16 期間限定ミッションとまさかの事態

USOでは、平常時に特定属性が弱点になる敵は少数しか存在せず、主に限定ミッションなどの特殊な条件でのみ出現する敵に弱点設定がされていた。

USOLも同じ仕様であると推測していたミトはそれを見越して、予め黒属性の武器をエリスに造ってもらっていた。

4か所での期間限定ミッションが始まると、ミトはハイリゲンヒューゲルへ向かう。

彼女の読み通り、ハイリゲンヒューゲルの入口近くで遭遇した、平常時に存在しない魔物"ホワイトフォックス"はシュヴァルツブリッツェンでかなりの大ダメージを与えることができた。

惜しくも一番乗りとはならなかったが、ハイリゲンヒューゲルの最高点にある魔法陣から期間限定の"別世界"へ到達した者はミトでちょうど10人目だった。


エルステ・パゴーデではエントランスに立ちはだかる"ヴァイサーリーゼ"に多くの者が苦戦していた。

ヴァイサーリーゼはいわゆる"レイドボス"で、ほかの敵性存在とは比べ物にならないほど膨大な耐久力(PH)を持つ。

黒属性が弱点に設定されていて、挑戦者全員の与えたダメージが累積され、回復手段を持たないなど、挑戦者側に有利な点があるにもかかわらず、ヴァイサーリーゼのPHを表すゲージの変化は微々たるものにとどまっていた。


デモーネンタールには平常時からブラッディウルフやスパイダービートルといった比較的強い魔物が生息しており、それ故にエリスとメイはここを素材集めを兼ねたデートで訪れていない。

そんな場所に、ヴァンピーリンのアンネはさらに強力な魔物を配置した。

黒い蜘蛛"ブラックウィドウ"は糸によって動けなくしたり、噛みついて猛毒状態にしたり、といった状態異常を付与する攻撃で、漆黒の烏"エボニークロウ"はくちばしによる攻撃と素早い動きでプレイヤーキャラを苦しめる。


そして、ヘクセンベルクにも限定ミッションの報酬を求めて、挑戦者たちが迫ってきた。


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ヘクセンベルクまであと少しというところまで来た女性2人組キミとリンは、青いブルーウッドラウスに遭遇。

通常のウッドラウスがプレイヤーキャラに攻撃をしてこないことから、ブルーウッドラウスも同じだと思い込んでリンが剣で斬りつけると、斬られたところから青い体液が噴き出し、リンだけでなくそばにいたキミも体液を大量に浴びてしまった。

体液に毒が含まれていたため、2人は猛毒に冒されて耐久力(PH)が徐々に減っていく。

リンがもう一度斬っても同じ結果になったため、2人はそれ以上手を出さずブルーウッドラウスから離れ、すぐにアイテム"アンチドート"で解毒した。

別の2人組セリとモモは現実世界にいるひるの倍以上の大きさで現れたエーゲルに"吸血"で耐久力(PH)を吸われ、ヘクセンベルクにたどり着くことなく力尽きるなど、ヘクセンベルクは4か所の中で最も、限定フロアの入口への到達が難しいエリアとなっていた。


それでも何とかヘクセンベルクに到着したプレイヤーたちは、通常の山道ではなく期間限定で通れる道を通って"裏口"へ向かったが、そこには大きな岩の魔物"スケアリーロック"が待ち構えていた。

防御力の高さや、ロックシュートなどの強力な攻撃で、スケアリーロックは裏口の突破を許さない。

結局1日目にヘクセンベルクの裏口から期間限定フロアに入ることのできた者は皆無だった。

なお、スケアリーロックは日数の経過とともに各種パラメータが低下するよう設定されているため、序盤は跳ね返されても、中盤や終盤になれば突破して期間限定フロアへ進めるプレイヤーは増えるとエリスは見込んでいた。


だが、期間限定ミッション2日目を開始する前に、エルステ・パゴーデのヴァイサーリーゼに1日目のダメージが反映されておらず、初期状態に戻っているという不具合が発覚した。

運営側は短時間の緊急メンテナンスを経て、期間限定ミッション中止を決断。

エルステ・パゴーデはわずか1日で消滅し、その他の3か所は通常の状態に戻った。

ただし、期間限定ミッションに合わせて用意したフィールド上の魔物だけは、本来の期間中そのまま出現することになり、期間限定の魔物が多いヘクセンベルク周辺には多くのプレイヤーが集まっていた。

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