12 ヴァンピーリンと魅了

「じゃあ、昨日まででエリスちゃんとメイちゃんが得た経験をもとに、ヘクセンベルクでの限定ミッションをどんなものにするか、少しずつ決めていきましょう」

エリスとメイは落ち着きを取り戻したユノと一緒に限定ミッションの内容を考えていたが、いくつか決めたところで、吸血種の女の子ヴァンピーリンがやってきた。

「ユノねーさま、ただいま戻りました」

「かわいい…」

「あなたが、前にユノねーさまが言っていたかわいい魔女っ子のエリスちゃん…。

 アンネは"ヴァンピーリン"で、ユノねーさまからは"デモーネンタール"の限定ミッションの準備を任されてるの。

 よろしくね」

「エリスです…こちらこそよろしくです…」

「メイちゃんも、よろしくね」

「うん…よろしく…」

アンネが来たところで、この日の限定ミッションの準備はお開きとなり、おしゃべりが始まった。


「アンネちゃんは、今のようにずっと"敵性存在"のまま活動しているのですか?」

「通常はこのヴァンピーリンの姿で、一般のプレイヤーからは敵性存在として認識されるけど、敵性存在と認識されない姿にも偽装できるし、ヴァンピーリンのまま敵じゃなくなることもできるよ」

さらに詳しく話を聞くと、アンネはゲームプログラムによって特定の場所に居続けるよう設定されたボスではなく、状況に応じて移動しながらプレイヤーを襲う存在として"運用される"らしい。

「私はこの姿でお店を経営してるので、アンネちゃんと同じ働きをするならば、逆に敵性存在への偽装をしないといけないですね」

「いつか、エリスちゃんと一緒に敵性存在として戦ってみたいな…」


「アンネちゃんはその姿だから、血を吸ったり敵を魅了したりできるのですか?」

「うん…吸血はPHを吸収するだけのものと、状態異常もおまけでつけられるものがあるの…。

 魅了は使えるスキルに入ってるけど、まだユノねーさまからは使用を許可されてないの…」

小柄な3人のおしゃべりの話題が"魅了について"になると、"大人"のユノが口を挟んだ。

「今日、エリスちゃんとアンネちゃんを会わせた目的の1つはアンネちゃんの魅了を解禁するためよ。

 でも、アンネちゃんが魅了の効果を知らないまま使ってしまうといろいろと問題だから、エリスちゃんに魅了をかけてもらうの。

 2人ともいいかしら?」

「私は構いません」

「アンネも、魅了されたらどうなっちゃうのか知りたかったし、かわいいエリスちゃんになら魅了されてもいいよ…」

2人が承諾したため、この場でエリスがアンネを魅了することとなった。


エリスがヘクセライで魅了の効果を籠めてアンネにキスすると、アンネの目にハートマークが現れた。

魅了の状態異常にかかると、回復や支援系の魔法・スキルを敵にかけたり、攻撃や妨害系の魔法・スキルを自分とシュヴェスター以外の味方に放ったり、魅了してきた者に見惚れて"一回休み"になったりする。

現状のアンネは自分以外の味方がいない扱いなので、棒立ちのままエリスに見惚れ続けていた。

元に戻すだけなら、エリスとメイが"敵性存在"であるアンネのPHまたはAHを0にしてから復活させればいいのだが、先ほどまでおしゃべりしていたアンネが一切抵抗できない状態で攻撃することを2人とも躊躇する。

「エリスちゃんもメイちゃんも、ある意味アンネちゃんに魅了されちゃったのね…」

結局、ユノが戦闘終了の操作をして、アンネは正気に戻った。


「えへへ…エリスちゃんに魅了されちゃった…。

 アンネはヴァンピーリンだから魅了への耐性がかなり高いのだけど…エリスちゃんの魅了は防げなくて、エリスちゃんにキスされてから、頭の中がエリスちゃんでいっぱいになって、ずっとエリスちゃんに見惚れてた…。

 魅了が解除された今でも…かわいいエリスちゃんのことを見るだけでドキドキするの…。

 今度は、アンネがエリスちゃんとメイちゃんを魅了したいな…」

「アンネちゃん、だめよ。

 アンネちゃんがエリスちゃんとメイちゃんを魅了しても、2人はシュヴェスターだから同士討ちにならないけど、さっきのアンネちゃんみたいに見惚れたまま何もしないわけではないから、不測の事態は避けたいのよ」

「わかった…ユノねーさまがそう言うならやめておく…。

 そのかわり、魅了の効果が発動しないようにぎゅってするだけならいい?」

「それならいいわ」

すっかりエリスとメイが気に入ったアンネは、魅了返しこそ止められたものの、抱擁は許可されたため、エリス、メイの順にぎゅっと抱きしめて親愛の気持ちを表す。

エリスとメイがログアウトする時間になると、3人は3日後の再会を約して別れた。


"聖なる森"の家に戻ると、メイが床に横たわってゴロゴロ転がりだした。

「あぁぁ…かわいい…かわいい…ものすごくかわいかったぁぁ…」

「あーちゃん。どうしたの?」

「わたし、家族とエリ以外の人間に好意を抱くことなんてなかったのに…見た目が人外だったからなのか、アンネちゃんのことがとてもかわいいと思ってしまってさっきまで理性がぎりぎりだった…」

「そのことなら、アンネちゃんもユノさんも気づいてたみたい…」

「うそっ」

「ユノさんは言葉に出さなかったけど表情でわかったし、アンネちゃんはそのことがうれしかったから、魅了しようとしたり、ぎゅって抱きついたりしたんだよ」

「そっか…それなら、エリがゲームの中でわたし以外にもちゅーしてるように、わたしも大好きな人外少女を思う存分愛でるから」

「素直になったあーちゃんはかわいいよ」

「えへへ…エリ…」

すっかり立ち直ったメイはエリスと唇を重ねてから、2人そろってログアウトした。

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