第3話:〝黒鬼の崩窟〟、攻略開始
結果として、株式会社ミノスとの密談後俺は足立さん(妹)もとい<デス☆アダー>と共に、とりあえず今出現しているコードダンジョンのクリアを目指すことになった。
なんとなく篠田さんに嵌められたような気がしないでもないが、あのままどうすればいいか分からずあたふたするよりは、明確な目標を与えられた方が案外冷静になれた。
とはいえ。
早速、彼女とコードダンジョンに視察がてら潜ることになるとは思わなかった。
ここはコードダンジョン〝黒鬼の崩窟〟の入口。
相変わらず埃っぽい。
「あ、そういえば私のことはややこしいから、名字じゃなくて下の名前のミカって呼んでね! あるいは<デス☆アダー>でもいいけど」
なんてことを足立さん(妹)……じゃなかったミカが言ってきた。
「待ってくれ、そのプレイヤーネームって、真ん中の☆もちゃんと言うんだ!?」
しかも読み方は〝ほし〟じゃなくて〝キラリ〟である。
デス・キラリ・アダー、ってどう考えても言い辛いだろ。
「ちなみにこれの名付け親は篠田さんだよ。元々は〝デストロイ足立〟ってプレイヤーネームだったけど、ダサいから変えた」
「どっちもどっち!」
ミノスの社員のネーミングセンス死にすぎだろ! 思えば、ダンジョンマスターズってタイトルも安直だった! そんな伏線いらねえ!
「カナタ、もしかして緊張してる?」
俺のテンションがちょっとおかしいのに気付いて、ミカが俺の顔を覗き込む。長い睫毛と大きな目がいやでも目を引く。
いや、だからそれだってば! なんか距離が近いんだよ!
それにミカも俺と同じ初期装備である<旅人の服>を着ているが、男性向けのはちょっとダサいのに、なぜか女性用のデザインはヘソ出しかつわりとボディラインが出る感じなので、なんていうか、こう、凄くエロい。
正直に言おう。
俺はコードダンジョンをクリアするという目標をそっちのけで、こんな可愛い子と一緒に遊べることを喜んでいた。
「緊張はしてない!」
「ふーん。ま、全部私に任せなさい! ダンジョンを攻略することにかけては誰にも負けないつもりだから!」
そんなことを言いながら、彼女がストレッチをはじめた。スラリとした身体はしなやかで、どこかアスリートを思わせた。学生の時は何か運動でもしていたのだろうか?
「そういえばミカっていくつ? 俺と同い年っぽいけど」
あれ、でもミノスの社員だからもっと年上なのか? と思ったら。
「ん? 十九だよ?」
「同い年じゃねえか」
「私、高卒でミノスに入ったから」
「なるほど」
「お姉ちゃんのコネでね! ゲーム会社に入れば毎日ゲームできると思ったんだけど、全然だった。詐欺だよね」
「いや流石に大学生の俺でも、そんなわけないって知ってるぞ」
「でも、こうやって仕事でダンジョンアタックできるしいいよね! 」
そう言って、ミカがニコリと笑ったのだった。その無邪気な笑みを見て、俺はなんとなく肩から少しだけ重荷が降りたように感じた。
なんやかんや言って、俺はやっぱり緊張していたのかもしれない。
「じゃ、早速いきますか!」
「え? あ、ちょ、待っ――」
しかし俺の言葉を待たずにミカが通路へとダッシュ。
「あああああ!?」
棘天井ズドーン。
あっけなくミカが俺の目の前で潰されたのだった。ちょっとだけ目を逸らしそうになったが、見ていると死んだ瞬間に青い光となって消えたので、あまりグロくはなかった。
それからしばらくして俺の横に、先ほどと同じ青い光と共にミカが現れた。
「なにあれ!? いきなり即死トラップは酷くない!? どういう風に育ったらあんな罠を置けるの!?」
ミカさん、めちゃくちゃ怒ってる。
「次は躱す!」
「あ、いや、だからちょっと待てって!」
なんて俺の言葉を聞く訳もなく、ミカが再び通路へと突撃。彼女が最初の棘天井を躱して奥へと進むと、俺の視界の端に小さなウィンドウが現れた。
「ん?」
そこにはミカの様子が映っていた。どうやら俺とミカは同じパーティということになっていて、こうして離れていても、相手の様子が画面で見れるらしい。
見ているとミカは長い通路と落ちてくる棘天井を見て、何の躊躇も迷いもなくすぐさま走り出した。いや、無理だってば。
案の定、横のブラックゴブリンが潜んでいる避難場所を無視してまっすぐ走り続けた彼女は、あと一歩のところで潰されてしまう。
いや、そこまでいけるのが逆に凄えよ。どんな身体能力だよ。
「カ~ナ~タ~! 最初の通路でどんだけのプレイヤー殺す気!?」
