11 漆黒の少女と赤い盾

エリスとメイが洞窟には不釣り合いな扉を開くと、部屋の奥には頑丈な黒い箱があり、その手前には黒い箱を護るように、赤い亀の姿をしたボス"ロートシルト"がいた。

ロートシルトは見た目に反した素早い動きでエリスに襲いかかってきたが、エリスは少し反応が遅れたものの、敵の先制攻撃をかわす。

その隙をついて、メイが魔法で攻撃を仕掛け、少しずつロートシルトの耐久力(PH)を削った。


エリスはヘクセライでロートシルトの攻撃力や防御力を下げつつ、ロートシルトからの攻撃を避け続ける。

すると、ロートシルトは標的をメイに切り替え、甲羅を向けて激突してきた。

メイは少なくないダメージを受けながら、敵が近づいたことで今度は剣による攻撃を試みたが、やはりロートシルトは見た目通り物理攻撃に対する防御力がかなり高く、エリスが何回かヘクセライで防御力を下げても、魔法攻撃よりも与えたダメージは少ない。

ロートシルトはメイの攻撃に動じることなく、反撃として口から炎を吐いた。


「カメェェェッ!」

メイが炎に包まれた瞬間、激高したエリスはAHを消費して強力なヘクセライをロートシルトに向けて放つ。

エリスのヘクセライが炸裂すると、ロートシルトとその周辺にあるものは凍りついたように動きを止め、ヘクセライの"余波"によるものか、メイを包んでいた炎はすっかり消えていた。

エリスはピクリとも動かないロートシルトに歩み寄ると、高く跳び上がって思いっきり踏みつける。

エリスの踏みつけが"とどめ"となってロートシルトは消滅し、エリスとメイは黒い魔石と白い魔石、それに素材として"赤い甲羅"を入手した。


「エリ…すごい…」

PH残り13で何とか行動不能を免れたメイが近づくと、いつも通りの表情に戻ったエリスは、最愛の人に抱きついた。

「メイ…よかった」

すぐにアイテムでメイのPHを回復させ、エリスはメイの手を取って部屋の奥に行くと、2人で黒い箱を開ける。

中には"アイゼンハマー"が2つ入っていた。

「武器としてはあまり役立ちそうにないけど、エリはこれで何か新しく作れるようになるかもね」

「もしそうなら、メイのために何か作りたいな…」


しばらく雑談した後、ボス部屋から出たエリスとメイの前に突然、"フォーゲルショイヒェ"が2体現れた。

だが、2人は動揺せず、緩慢な動きでとても"奇襲"といえないような敵の攻撃を余裕でかわす。

メイが1体を袈裟斬りにし、もう1体はエリスがクロスボウで足を射抜いて動きを止めた。

エリスが足止めしたフォーゲルショイヒェを胴斬りで仕留めると、メイは一息つく。

「あーちゃん…かっこいい…だいすき…」

駆け寄ってきたエリスと唇を重ねようとしたが、先ほどまでのボス部屋と違って他のプレイヤーに見られる可能性があるため、抱擁だけにとどめた。


この後も危機に陥ることなく、エリスとメイは無事シュテルンシュタットまで帰ってくることができた。


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ヘクセンベルクの下見を終えたエリスとメイは次の日、ユノに報告。

「ボス戦はわたしも見ていたけど、エリスちゃんの"アプグルント"はすごかったわね…」

「ユノさんに見られてたなんて…」

「あれは具体的にどういう効果があったのですか?」

「アプグルントは"深淵"を現出させる術で、基本の効果は相手のAHを減らし、追加で暴走させる場合があるのだけど、メイちゃんの炎を消すような"戦闘区域内での黒属性以外の属性攻撃・属性魔法無効化"の効果はラスボスや隠しボスクラスでないと出せないはずよ。

 エリスちゃんが本気を出したらそのレベルまで達するのね…」

(※状態異常【暴走】:自分以外の存在を敵味方関係なく攻撃対象とする。

 また、物理攻撃力が上がる。)

(※戦闘区域内での黒属性以外の属性攻撃・属性魔法無効化:正確には、赤・青・緑・白属性が付与されている攻撃および当該属性の魔法の効果が打ち消され、使用もできなくなる。)

「エリがそんなにすごい能力を持ってるなんて…」

「あんなの…"メイのため"じゃないと使えない…」

「えへへ…わたしのためだけなんて…うれしい…」

頬を赤く染める"姉妹シュヴェスター"の様子を見て、ユノの"中の人"はあまりの尊さに床を転がりながら悶え、その影響でユノも一時的に奇妙な動きをしたが、"2人の世界"を壊すような言動には至らず、2人にも気づかれずに済んだ。

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