5 初めての戦闘

エリスとメイは10日目も"シュムックカステン"を店休日として、売り物のアイテムを作成。

昨日採取した小さな花や(希少種ではない)クレーも使って、標準の回復アイテムよりも少し効果が高いものを作り、売り物に加えた。


11日目、3日ぶりの営業となったシュムックカステンには営業2日目と同じくらい多くの客が訪れ、大半の客は早速新商品を購入していった。

12日目(営業4日目)に店を閉める頃には、営業2日目と同様に在庫がわずかになっていたため、今後は基本的に2勤2休、場合によっては2勤3休にすることを2人で決め、まず明日から3日間は店休日にすることを紙に記して出入口の扉に張った。


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13日目に遠出の準備をしたエリスとメイは14日目、シュテルンシュタットの市門シュタットトーアを出ると、南にあるハイリゲンヒューゲルに向かった。

エリスはUSOにおける主要な攻撃手段である剣と魔法が使えないものの、耐久値(PH)と敏捷性(AG)の高さを生かせば、おとりとしてメイのサポートができる。

武器はないよりましということで、遠距離攻撃用のクロスボウを用意。

普通に剣も魔法も使えるメイはロングソードを持ってエリスの前を歩いた。


ハイリゲンヒューゲルまでの道のりの中間点付近までは、エリスとメイが魔物と遭遇することはなかった。

だが、ついに2人へ魔物が襲いかかった。

USOにおいてほとんどのプレイヤーが最初に遭遇する魔物は、森に生息するゴブリンだったが、USOLではシュテルンシュタットからある程度離れた草原地帯で最初に魔物と遭遇する可能性が高く、草原地帯にゴブリンはいないため、最初の相手は別の魔物になる。

2人にとっての初戦闘の相手は、ロングファーラットだった。


ロングファーラットはエリス目掛けて突進してきたが、それに気づいていたエリスは素早く身をかわす。

隙だらけのロングファーラットをメイが襲い、ロングソードの一撃で仕留めた。

「エリの攻撃力や防御力が著しく低くても、魔物の攻撃が当たらなければどうということはないものね…」

メイに斃されたロングファーラットは黒い魔石に変わって、2人とも所持品に黒い魔石が1つ加算された。


USOLには(前作を含めて)経験値を蓄積してレベルアップする概念はなく、各パラメータは魔物を倒した際に得られる魔石で強化する。

魔石は黒いものと白いものがあり、黒い魔石よりも白い魔石のほうが手に入りにくいため、パラメータ強化に必要な魔石の数も黒い魔石よりも白い魔石のほうが少なく設定されている。

魔石は売却してゲーム内通貨に換えることもでき、魔物を倒しただけではお金を入手できないUSOでは、時にはパラメータアップを後回しにしてでも魔石を売ってお金を工面しないといけないこともある。

生産職のエリスの場合、店舗経営による収入があり、今のところ順調に稼げているのでそこまでする必要はなさそうだが、油断して浪費するとそのような事態に陥ることもないとはいえない。


さて、今日のエリスとメイの目的は魔石集めではないので、2人は寄り道せずにハイリゲンヒューゲルを目指す。

2人がロングファーラットの次に遭遇した魔物は、レオパードスラッグ。

かっこよさそうな名前だが、斑模様の大型ナメクジである。

メイは顔をしかめたが、エリスを自分の後ろに下がらせると、右手の人差し指をレオパードスラッグに向けて、

「ファイアショット!」

赤属性の初級魔法の1つによって小さな火の弾を放つ。

火の弾は大きな的に命中したものの一発で仕留めることはできなかった。

ただ、レオパードスラッグの動きは鈍いため、メイは近寄られる前に2発目を撃って、レオパードスラッグを魔石に変えた。


3回目はロングファーラットが断続的に2匹襲ってきた。

1匹目は最初の戦闘と同じように、エリスが攻撃をかわして、その隙を突いたメイがロングソードで討ち取り、2匹目にはエリスがクロスボウで攻撃を試み、攻撃力が弱すぎてほとんどダメージを与えられなかったが、動きを止めた敵をメイが確実に仕留めた。

戦闘終了後、所持品には素材としてロングファーラットの毛皮が追加。

攻撃の際には自分の無力さに暗い表情をしていたエリスだったが、戦闘終了後に魔石だけでなく素材も入手できたことで明るさを取り戻した。


その後も行く手を阻むロングファーラット、レオパードスラッグ、ストライプドスネークをことごとく蹴散らした2人は、メイがロングファーラットとストライプドスネークから1度ずつ攻撃を受けたもののダメージは軽微で、エリスは無傷のまま、目的地のハイリゲンヒューゲルに到着した。


「ハイリゲンヒューゲルには魔物が出ないそうだから、まずは一安心ね…」

「とりあえず、ここまでエリが無傷で済んでよかった…」

「でも、メイは…大丈夫?」

「体の動きに影響はないから、ここを出る前に"ヒーリングメディシン"を1つ使っておけば大丈夫」

「わかった…無理だけはしないでね…」

過剰なほどに気遣ってくれる健気なエリスを愛おしく思いながら、メイはエリスの手を引いて丘を登る。


最高点に到達すると、北側はここまで歩いてきた草原が見渡せ、その向こうには、今立っているところとほぼ同じ高さにあるシュテルンシュタットが見えた。

北西にはかなり奥のほうに湖が見えており、

「エリ、今度はあの湖に行こうか」

「うん…あまり魔物が強くなければだけど…」

次のデートの行き先がここで決まった。

他の三方は木々に覆われて眺望不良だったため、もう少し北側の景色を眺めて、ヒーリングメディシンでメイの減った耐久力(PH)を回復させてから、2人は往路よりも大変になるかもしれない復路の一歩を踏み出した。

なお、シュテルンシュタットの南にある小高い丘"ハイリゲンヒューゲル"は敵がシュテルンシュタットに攻めてきた際、出城のような役割を果たしたという設定になっている。


復路でもメイが何度か魔物から攻撃を受けて、途中でヒーリングメディシンを使うこともあったが、エリスは魔物の攻撃をことごとくかわし、無傷でシュテルンシュタットに帰ってきた。

「今日もメイと一緒に"お外"でいろんなことができて、楽しかった…」

「わたしも…」

聖なる森の家に戻ると、2人はエクレアに見られながら、時間の許す限りイチャイチャしていた。

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