四章 騎士の思い
一年に及ぶ死闘のあと、騎士マークスはついに
一年前。この島にやってきたときには海を埋め尽くすほどの大船団だった。そのときには、一千万に及ぶ兵士たちを引き連れていた。それがいまはたった数隻の船。付き従う兵も数千人。
それは確かに、人間の手で
そして、ただひとつ。かわらないことがあった。
それは
ハープをかき鳴らし、
かの
マークスはそんな
「ご苦労さまでした、
ですが、あなたの献身は報われました。
やがて、船団は港に着いた。
そこには『世界中の』と言いたくなるほどの人が集まっていた。どこを見ても、人、人、人。本当に、世界に残されたすべての人が集まっているんじゃないか。そう思わせるぐらいの人の数だった。
人々は歓喜の声をあげて船団を迎えた。どの顔も、どの表情も喜びにあふれ、幸せに輝いていた。
ついに、
騎士マークスの剣によって、葬られたのだ。
その報は高速艇によって一足先に王宮にと伝えられていた。そこから、さらに早馬によって大陸中へと届けられた。文字通り、世界中の人々の耳に届いていたんだ。それこそ、『
旅の講釈師たちが『いまこそ、自分の腕の見せ所!』とばかりに騎士マークスの物語を自分なりの物語に仕上げ、語り、世界中に広めていった。まあ、そこで語られる話はずいぶんと作りごとや誇張、まちがいが混じっていたから本当の姿とは全然、別物だったんだけど。それでも、講釈師たちの活動によって『
それぐらい、人類にとって
その願いがついに叶った。
その喜びに突き動かされ、港には
船が港にとまった。
マークスが姿を表した。船から降り立った。歓喜が爆発した。
「マークス、勇者マークス!」
って、マークスの名前が何度となく連呼された。
その場に集まる人たちを代表して国王と王妃、それに、ふたりの子供たち――王子と王女――が、前に進み出た。これ以上ないと言うぐらいの喜びに満ちた顔でマークスを出迎えた。
「でかした、騎士マークス! よくぞ
国王のありったけの賛辞を、だけど、マークスは首を横に振ってさえぎった。
「お心遣い感謝いたします、陛下。ですが、私にはそのような過分な待遇を受ける資格はありません」
「なんじゃと?」
「
「ふむ、なるほど。しかし、
「弱りきった
「ふむ、なるほど。そなたは
「陛下。第一に讃えられるべきは
「おお、おお、そうであったな。どれ、誰か
王さまは陽気にそう叫んだ。
王さまは気がついていなかった。このとき、マークスの抱いていた気持ちに。
王さまの言うとおり、その日、開かれた宴は『史上最大、空前絶後』と言ってもいいほどのものだった。なにしろ、大陸中から集まった人たち全員が参加する資格を与えられたんだから。
そのせいですっかり食べ物も、資金も、少なくなっていたけれど、その乏しい食糧と資金をかき集めて全員で騒ぎ抜いた。
当たり前だろう?
明日からはもう
底抜けの騒ぎがつづくなか、マークスはひとり、その場を抜け出していた。城の最上階でいまだハープを鳴らしつづける
「
マークスは
「なぜなのです?
「マークスさま」
突然の呼びかけ。その声は――。
マークスの前に立つ
マークスは振り返った。そこには白いドレスを着た若くてきれいなお姫さまが立っていた。
「サライサ殿下」
「『サライサ』とお呼びください。わたしはあなたに嫁ぎ、妻となる身なのですから」
そのお姫さまは王国の第一王女、マークスと結婚することになるはずのサライサ姫だった。
お姫さまの言葉に――。
マークスは背を向けた。
「私にそのような資格はありません」
「……
「
「でも、
「運良く、たまたま、その役割を果たせる立場にいただけです。私の力では
「それでも、軍を指揮し、
「私は……」
マークスは答えた。
「私は何百万という兵士を死なせた殺し屋です。にもかかわらず、自分はのうのうと生き残った卑怯者。そんな資格はないのです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます