には、オホ声は通用しなかった。
通用しなかったどころか、黒い手によって破壊された土地ではオホ声経は全く使えなくなっていた。
てっきりそれが、オホ国衰退の原因だと思っていた。
それだけが理由ではない?
どういうことだ。
「あなたのミジンコほどのしわなし脳では、わからないみたいね。」
もうなんか、慣れてきたな。
むしろ、心地よく感じられてきた。
「気持ち悪い顔ね。このシスコンドM変態男。」
シスコンドMド変態男はちょっと、心に来るものがあるな―。
「ない脳みそを使って、考えてみなさいよ。」
「うーん。人口が減ったからかな。」
黒い手によってオホ国の人口は8割減って2000万人ほどになったのだ。
「違うわよ。単純な話、バカが多いからよ。」
「バカ?」
「オホ国は、オホ声に未だに夢をみてる。けれど、もう時代はオホ声では通用しなくなってきているの。バカなことよ。復興だって地道に街を建設していけば今頃、発展していたことだろうにね。」
オホ国は、未だにオホ声を信仰しており、総理大臣も国民もオホ声を唱えていた。
世界では、人工知能が発展し、我らがオホ国はITにおいて20年以上の遅れを取っていた。
オホ国の新首都は、地方の被害が少なかったところに移されていた。
新首都はオホーヌという名前で、オホ声経によってつくられていた。
「オホ声経典のお経も2000年前のものだ。時代はもう2033年。世界中の科学技術の発展凄まじい。」
バカのおれでもわかった。
つまり、オホ声経典に頼るのをやめて、他国から技術を学び、取り入れなくてはどうしようもないということだ。
オホ声経を使えば、だいたいのことはできる為に飢えることはなく、ある程度幸せに生きていくことはできるが、それでは、衰退の一途を辿るだけなのだ。
「わかってきたようね。目を覚まさないと、この国は他国に喰われるわ。それも運命だと思えば、悪くはないかも知れないけれどね。」
運命か…
確かに、もともとオホ国は世界最弱国家だった。
奇跡的に、近代成長を遂げ、経済大国になったのだ。
そのポテンシャルはあれど、オホ声に頼り切った今、深刻な衰退を迎えていた。
他国からの侵略を幾度となく、防いできたオホ国であったが、2023年の黒い手の襲撃以来、実質アヘ国とアンアン国の管轄にあるようなものだ。
アヘ国は近年大成長を遂げた独裁国家で、いずれ世界一の大国になると言われている。
アンアン国は民主国家で世界一の大国だ。
軍事力、経済力、技術力、あらゆる点において他国の追随を許してこなかった国家だ。
おれたちは、アヘ国とアンアン国に、引き裂かれ、ぐちゃぐちゃにされたのだ。
おれたちは、壁になった。
アヘ国とアンアン国は、衝突していたのだ。
オホ国を壁として、大戦争が起こった。
その切っ掛けが2023年5月3日の、黒い手の襲撃だったのだ。
「オホ国民はもともと、素晴らしく優秀な民族だったのにね。先祖が泣いてるよ。」
ヒメカは、瓦礫に包まれた旧首都を見渡して、涙を流した。
かつて、先祖たちが、命を賭けて作り上げてきた、オホンヌの美しい景観はもはや見る影もない。
「大丈夫。きっと、オホ国は生き残れる。一人一人が考えて、行動できるように切っ掛けさえあれば、変わるはずだ。」
ヒメカは、純粋な瞳を輝かせ、空を見上げていた。
『口だけだったら誰だってできるよ。』
配信をみていた誰かから、コメントが来た。
同時視聴がいつの間にか30になっていた。
『ヒメカさん、かわいいです。』
『いいなあ、ハルトさん、かわいい女の子と楽しそう。』
『応援してます。』
『あたしも、黒い手の生き残りなので、なんだか共感します。』
「うわあ。30人も人が来てる。ありがとうございます。」
おれは嬉しくて仕方がなかった。
はじめての経験だった。
ヒメカは、人を惹きつける魅力のある人なんだな。
「おお。30人集まったか。大切な我らが知恵だ。批判的なコメント、肯定的なコメントも両方嬉しいぞ。これで、色んな人から情報や知識が得られる。あたしたちの、人生はこれからだ。」
ヒメカは、瓦礫に塗れた旧首都を、歩き始めた。
で、結局、ヒメカをおれを、何の駒として利用しようとしているんだ?
「ヒメカー!、何処に向かってるんだ?。」
「呼び捨てで呼んでいいって誰が言ったのよ!失礼よ、ヒメカ様と呼びなさい。」
おれは、スマホを片手に歩いていくヒメカの後をついていった。
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