010 二対一
『変身も解けたみたいだし、これでいいのよね……?』
『はい、そうなのです。魔力はしっかり抜き取って、魔法少女だったときの記憶も適当なものに置き換えられているはずなのです』
気を失った蝶野の変身は解け、制服姿に戻っていた。変身が解ければちゃんと元の服を着ていてくれるのはありがたい。流石に下着姿で放り出すわけにもいかないから。
『まぁ、起きる頃には乾いてる、と思いたいけど無理よね』
服は戻ったが、粘液はそのままである。制服姿になった蝶野は触手から染み出た粘液で全身ぬめりを帯びている。それとも、これも当人には違和感なくすんでくれるのだろうか?
――そんなことを考えて微妙な気分でいた私だが、これがまた決定的な失敗だった。
「おい、何やってんだ……!?」
「ちーちゃんからはなれろ……!」
新たにやってきた二人、鹿甲斐と猪瀬が声を上げた。二人も魔法少女姿である。考えてみれば、蝶野が魔法少女になっているのなら、一緒にいる二人もというのは当然だ。
『これは、言い逃れようも無いわね』
現在のあたしの姿は触手の怪物。しかも、意識を失わせたばかりの蝶野を触手で絡めたまま。これは、敵意を抱かれないのがおかしい状況だ。
『ちょっと、いきなり二対一なんてどうするのよ……?』
『大丈夫なのです、魔法少女なんて僕らの敵じゃないのですよ!』
小声で聞くが、返ってきたのは根拠の無い言い切り。これまで全部相手が戸惑ってたり、不意打ちだったが、面と向かって、しかも二人同時に相手なんてどうやればいいのか?
「いくぞ、しー! まずは、ちーを助けるぞ、援護を頼む!」
「うん、いーくん、前に決めたやり方だね!」
あたしが戸惑う間にも、二人は戦意を高揚させ向かってくる。その表情には、蝶野を救うという意志が強くあり、恐れや怯えは一切無い。
『すぐに分かるのです。むしろ逃げられないように、触手を構えてくださいですよ?』
『いや、どう考えてもあたし達がやられる側でしょ!? それでどうやれって言うのよ!』
これまで教わったのも捕らえた後のことだけで、まともな戦い方なんて一切聞いていないというのに! 自慢じゃないが、あたしは喧嘩なんて慣れてない。そもそも、触手での戦い方に普通の喧嘩が役に立つかどうかもしらないが。
「くらえ、ライトソード!」
「ファイア……!」
言い争うあたし達を意に介さず、猪瀬が手に持ったステッキから光を剣のように伸ばして切りかかり、鹿甲斐が何も無い虚空に炎を生み出してあたしに飛ばしてくる。
まさに魔法少女の戦いというような、魔法を使っての攻撃。
動けず固まるあたしは避けることもできず、光剣によって触手が断たれ、更に無防備なそこに炎が迫りきてぶつか、――ジュッ。
……あれ?
「なっ!?」「えっ!?」
触手に当った瞬間、炎は軽い音を立てて消えた。斬られたはずの触手も痛みは無い。
『ね、言ったとおりです? 斬られた触手も、ほら、このとおりなのです』
そうクゥが言うと、触手の切断面から、にゅるりと新しい触手が伸びてきた。動かすのにも一切違和感が無く、完全に元通りである。
『ふふん、主様の加護によってあんな程度魔術じゃ火傷すらしないのです! それに斬られたところで触手はすぐに再生できるのですよ!』
『先に言っときなさいよ、そういうのは……』
心配して損したというか、なんというか……。
『ではでは、今度はこっちからいくのですよ~!』
そう意気込むクゥに従い、あたしは攻撃をあっさり無力化され呆けた二人を触手で絡めとり、蝶野と同じように無力化するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます