10 魔女の帽子と山の下見

「エリスちゃんは普段、人前でヘクセライやトイフェライを使わないようにしているみたいだけど、ヘクセンベルクには通常時でもボスがいて、ボス戦はエリスちゃんが他の人と意図的に組まない限り2人で臨めるから、遠慮なくヘクセライを使っていいわよ。

 あと、今後のことも考えて、エリスちゃんにはこの"ヘクセンフート"をあげるわ」

エリスはユノから、ヘクセンフートそのものは特別なアイテムではなく、これによってカトーデの加護を得て黒属性のアイテム(武器は除く)が作れるようになることや、エリスに与えたヘクセンフートは"通常版"の効果に加えてヘクセライの制御機能を搭載し、"現時点で使うべきでないもの"は選べないようにしていることなどの説明を受けた。

「先端を折り曲げたり、リボンをつけたりはエリスちゃんの好きにしていいわ。

 そのままでもかわいいけど、エリスちゃんなりにアレンジするともっとかわいくなるわよ」

さっそくヘクセンフートをかぶってみたエリスの愛らしさにメイとともにしばらく見惚れていたユノだったが、我に返ると、帽子のアレンジについてアドバイスした。


教会から出ると、2人はその日のうちにヘクセンベルクの手前まで行ってみた。

ゲーム内におけるご都合主義的な仕様で、エリスが意図的に取る動作をしない限り、激しい動作をしてもヘクセンフートは脱げなかった。

また、通常の敵との戦闘で、使える"敵の魔法・特殊スキル"がかなり制限されていることを確認。

エリスは自分が意図せずゲームバランスを崩したり、USOLを続けられなくなったりするような事態は避けられると判断し、内心で安堵した。


ヘクセンベルクの近くには"ライトビースト"や"マリーエンケーファ"といった、これまでより少し強い魔物が出現したものの、手に入れた魔石をすべてつぎ込んで強化したメイはそれほど苦戦せずに倒すことができた。

また、途中リンクスと遭遇した際には、

「かわいい…近づいてもふもふしたい…」

と言って近づきかけたエリスをメイが、

「向こうが警戒してわたしたちを敵と認識してしまったら、わたしがあれを倒さないといけなくなるから、遠くから見るだけにしよう…」

という言葉とともに何とか自重させる一幕もあった。

なお、マリーエンケーファはドイツ語由来の名称から推測できる通り、USOLで追加されたてんとう虫型の魔物である。

(英語由来の名称がつけられた魔物の大半は既存のUSOから引き続き使われている。)


不自然に足元からカラフルな植物が姿を消し、荒れ果てた地面になると、エリスとメイの視線の先には枯れ木と土、岩だけで構成されているように見える"魔女の山"がそびえていた。

そこがダンジョン"ヘクセンベルク"の入口。

「今日はここまでだね」

メイのその一言にエリスは首を縦に振ることで応え、2人は来た道を引き返した。


----


翌日、エリスとメイは再びヘクセンベルクの入口までやってきた。

今日はそのまま前進し、緩やかな坂道を2人で上る。

魔物が出現しない設定になっているのか、細いをしばらく歩いた先にある洞穴まで2人は一度も魔物に遭遇しなかったが、洞穴に入ると早速"バーネットモス"が襲ってきた。

メイが落ち着いてファイアボールを放ち、モスたちを焼き尽くす。

通常のフィールドにも現れるロングファーラットやストライプドスネークはもはやメイの敵ではなく、一撃で魔石に変えられていった。

明らかに怪しい扉を開け、階段を下ると、次の2フロアではバーネットモスに加えて"ファイアアント"や"レッドスパイダー"が行く手を阻み、ご丁寧にもこの先の魔物が赤属性であることをプレイヤーに示唆していた。

エリスは通常戦闘中、攻撃役としては無力だが、囮役など自分の能力でできる限りメイの補助をしており、戦闘中や終了後にメイの耐久値(PH)が減っていたらアイテムで回復するなど、ひたすらメイに尽くしていた。


3回目の下り階段の先には、いかにもボスがこの奥にいそうな、装飾付きの扉がある。

「エリ、行くよ」

エリスが頷いた後、2人は力を合わせて初めてのボス戦に臨むため扉を開いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る