6 湖畔デートと"変化"の兆し

エリスとメイは次の休業日、ハイリゲンヒューゲルで話した通り、シュテルンシュタットの西にある湖へ向かった。

この日最初に遭遇した魔物は、ゲーム内でこれまで見たことはなかったが、"現実世界"でなら見覚えのある姿。

「これ、大きなダンゴムシかな?」

「そうみたい」

"ウッドラウス"はエリスが言った通り、ダンゴムシが巨大化した魔物だった。

「今のところこちらには攻撃してこないみたいだし、他の魔物に警戒しながら通り過ぎよう」

「うん…エリはこっちを歩いて」

今日のエリスたちの目的は魔物狩りではないので、2人は慎重にウッドラウスの横を通過。

幸い、ウッドラウスから離れるまで他の魔物は現れず、ウッドラウスもエリスたちに攻撃してこなかった。


モーントジッヘルゼーまでの道のりで、エリスたちはもう1体ウッドラウスと遭遇したが、この時も2人は向こうから襲ってこなかったため、何もせずすれ違った。

その次に遭遇したストライプドスネークはエリスに狙いを定めて急接近してきたので、

「魔物ごときが…エリに近づくな!」

エリスとの楽しいおしゃべりを中断されたメイは一撃で致命傷クリティカルダメージを与えて魔物を退けた。


モーントジッヘル湖に着いたエリスとメイは湖畔にある"岩のベンチ"に腰かける。

「きれいな湖だから、湖水浴をしたくなるけど…」

「学校のようなやむを得ない場合を除いて、エリの水着姿は家族とわたし以外に見せてほしくない…」

「私も…メイの水着は私が作って、私だけのために着てもらうから…ここは眺めるか、手や足で水に触れるくらいだね」

エリスたちは東側の湖畔にいて、西側の湖畔に見える森が気になった。

「あの森、何かありそう…」

「でも、ゴブリンの集落とかがありそうで、もし当たっていたらわたし、エリを守り切れないかもしれない…」

「メイがそこまで心配するなら、今日は行かないでおこう」

森の探索をあっさりと諦めた2人は足だけ湖水に浸したり、森に近づかない程度で湖の周りを歩いたりしてデートを楽しんだ。


帰りはほぼ来た道を戻ったが、2人は一度もウッドラウスに遭遇しなかった。

シュテルンシュタットに戻った際に、ウッドラウスの"行方"を推測してしまったエリスは、休み明けの営業日に"シュムックカステン"へ来た客がウッドラウスについての話をしており、危惧した通りの結果になったことを知った瞬間、自分の中で何かが壊れたように感じたが、本人以外にエリスの"変化"に気づく者はいなかった。


----


"新規開店キャンペーン"が終わるとシュムックカステンの利用客は減ったが、最大の要因は"割引"がなくなったことであり、エリスとメイでなくてもある程度予測できた。

他でも同額で売っているものを買うだけであれば、引き続きシュムックカステンに来てくれる客も少なからずおり、このままであれば経営が行き詰まるような状態ではないが、素材の仕入れに使う経費を差し引いた利益もほとんどないに等しいため、2人は他にはない新商品の開発を含めた"テコ入れ"を欲していた。


「メイ…明日、例の教会に行こうと思うのだけど、いいかな?」

「エリ1人で行かないなら、いいよ」

「もちろん、2人でだよ」

そういう事情も一因となり、2人は2日間の営業を終えると、次の日に幾何学模様のシンボルを掲げた教会を訪ねた。


その教会は黒の女神"カトーデ"を祀っており、中で働いている修道女も黒を基調とした衣服を着ている。

他のプレイヤーがいないことを確かめてから、エリスが修道女の1人に幾何学模様のカードを見せると、

「ご案内します…ついてきてください…」

修道女は突然操り人形のような状態になり、奥へと歩き出した。

かなり奥まった場所まで連れていかれた2人が案内された部屋の扉を開けると、

「エリスちゃん…よく来てくれたわね…」

ゲーム開始直後に会った時と同じ姿のユノが待っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る