4 開店と外周デート

「いらっしゃいませ…」

エリスとメイがUSOLを始めて7日目、2人のお店"シュムックカステン"が開店。

他のユーザにも生産職のお店が新しく開店したことは知れ渡っており、早速"新規開店キャンペーン"目当てで多くの客がやってきたが、

「店員さんかわいい…」

「私、ふわふわ黒髪の妹ちゃんに…一目惚れしちゃった…」

「妹を気遣っている白髪のポニテっ子お姉ちゃん…すき…」

ほとんどの客は"姉妹"の愛らしさによって、何かに目覚めたり何かを失ったりした。


次の日(8日目)は、昨日来店した者たちからの話を聞いたのか、昨日以上の人数が押し寄せ、大量に作っておいた消費アイテムを含めて、売り物のストックはわずかになってしまった。

「エリ…明日は、お店休みにしようね…」

「うん…売り物の補充もだけど、メイも開店準備と昨日、今日で疲弊してそうに見えるから…」

「エリも、昨日と今日、知らない人と会話して疲れたでしょ…明日はどこかに出かけようか…」

「いいよ…行き先は"お姉ちゃん"に任せる…」

「うぇへへ…妹ちゃんエリ…妹ちゃんエリ…」

正確には、"シュヴェスター"の関係になったプレイヤーキャラにどちらが姉か妹か、という設定はないのだが、第三者視点からはどう見てもメイのほうが姉だと認識され、現実世界でも小柄なエリが背の高い明子に頼ることが多いので、昨日の客の会話に便乗する形でエリスが冗談半分にメイを"お姉ちゃん"と呼ぶと、その言葉はメイと明子の精神を激しく揺さぶり、彼女は現実世界における数分間正気を失った。


頭の中が"妹ちゃんエリス"で満たされていた状態から我に返ったメイは、真剣な顔でエリスに言葉をかける。

「エリ…"お姉ちゃん"呼びはうれしいけど…ゲーム中はいろいろと危ないから…人前では絶対だめだからね…」

「わかってる…私も、人前じゃ恥ずかしくて言えないから…」

エリスが返事をした時の照れ顔にキュンとしたメイはエリスをぎゅっと抱きしめ、そのまま2人は唇を重ねた。


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9日目、エリスとメイは昨日決めた通り"シュムックカステン"をお休みにした。

店の出入口になっている扉に張られた紙を見て、明日まで休業する旨が記されていることを確認すると、この日の"前半"は主に魔物の出現情報入手を目的とした情報収集を実行。

シュテルンシュタットの外に出ても、すぐそばなら魔物は出ないが、南にある"ハイリゲンヒューゲル"まで行こうとすると、それほど強くはないが魔物との遭遇は避けられないといった情報を得て、今日は城壁沿いを散策することにした。


常に開け放たれている市門シュタットトーアを通過し、水堀に架かった橋を渡ってシュテルンシュタットの外に出る。

2人の眼前には、見渡す限り緑の草原が広がっていた。

南側の城壁にのみ付設されている水堀に沿って南西方向に進むと、素材に使える小さな花をいくつも見つけた。

エクレアのアドバイスによれば、この花々はいくら採っても数日で再び現れるそうなので遠慮なく採っていいそうだが、素材としての価値もそれなりだという。

ハイリゲンヒューゲルやもっと先にある場所を目的地として市門から出てきた者たちの一部は足を止め、小柄な女の子2人が楽しそうに花を摘む微笑ましい光景に見惚れていた。


エリスとメイがちょうどシュムックカステンの裏にあたる場所に差し掛かると、これも素材に使える"クレー"が生えていて、エリスはその中に2つ、"四つ葉のフィーアブレットリゲスクレーブラット"を見つけた。

「初めて町の外に出たデートの日に、ちょうど2人分見つけられて…うれしい」

もちろん、1つはメイにプレゼント。

「ありがとう、エリ…」

フィーアブレットリゲス・クレーブラットはゲーム内において、持っているだけでは特に何の効果も及ぼさないが、貴重な素材として扱われているため、USOでも素材として使わずにとっておくプレイヤーが多くいる。


さらに仲を深めた2人が水堀の切れ目である城壁の南西端にたどり着くと、またしてもエリスが、群生するクレーの中に"貴重な素材"を見つけてしまった。

それは、フュンフブレットリゲス・クレーブラット。


ゲーム内での効果をエリスはもちろん知らなかったが、現実世界においてエリは、知識欲旺盛な明子とともに、"四つ葉"のおまけでそれに関する言い伝えを知っていた。

「メイ、これももらって!」

「エリ、それは…わかった、それはわたしがもらう。

 大丈夫…もしそれが原因でエリに異常が発生しても、回復アイテムがあるから安心して」

「うん…メイ…だいすき…」

メイがエリスからフュンフブレットリゲス・クレーブラットを受け取ると、周りに誰もいないことを確認してから、2人は口づけを交わす。


「エリ…いつか、ゲームの中だけでなく現実世界でも、2人でいろんなところを歩き回れるように…わたし、頑張るから」

「…あーちゃん…しゅき…」

ゲーム内での状態異常は発生しなかったが、現実世界のエリは"恋の病"を悪化させたようで、そんなエリの操作によって、エリスは西門からシュテルンシュタットの城内へ戻るまで、ずっとメイに密着していた。

幸い、他のプレイヤーから2人は"とても仲の良い姉妹シュヴェスター"にしか見えないようになっていた。

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