011 魔法拳法リン

『あー、これで一週間、か……』


 花札トリオとの戦いから一週間。倒した魔法少女は合計十二人となっていた。毎日見つけたということではなく、三回ほど複数人の魔法少女達が揃っているのに遭遇した為だ。


『しかし、チートよね……』


 触手姿となったあたしは、十三~十五人目の犠牲者となるだろう魔法少女達を絡め取りつつ、しみじみと思う。

 炎や氷、カマイタチや光の剣なんてものを使って攻撃してきたわけだが、そのほとんどがあたしには効果が無かったのだ。普通の魔法攻撃は全く効かないし、触手の一部が断たれても痛みは無いし、すぐに再生も出来る。


 クゥ曰く、『分泌してる粘液の魔法耐性で、この程度の魔法じゃ効かないのです!』だそうだ。

 流石に細い末端部分などを斬撃なんかされたら斬られてしまうようだが、それでも、すぐに再生するので意味はないのである。……つくづく、詐欺くさい性能である。


「「「ん~~~~……!?」」」


 益体ないことを考えながらも、触手はしっかりと役目を果たしている。魔法少女達の声にならない叫びによって、本日の任務はおしまい。どんなことでも続ければ慣れるものだ。


「さてと、明日は週末だし、久々にゆっくりできるわね」


 そんなことを呟きながら、変身を解いてその場を後にしようとしたとき、声が響く。


「ようやく見つけたわ!」

 

 喜色の滲んだ声。いつの間にか、路地の向こうに少女がいた。ボンボンというのか中華な感じの円い髪飾りで髪を左右に束ねた、どこか気の強そうな雰囲気の中学生ほどの少女。

 その服装は魔法少女服ではなく、緑を基調とした動きやすそうなラフなものである。だが、一般人が入ることがないはずの、魔法少女達が人払いしたここに来る時点で普通じゃない、というか魔法少女がらみなのは確定だ。ならば、あたしの取る対応は決まっている。


「どうしたんですか? あたしは倒れた人を見つけて、介抱していただけなんですが?」


 全力でごまかす。チート染みて楽といっても疲れはするのだ。変身には体力(魔力?)を使うので、何度も変身したくはない。さっき戦ったばかりなのだし、もう家に帰りたい。


「あんたの正体はお見通しよ、ここ最近の魔法少女行方不明事件の犯人だってね!」


 ハイテンションな少女は、あたしにむかってビシッと指を突きつけ言い放つ。だが、言ってることはあっている。望んでやってるわけではないし、認めたくないけれど。

 仕方ないが、やはり戦うしかないのだろうか。戦うのは疲れるが、出来ないわけじゃない。そもそもが、圧倒的にこちらが有利な戦いなのだから。

 そう思い、覚悟を決めたあたしの前で少女は両手を合わせ、言葉を紡ぐ、


「鍛錬(クンフー)――!」


 そう少女が言うと光に包まれ服が消え、変身が始まる。

 けれど、それは普段とは違った。これまで戦ってきた魔法少女達は、皆変身後の姿は差異はあれど、フリルの付いた魔法少女然としたドレスだった。けれど、目の前の少女の変身姿は、それとは全く違ったものへと変貌していた。


 そう、――最終的に緑を基調に金の刺繍をあしらった豪奢なチャイナドレスに。


「魔法拳法(マジカル・クンフー)リン、ただいま見参!」

 

 そう言って、少女は拳をこちらに向けて構える。

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