04 三品目、魔魚の塩釜焼き-Ⅰ

「魔王復活をたくらむ、魔王の配下め! オレは勇者ヴィッセルだ。かかってこい」


 あぁ、まぁそうなるだろうな。


 俺たちいま、魔王復活のため、動く壁石へきせきを探して全国ぶらり、旅をしている。

 そんな折に出会ったのが、この勇者ご一行。

 ご一行といってもコイツ一人だけだが、勇者と自称するのなら、そりゃあ魔王は敵だよな。


「魔王を復活させて、どうするつもりだ!」


 いかにも勇者、といった格好の好青年だ。

 しかしこういう場合、同じような年の男を出すのは如何いかがなものだろうか。設定として、俺が脇役にくわれてしまうだろう。


「魔王の肉をいただくためですかね」


「なに⁉ 魔王とはうまいのか?」


 え、なんでそこで食い気味なんだ? この勇者。


「違うわよ。魔王なんか食べたってマズいわ。あんなの」


 女神が勇者の疑問に答えた。

 あんなの呼ばわりされる魔王。どんまい。


「私たちは魔王が持っている竜肉が目当てなの。ほら、ドラゴン絶滅しちゃったじゃない? だから、魔王のドラゴンハンマーしか残っていないのよ」


「なるほど……」


 勇者は女神の話に神妙そうに、「納得した」と深くうなずいている。

 いまの会話のどこに、神妙な部分がありましたかね。


「仕方ないな! 今回は見逃してやろう」


「ありがとう、勇者」


 女神と勇者はガシっと互いに手を取り合う。なにやら意気投合したらしい。

 宴を開こうと言ってきた。


 まずい。これは、この勇者は仲間になるつもりだ……!


 なぜなら実はいまここに、最初の村人そのいち——村長と、少し前の森で拾ったチャトラーがいる。え? 前回村長いなかっただろって? いたんです。森は危険だから、依頼を受けた村で待機してもらっていたんだな。


 そんなわけでおそらく、食事イベントを共にすると仲間が増えるらしい。

 これがいままでの考察だ。

 俺としてはこんな好青年がパーティーに加わるのは回避したい。ここは可愛い魔法少女とか、女勇者とかメイドさんとか、巫女さんがいいに決まっている!


「そうねー。今日は宴だから、オードブルが食べたいわ」


「みゃーは、魚がいいみゃ」


「それならば、この先に川があったぞ。勇者のオレがたくさん釣ってきてやろう」


「それならワシの出番じゃな。なに、こうみても若い頃は云々……」


 あぁ、本格的に雲行きが怪しくなってきたぞ。

 全員和気あいあいとしながら、川へ向かってしまった。俺を置いて。


「待ってくれよ、みんなぁ!」


 俺は全力で追いかけた。



◇◇◇



 川にきた。しょっぱい川だった。


「塩の川? 塩辛いな」


「あぁ、これ? これは天界にいる神の涙で出来た川だから」


 へぇ……神の涙の川か。

 女神の言葉にスケールが大きすぎて感想がうまくでなかった。


「勇者よ! これをみるのじゃ!」


「じいさん、やるな。ならオレも」


 村長と勇者がなにやら張り合っている。その横で、しっぽを揺らしながら川魚を狙うチャトラー。全員自由だ。


「みてて。女神たる私の本気を見せてあげるわ!」


 なんの本気だ。釣りで本気をみせられても、なんの意味もなくないか。

 そう思っていたら、意外にも女神は釣りがうまかった。プロかと思うくらい魚を次々とつりはじめた。村長と勇者も驚いている。すごい。やっと役に立ったぞ、女神。


「ぐ……これは……大物ね。川の、ヌシかしら……!」


 女神が釣り具を握りしめ、真剣な顔でいった。

 めんどうなので、詳細は省くが、俺以外をのぞいたその場の全員が女神をささえ、ヌシをつり上げようとしていた。

 ざぱーん。

 あぁ、釣れたらしい。流石に大物だけあって確かに巨大な魚だ。


 そして、そのまま戦闘になった。なぜ。



 ◇◇◇



「なぜ、魚を釣って戦いになるんだ! 女神」


「仕方ないでしょ! あのヌシ、魔魚まぎょだったみたいなんだもの!」


 なるほど、あの魚は魔魚というらしい。

 俺たちはいま、魔魚のひげに足をとられ、宙づりにされている。

 しかし、女神とチャトラーと村長はともかく、なぜ勇者もつかまっているんだ?

 おまえ、戦いで強い系のポジションだろうが。


「たすけてくれー」


 勇者が叫ぶ。勇者にぬめっとした魔魚のひげが絡みつく。すごく嫌な光景になる。

 そういうのは女神に対してやってほしい。

 と、思ったら、こちらもなかなかな光景になっていた。グッジョブ、魔魚。


「しかし、これどう調理しようか」


 魔魚は巨大だ。家一軒くらいの大きさがある。さばくのがきつそうだ。


「フライ、煮物、刺身……いや、刺身はスライムでやったな」


 やはり魚といったら塩焼きが一番うまいか。アユの塩焼きとか最高だよなぁ。


「うーむ」


「きゃぁあああああ! ちょっと! 料理人! なんとかしなさいよ」


 女神がなにか叫んでいる。うるさいな。

 いま、オードブルなメニューを考えてんだよ。黙っとけ。


「塩か……」


 川をみる。そうか、これでいこう。


「よし! 決まった!」


 俺は宙づりにされながらフライパンを取り出す。

 なお、これも先日新調したばかりだ。鉄のフライパンから鋼のフライパンになりました。

 これでもうワンランクうえの、必殺技とか使えそうな気分。

 てなわけで。


「必殺! ——アクア・パッツァァ!」


 輝く水が、刃となって魔魚を切り裂いた。


「やったわ!」


 魔魚が倒れた。倒した魔魚の口から、壁石へきせきが飛んできた。ラッキー。


「打てたよ、必殺技……」


 かっこいいよな、必殺技って。

 昨今では呪文を言わないのが流行りらしいが、俺は結構好き。冒険たるもの羽目を外してワクワクしたい。

 ちなみに、叫んだ技名がまんま料理名だということは、女神たちには内緒だ。


「ところで……この大きさ、どうさばこうか」


 俺が魔魚の前で、悩んでいたら勇者が声をかけてきた。


「それならオレに任せろ! 魚をさばくのは得意なんだ」


「へぇ、意外な特技だな」


 勇者なのに。


「まぁな! 実はオレ、こうみえてこの前まで漁師やっててさ。魚のことならなんでも聞いてくれ!」


 まじかよ。

 漁師から勇者に転職とか、魚のことよりも、そっちの経緯を詳しく聞きたい。

 絶対、漁師やってたほうが安定してるだろ。

 勇者の職種とか、競争率高いぞ。


「なら、頼んだ。適当に切り分けてくれればいいから」


「おう!」


 魔魚は勇者に任せ、こちらは川の水から塩を調達することにした。


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