八章 我らの守るもの
いや、
過去、二回にわたり、
――二千年前。そして、千年前。それほどの時が立ちながらこの島だけはなにもかわりませんな。
わしは隣に控えるゼッヴォーカーの導師にそう言った。
我ながら
――説明しよう、マークスⅡ。
――
――そうでしたな。千年前のあのときも、あなたからそう教わった。しかし、それも今回で終わる。いや、終わらせる。滅びの定めを覆し、
――説明しよう、マークスⅡ。まさにその通りだ。我々、先行種族の誰もが望み、誰もが為し得なかった悲願。君たち人類がそれを成し遂げるのだ。
――いいえ。それはちがいます、ゼッヴォーカーの導師よ。我々、人類にそれができるだけの力を与えてくれたのはあなた方。あなたたち、先行種族の積み重ねてきた英知と経験を与えていただいたからこそ。人類だけが行うのではない。これまでこの世界に生まれたすべての種族の力をあわせ、
――説明しよう、マークスⅡ。そう言ってもらえたこと、私はとても嬉しく思う。
わしとゼッヴォーカーの導師が話している間にも、マークスⅢは指揮官として矢継ぎ早に指示を下していた。船団が展開し、上陸準備を整えようとした。その矢先――。
水面がボコボコと泡だった。ヌメヌメといやらしい光を放つ魚の頭が現れた。ひとつ、十、百、そして、もっと。あたりの海面はたちまちのうちに、下水のぬめりのようにいやらしい魚の頭に埋め尽くされた。
――
わしは呟いた。
魚の頭に人の腕、人の胴体、そして、クラゲのごとき下半身をもち、
千年前の戦いでも相まみえた
遙かな深海の魔境に住み、浮かびあがっては人を食らう魔物。
その姿を見て、王女サライサ殿下の思念が響いた。
――
「お頼みします、サライサ殿下」
マークスⅢがそう答えた。
王女サライサ殿下が自らの子たちに指示を下した。
――行きなさい、我が子らよ。
その指令を受けて『
「ここは
マークスⅢが叫んだ。
ダンテである巨大な島は海を割って突き進み、轟音を立てて島に接岸した。それを合図と受け取ったかのように
あるいは地上から湧き出るように、またあるいは大気が
しかし、むろん、その姿を見て怯むものなどひとりもいない。それどころか、自らの出番を前に戦意に沸き立っておる。
マークスⅢが叫んだ。
「
マークスⅢの指示に従い、
それを確認してマークスⅢは次の指令を下した。
「『復活の死者』の末裔たちよ! 先行して上陸し、足場を確保せよ!」
ダンテの島と
ふたつの島の間に橋がかけられ、その橋を渡って屈強な体格と強靱な体力を誇る『復活の死者』の末裔たちが
「
マークスⅢの指令が響く。
『復活の死者』の末裔たちは始祖と同様、世にも醜い姿をしておる。じゃが、その体力は人間をはるかに凌ぐ。知性においてもむしろ上回り、精神性においても高貴で誠実。そして、忍耐強い。まさに、外見以外のすべてにおいて人間を越える種族。自らを盾として勢力圏を確保するにはたしかにうってつけの存在。
その頃には
倒せているわけではない。倒せてはいないがしかし、相手を押しやり、遠ざけることで船団が
「
海に追い落とされた
光の弓から打ち出された光の矢が光跡を描いて降り注ぎ、辺り一面を閃光で満たす。それはまるで、夜空一面を埋め尽くす大流星群を見ているかのような光景じゃった。
海に追い落とされた
学士は高らかに笑っておる。
「わははははっ! 見たか、聞いたか、驚いたか! 我らが科学の前に
自信をもつのはいいが……友だちにはなりたくない人間じゃな、やはり。
もうもうと、
「マークスⅢ、
索敵班のひとりが叫ぶ。その声が緊張しておる。無理もない。
「うろたえるな!」
マークスⅢは
その声にいささかの迷いも、不安もない。
「
マークスⅢの指示のまま輸送船が
二本の
その両者の争いはまさに神話世界における巨人同士の争い。その壮大な戦い振りには人の身であることの
――マークスⅢよ。
「騎士マークス」
――船である私は島に上陸し、城に向かうことは出来ん。この場の指揮は私に任せて君は城に乗り込み、
「……はい! この場はお任せします、騎士マークス」
マークスⅢはそう言うと隣に控える――いまにもウズウズと飛び立ちそうにしている――相棒に声をかけた。
「リョキ、行くぞ! 城に乗り込み、
「へっ、待ちくたびれたぜ。そうこなくっちゃよ」
マークスⅢを背中に乗せたリョキが巨大な翼を力強く羽ばたかせ、空へそらへと舞いあがる。マークスⅢは空から全軍に向けて叫んだ。
「いまこそ
マークスⅢはそう叫ぶと自ら先頭に立って城へと向かう。
そのあとを精鋭中の精鋭である決戦兵たちが追っていく。
それは文字通り、
気力、体力、精神力、そして、戦闘技術。そのすべてにおいて選び抜かれた精鋭たちを、さらに過酷に過ぎるほどの環境のなかにおき、人間を越える次元にまで鍛えあげた
わしもまたゼッヴォーカーの導師たち先行種族と共にマークスⅢの後を追い、城へと向かう。そのさなか、騎士マークスと王女サライサ殿下の声が聞こえた。
――ふふ。まさか、二千年の時を経て再び
――はい、マークス。二千年前の戦いではあなたを送り出すことしか出来なかった。ですが、今回はちがう。こうして共に戦うことが出来る。そのことが嬉しくてなりません。
――サライサ……。
――マークス……。
戦場とはとても思えない甘い会話に――。
わしは思わず苦笑した。
しかし、この思いを守るためにこそ、わしらは戦うのだ。
――そう。
わしらは個と個が向きあい、愛しあえる世界を守るために
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