一〇章 人類、救世の種族へ
――新たに犠牲となる巫女を見つけるか、犠牲なしでも滅びを防げる方法を見つけ出すかしない限りは。
ゼッヴォーカーのその言葉に――。
マークスは黙り込んだ。顔をうつむかせ、唇を噛みしめ、両の拳を握りしめ、じっとなにかを考え込んでいた。やがて、顔をあげた。ゼッヴォーカーに尋ねた。
「偉大なるはじまりの種族の方よ。あなたの
「説明しよう、人間よ。私の名は――。ゼッヴォーカーの――だ」
「はっ? なんですって?」
マークスはかの
「説明しよう、人間よ。我らの言語は君たち人間のものとはまったくちがう。単なる発音や文型などではなく、その基本構造そのものがちがうのだ。
「では、あなたのことはなんとお呼びすればよろしいのです?」
「説明しよう、人間よ。私をどう呼ぶかは君が決めるがいい。人間自身の言葉で私を名付けるが良い。その名で呼ばれる限りにおいては我々の個人名の神聖を汚すことにはならぬ」
「では、『
「説明しよう、人間よ。そう呼ぶがよい」
「ありがとうございます。では、
「説明しよう、人間よ。まさに、その通りだ。犠牲を出すことなく
「
「説明しよう、人間よ。この
「では、千年後、
「説明しよう、人間よ。避難すること自体は可能だ。我々は君たち人間を受け入れる。しかし、その数はごく限られる。この
「数百人⁉ たった、それだけだと言うのですか?」
「説明しよう、人間よ。まさに、その通りだ。それに、数の問題を別にしても君にはこの世界で生きることは受け入れられまい」
「それは、どういう意味です?」
「説明しよう、人間よ。この
「そんな……」
「説明しよう、人間よ。我々が滅びを避けるためにはそうするしかなかった。
その言葉に――。
僕は胸が熱くなるのを感じた。
この『人』たちは僕たちを信じ、僕たちに期待をかけ、文字通り、僕たちの『
マークスも同じ思いだった。いや、騎士として、僕以上に強くその思いを受け取っていたにちがいない。だからこそ、騎士の礼を取ってこう言いきったんだ。
「わかりました。ならば、その役割、我々、人類が引き受けましょう」
そうだ、その通りだ!
いいぞ、マークス、僕たちがやり遂げるんだ!
「
マークスはいったん、言葉を切った。
ゼッヴォーカーの
「私を
「なんと?」
はじめて――。
ゼッヴォーカーの
今度はマークスが説明する番だった。
「私は騎士です。秩序や
だからこそ、
マークスはそう言って深々と頭をさげた。
ゼッヴォーカーの
「……説明しよう、人間よ。
ゼッヴォーカーの
目も鼻もない、ステンドグラスのような平面だけの顔。そこから、心の動きなんて感じ取れるはずもない。それでも――。
このとき、僕は確かに、ゼッヴォーカーの
「ひとりとして帰ってきたものはいない。なにがあったのか、それを知る
「どのような結果になるかはやってみなければわかりません。それに、
きっぱりと――。
そう言い切るマークスの姿を見れば、誰であれ考え直させることなんて無理だと悟るだろう。それぐらい、マークスの決意は固いものだった。
「……人間よ。騎士マークスよ。もしかしたら、君ならば
「どういうことです?」
「説明しよう、騎士マークス。君は何十年にもわたり、
マークスはそう言われて驚いたように自分の肩を見た。僕もすっかり忘れていた。でも、確かに、
「説明しよう、騎士マークス。
「もちろんです」
「亡道の影響を受けると言うことは、君自身が
「亡道の影響を受けたこの身を始末してくださると言うのなら、それこそ安心して向かえるというもの。ぜひ、お願いいたします」
そうして――。
マークスは旅立った。
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