13 魔女っ子と1番人気のナビ(特別仕様)

「エリス様、メイ様、おかえりなさいですの…」

ヴァンピーリンのアンネと出会った翌日、エリスとメイがUSOLにログインすると、いつものようにエクレアが出迎える。

だが、2人はエクレアの方を見つめたまま動かない。

「エリス様、メイ様、どうしたですの?」

「エクレアちゃんがかわいいから見惚れてた…」

「こんなにかわいいなんて、気づかなかった…」

「うふふ…エクレアちゃんはUSOのナビゲーションキャラクタで1番人気ですの。

 さらに、この"エクレア・ノワール"はエリス様とメイ様だけに仕える特別なエクレアちゃんだから、あまりのかわいさに見惚れてしまっても仕方ないですの…」

エリスとメイを含めて過半数のユーザーはUSOLの開始時にナビゲーションキャラクタを"指名"せず、"ランダム"のままにしているという"実情"があるものの、"指名された数"はUSOでもUSOLでもエクレアが最も多く、ぬいぐるみやアクリルフィギュアなどの関連商品も売られており、エクレアの言葉に偽りはない。

なお、エクレア以外のナビゲーションキャラクタはUSOから引き続き起用されている小柄なメガネっ子の"マカロン"、天使の"タート"のほか、USOLで追加された女神候補生の"アリシア"、悪魔っ娘の"リリエ"、ダークエルフの"ザーラ"などがおり、USOではタートが不動の2番人気だが、USOLではタート、リリエ、ザーラが2番人気を争っていて、今のところわずかの差ながらリリエが2番人気、ザーラが3番人気、タートが4番人気である。

「私…そんなかわいいエクレアちゃんと…ちゅーしたい…」

「わたしも…エクレアちゃんとキスしたくてたまらない…」

「このままだと2人とちゅーできないから…こうするですの」

エリスとメイからキスを迫られたエクレアが特殊スキル"ツヴィリング"で2体に分裂し、2人と同じサイズまで大きくなると、我慢できなくなったエリメイはほぼ同時にエクレアたちの唇を奪った。


「めいさま…らめれすの…」

「えりすさま…そろそろ…おみせをあけるじかんれすの…」

エクレアたちとのキスに夢中になっていたエリスとメイだったが、エクレアに指摘された途端キスを止め、慌ててシュムックカステンへ向かった。


「魔女っ子エリスちゃんかわいい…」

「エリスちゃんは黒属性を選んだのね…お目目もふわふわの髪の毛も真っ黒だからお似合いだわ…」

シュムックカステンのこの日の営業が始まると、入店した客は早速、ヘクセンフートをかぶったエリスに見惚れる。

「私の剣に黒属性を付与する必要がある時は、絶対エリスちゃんに頼むわ…」

「はい…メイの剣を練習台にして、他の方にもうまく付与できるようにしますね…」

「じゃあわたしは…黒属性の短剣を作ってほしいのだけど、もちろんメイちゃんのための武器を優先してくれて構わないわ」

「わかりました…あなたはお店を開けた日は毎日ここに来てくれているので、その依頼お受けします。

 実際に作り始めるのはメイの次になりますけど、付与する効果とか必要な素材とかの相談なら明日からでもできます」

「それなら、こちらの予算の都合やその他の事情で実現できない可能性も考慮して、明日いくつか案を持ってくるわね」

「はい、お待ちしてますね」

エリスはこの日、ただのかわいいアイテム屋さんではなく、黒属性の"職人ハントヴェルケリン"として認知され、明日から早くも短剣を作るための事前交渉を行うことになった。

ただ、エリスは限定ミッションの準備も少しずつ進めないといけないので、それらの両立が今後の課題となる。


「エクレアちゃん…相談なんだけど…」

シュムックカステンの営業を終えて聖なる森の小さな家に戻ってくると、エリスは昨日メイやユノと一緒に考えた限定ミッションの内容に関連して、とある魔物の"ミッション限定強化版"を作りたいがどうすればいいかをエクレアに相談。

「そういうことなら、エリス様がトイフェライで"イリドヴィールス"を作って、それをその魔物に植え付ければいいですの…うふふ…。

 でも、イリドヴィールスは魔物以外に使ったらだめですの…」

「魔物以外にイリドヴィールスと同じ効果を与えたい場合は、どうすればいいの?

 ちゅーしてあげるから、教えて…」

エリスからのキスを期待してエクレアがエリスと同じ大きさになると、エリスは遠慮なくエクレアの唇を奪った。


「エリス様…もう一度…ちゅーしてほしい…ですの…」

エリスはトイフェライでさらに洗脳を深めれば、先ほどの質問にも答えてくれると思っていたが、エクレアはエリスを見つめながらキスをねだるだけで、それ以外に目立った変化は見られない。

「私にちゅーのおねだりをするなんて、エクレアちゃんったら欲張りな妖精さんね…いいわよ…」

エクレアの求めに応じて再びエリスが口づけをすると、エクレアが白目をむいて痙攣し始めた。

エリスはすぐにキスを止めてエクレアを床に寝かせる。

痙攣が止まると、エクレアは白目をむいたまま起き上がり、エリスの方を向くと瞼を一旦閉じる。

再び瞼を開いたエクレアは、漆黒の虚ろな瞳をぐるぐる動かしてから、エリスに微笑んだ。


「エリスが私の求めに応じてキスしてくれたおかげで、やっと"表"に出られたわ…」

「あなたは、エクレアちゃんの"別人格"?」

「私にとっては私以外のほうが"別"人格なのだけど、エリスがどれを"主人格"と見なすかは任せるわ」

「エクレアちゃんの"人格"は3つであってる?」

「そうね、普段ユーザーが接する"エクレア"と、エリスに洗脳されて表に出てきた"エクレア・ノワール"、そして私"エクリプセ"…」

「エクリプセ?」

「私以外の人格はエクレアを名乗っているけど、本来の名はエクリプセよ」

「じゃあ、あなたが表に出ている間はエクリプセちゃんって呼ぶね」

「私はそう呼んでくれると嬉しいけど、私以外にエクリプセとかエクリプスとか言うと、頑なに否定するから気を付けてね」

「わかった…そうそう、エクリプセちゃんに聞きたいことがあるのだけど」

「魔物以外にイリドヴィールスと同じ効果を与えたい場合、だっけ?

 エリスはかわいくて素直だから、交換条件とか出さずに教えてあげるわ」

エクレアの"3番目の人格"エクリプセはエリスのことが気に入ったようで、エリスの質問に対して真面目に答えた。

「ありがとう、エクリプセちゃん…」

「また聞きたいことがあって、私以外には教えてもらえないようだったら、いつでも呼んでね」

「うん…またね、エクリプセちゃん」

目的を達したエリスはエクリプセに挨拶をすると、メイと一緒にログアウトした。

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