帰ってきたミカが怒りながら、俺の肩を掴んで前後に何度も揺らした。
「いやだから、話を聞けって! そんなやり方じゃ、一生あの通路で死に続けるぞ!」
「むー……ダンマス内のデータさえあれば」
そうミカが悔しがる。
確かに、トッププレイヤーである彼女は高レベルで、レア装備も、そしてこのゲームにおいてもっとも重要であると言っても過言ではないアイテム、【アビリティジェム】も多数所持していた。
基本的にダンマスでは、レベルが上がってもプレイヤーのステータスはHP……つまり体力しか上がらない。なので攻撃力や防御力などを上げるにはレア度の高い装備を揃える必要があるのだが――このレア装備も個性はあれど、劇的に攻撃力や防御力が上がるものではない。
つまりどれだけレベルを上げてレア装備を揃えても、そこまでステータスは変わらないのだ。
ステータスを上げる方法は一つ。【アビリティジェム】を装備や自身に装着すること。
プレイヤー自身に空きスロットが五つ。そして各種装備にもそれぞれ空きスロットが設定されており、そこに【アビリティジェム】を装着することで、様々な効果が得られるのだ。
攻撃力や防御力を上げるものやスキルや付与効果を追加するものなど、その種類は千以上あり、これによって同じ装備でもプレイヤーによって様々なビルドが組める、というシステムになっている。
「二人とも初期装備だし、アイテムはポーションだけ。レベルは1で【アビリティジェム】もなし」
つまり本当に初期の状態だ。
「その上、このダンジョンの推奨レベル50って高いよね!?」
「まあ、セーフティモードだし、そういうコンセプトだからなあ」
レベル1でも攻略できるようには作ってはあるが……問題はセーフティモードだと、死ぬとそこまでに拾ったものや上がったレベルも全て消えてしまう点だ。
どれだけ上手く先に進めても、死んだら全部パーとなる。
「ってことは、帰還アイテムである【ワープ石】をまずどこかで手に入れて、レベル上げと装備、【アビリティジェム】掘りを繰り返して……って感じだよね」
流石はトッププレイヤー。流れをよく分かっている。
「その通り。ただ、このダンジョンが俺の作ったダンジョンと同じなら、この通路の先にある部屋のギミックをクリアすれば【ワープ石】が手に入るけど、すぐにボスだからね」
「結構短いね」
「ここはボスまでが短い代わりに罠の密度を濃くした、〝初見殺し特化ダンジョン〟だからな」
そういうコンセプトのダンジョンなので推奨レベルは高いが、【ワープ石】を使ったレベリングとマイニング――つまりアイテムや装備集めをしなくても、クリアはできるようにしてある。
その辺りのバランスは抜かりない。
「じゃあカナタがいれば、余裕だね」
「……まあね。だからまずは話を聞いてくれ。まず俺が先行して罠を抜け方を見せるから」
「分かった!」
ミカが笑顔でそう返事した。
素直なのはよろしいがこの子、ちょっと猪突猛進なところがあるから、注意しないといけないかもしれない。
そういえば、ダンマスでの彼女もプレイもそんな感じだったな。ただビルドがガチ過ぎて、それが脅威となったのだが……。
「まずこの通路の突破方法だけど、ただ突破するだけ簡単なんだけど、そうじゃなくて――」
俺の説明を聞いて、ミカがなるほどと頷いた。
「賢いなあ」
「いや、ある程度のプレイヤーなら誰でも思い付くってば」
「私は大体力任せに突っ込むだけだからなあ」
「それでランカーになれるから凄えよ……」
というわけで俺はいよいよ本格的にこのダンジョンの攻略を開始したのだった。
まさか――コードダンジョン配信専用掲示板の片隅で、俺達が話題に上がっているとも知らずに。
*コードダンジョン配信ヲチスレッド:B24F*
・やっべwめっちゃ可愛い子がダンジョン挑戦してるwおっぱいデカいwうはw
・さっさと配信番号を吐け
・パンツ脱いだ
・君の書き込みで見に行ったらガチだった。感謝する
・んだよ、見に行ったらにオス付きかよ。解散
・どっかの有名配信者?
・いや、初めて見るな。二十四時間張り付いている俺が言うから間違いない
・↑寝ろ
・こんな若くておっぱいデカい可愛いおっぱいの子なら二十四時間見れるな
・陰キャニートっぽい男が邪魔。ソロでやってくれよ
・可愛い配信者は貴重だし、一応見ておくか
***
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