14 エクレアに魅せられた者たち
次の日、エリスとメイはいつもより早くシュムックカステンへ行ったが、"客"が先に待っていた。
「お待たせしてすみません」
「いいのよ、わたしが早く来すぎただけだから」
「すぐ開けますのでもう少しだけ待っててください」
エリスは急いで入口のカギを開けると、待っていた常連客の1人で、昨日黒属性の短剣の作成を依頼してきた"ミト"を中に通した。
昨日の約束通りにミトが持参してきた案をエリスが確認し、それぞれの案についてエクレアが、どんな素材が必要かとかどれくらいのコストがかかるかをエリスに教え、それがミトにも共有される。
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USOではそれを悪用する者も少なからずいるが、USOLでは今のような職人と客との調整の際、情報の一部が自動的に共有される仕組みになっており、それによって客側が悪徳職人に騙されて不当に高いコストを払わされる事案は激減。
一方で、客側も値切ることができなくなったため、USOLでの(ゲーム内における)金銭的なトラブルはほとんど発生していない。
「じゃあ、この案で決まりね。
エリスちゃんのために、1日でも早く必要な素材を持ってくるから」
「はい、お願いします」
「ところで、エリスちゃんのナビは誰にしたの?」
「エクレアちゃんです」
「わたしもエクレアちゃんよ。
かわいいエクレアちゃんが好きすぎて、ぬいぐるみを"保存用"・"観賞用"・"愛でる用"の3つ買っちゃったわ…。
USOLを始める時は、新しい子にしようかとも思ったけど、やっぱりエクレアちゃん以外を選べなかった…。
でも、エリスちゃんみたいなかわいい魔女っ子をナビとして選べたら、エクレアちゃんと迷うかもしれないし、むしろ2人並べて愛でたいわ…。
あっ…今気づいたけど、メイちゃんはエリスちゃんとエクレアちゃんが一緒にいるところを見られるのよね…。
うらやましい…」
比較的短い時間で1つの案を選ぶことができたため、エクレアに対する愛の重さを語ってから、ミトはシュムックカステンを出た。
ミトを見送った2人は少しだけ休憩してから、通常営業の準備に取り掛かる。
この日、"魔女っ子エリス"を見ようと昨日以上に多くの客が来店し、将来エリスに黒属性の剣やアイテムを作ってもらいたいと言った者はいたが、ミトのようにすぐ具体的な調整まで進むような依頼はなかった。
「エリ、エクレアちゃん…いいかな?」
シュムックカステンのこの日の営業を終え、聖なる森の家に戻ってくると、メイはミトが言ったことを実現すべく、2人にお伺いを立てる。
「いいよ…あーちゃんにはこれまでたくさんのものをもらってきたから、今度は私があーちゃんの望みを叶えるの」
「ゲームシステムが許す限り、メイ様が求めればエクレアちゃんは何でもします…」
エクレアがエリスと同じ大きさになると、エリスとエクレアは並んで床にぺたんと座り、上目遣いでメイを見た。
「か、かわいい…えへへ…わたしだけの…特権…」
この後、メイが応答しなくなったため、現実世界のエリが"対処"してメイを復活させてからログアウトした。
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「エリス、メイ、おかえりなさい…」
「もしかして、エクリプセちゃん?」
「憶えてくれてたのね…うれしい…」
3日間の店休日の初日、ログインしたエリスとメイはエクレア・ノワールではなくエクリプセに出迎えられた。
エクリプセに事情を聞くと、シュムックカステンの営業日はエリスの店舗経営の邪魔をしないよう、通常通りエクレアが表に出て、お店が休みである日のうち1日目はエクリプセがナビを任されることになったという。
残りの日は、エリスが望めば今日のようにエクリプセの出番、特に要望がなければエクレアの出番で、エリスの選択次第では3日連続でエクリプセにすることもできる。
「もし、エリスに選ばれなくても、見苦しい真似までしてエリスの選択を覆そうとは思わないわ。
でも、エリスが大好きな気持ちはメイの次に強いから…できれば3日間、ナビに選んでほしい」
「考えておくね…」
その場での即答はできなかったが、エリスとメイはエクリプセに好感を持ち、2日目と3日目のどちらかはエクリプセを選ぶことにした。
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