3 はじめてをあげる

USOLのプレイ2日目、明子はエリの家でなく自宅からヴンダーライヒにやってきた。

"聖なる森"の中にある2人の家にはすでにエリスとエクレアが待っていた。

「エリ…待った?」

「ううん…今来たところ」

「本当に2人のラグは誤差の範囲ですの…エリスとメイは本当に仲良し姉妹ですの…」

「えへへ…エリ、じゃあ街に行こうか」

「うん…」

2人は家の外に出て魔法陣を起動させ、シュテルンシュタットに向かった。


シュテルンシュタットに転移した2人は、まっすぐ"商業組合ヴィルトシャフツフェアバント"の建物へ。

組合の職員に案内されたエリスの店舗は、五芒星の形をしたシュテルンシュタットの南西端に近い場所だった。

「開店準備は今日を含めて最大5日間で、その後"新規開店キャンペーン"が始まりますので、チャンスを逃さないよう気を付けてくださいね」

一通り店舗の内部と開店準備、開店後のことまで説明してエリスに"開業資金"を渡すと、職員は組合の建物へ戻っていった。


"新規開店キャンペーン"とは、新しい店舗経営者へのサポート施策の1つで、新規開店してから一定の日数が経過するか、営業日数が一定数に達するまで、販売価格に対して客側の負担が最大半額まで軽減されるというもの。

経営者である職人が素材を仕入れに行けなくなることや、逆にずっと仕入れのため休業中のままキャンペーンが続くことを避けるため、終了条件を2つ設けている。

また、開業前の準備として購入した素材や店の備品の代金は上限付きながら"開業資金"扱いとして実質負担0になるが、開業後はそういった補助がなくなる。

開業直後のキャンペーン期間中でどれだけ収入と"お得意様"を得られるかに、店舗経営の成否がかかっていた。


「早速エリと一緒にお店の準備をしたいけど、まずはエリとの、"シュテルンシュタット一周デート"を完了させたい…。

 エリは、それでいい?」

「いいよ…名義上は私のお店だけどメイのお店でもあるから、先にメイがやりたいことを済ませて、それから2人で準備しよう…」

店舗のある南西地区は行ったことのない場所だったので、エリスとメイの今日のデートはお店の前からスタートした。


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エリスとメイの"シュテルンシュタット一周デート"は3日目の途中までかかった。

3日目には幾何学模様のシンボルを掲げた教会の前を通ったが、

「今のところが、ユノさんの言っていた教会だね」

「行ってみる?」

「今日は行かない…まだデートの途中だから…」

エリスはメイとのデートを優先した。


3日間見て回った"経験"と、エクレアに聞いて教えてもらった内容をもとに、2人は素材とお店の備品を購入。

店の中が、売り物さえ揃えばいつでも開けられるような状態になったところで、エリスはメイから、

「続きは明日にして、そろそろ帰ろうか」

と声をかけられたが、

「私1人でやりたいことがあるから、メイは先に帰って」

と言葉を返した。

エリスの返事に、メイは機嫌を損ねるどころか微笑んで、

「わかった…また明日ね…」

と言ってエリスの体を抱きしめてから、店の"関係者以外立入禁止"のエリアにある、聖なる森の家の前に転移できる魔法陣に足を進める。

メイの姿が消えてから、エリスは今日買った素材をいくつか手に取った。


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USOLのプレイ4日目、聖なる森の家で、エリスはメイに銀色の小さな冠ディアデームを差し出した。

「昨日、メイが帰ってから造ったの。

 私が初めて造るものは、あーちゃんにプレゼントすると最初から決めていたから…。

 特殊な効果はないし、ゲームのアイテムとしてはほとんど価値がないけど…」

「こんな、お姫さまがつけるようなアクセサリをゲームの中だけでもわたしが…ありがとう、エリ…。

 いつもはエリの隣で、エリを支え、エリを守ることを第一に考えているけど、かわいいアクセサリをつけてエリに見てほしいという願望もあったから、エリからこんなプレゼントをもらえてとてもうれしい…」

つい"あーちゃん"と呼んでしまうくらい、メイへの想いを籠めたエリスからのプレゼント。

喜んだメイは、早速頭にディアデームを乗せる。


「いつも私を守ってくれるあーちゃんはかっこよくて凛々しいけど、かわいい姿になった"この世界"で、たまには私だけの"メイ姫様"になってほしいな…」

自分が造ったディアデームを戴いて微笑むメイを愛しく思ったエリスは、同じ背丈になったメイを抱きしめ、珍しく積極的に唇を重ねた。


USOにおいて、性的な行為はもちろんできないようにしている。

だが、キスは魔法をかけるための手段などとして性行為とは区別されており、USOLでも問題なく使用可能。

唇を重ねることも禁止はされていない。


「エリ…すき…」

「あー…私も…大好きよ…メイ…」

何度もメイと口づけを交わして、ようやく満足したエリスは、ディアデームに使わなかった素材を用いて売り物にするアイテムを作り始めた。

ディアデームを頭に乗せたままのメイもエリスのアイテム作りを手伝う。


エリスがメイに贈ったディアデームには、正確にはエリスの"想い"によって、メイが誰かに奪われたり、不思議な力によって捨てさせられたり、何らかの素材に使わされることのないよう、"どんなことがあってもメイの所持品から絶対に失われない"という、ある意味呪いに近い特殊効果が付与されていた。

エリスは意図してその効果を付与したわけではないが、メイは後でこの効果を知って、むしろ喜んでいた。

エリスとメイは準備期間として設定された5日間を余さずに使い、売り物や店の看板など、必要なものを揃え、ついに2人のお店"シュムックカステン"は開店の日を迎えた。

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