[19] 普段

 サムネ制作、残すところはカナミだ。これがないとどこのどいつが配信してんだかわかんなくて困る。ある意味、一番大事なところ。

 もう一度、沙夜作サムネを見直す。ほとんどは今映ってる感じのカナミにちょっとしたアクセサリつけたり加工してたりだけど、全身映ってたり変なポーズ決めてたり衣装が違うのまである。

「さーよー、このカナミ部分どうすりゃいいの?」

『ごめん忘れてた。カナミのイラストその他のデータは私が持ってるから渡すねー』

「しっかりしてよ。どうやって貰えばいいわけ?」

『クラウドにあげとくからあとはそっちでよろしく』

「え、クラウド? 何? 雲?」

『このクラウドは雲の方だったっけ? まあいいや。わかんないようだから直接もってくよ』

「うん、それでお願い」


 1分もたたないうちに沙夜がUSBメモリ持って現れる。ついでにちょこちょこっと挨拶してまた出てった。

 後になって思った――結局沙夜本人が来るのならそのクラウドとかいうの使って受けとるところをこっちのパソコンで沙夜がやってくれたよかったのでは?

 アホだ。次があるならそうしてもらおう。

 ともかくこれで材料は一通りそろった。あとは香波のデザインセンスを駆使して、いい感じにサムネという1枚にまとめるだけだ。

 なーんだ案外簡単じゃない。早速仕上げに取り掛かるべく画像編集ソフトを立ち上げた。


 ――難しい!

 なんかこう、頭の中で思ってたのと違う。おしゃれかつかっこいいのをさらっと作り上げて、沙夜及び視聴者連中を驚かせるつもりがどうもしっくりこない。

 フォントとか配置とか工夫してみるも凡庸でつまらない印象のサムネしかできない。細部をちょっといじったら大きく変わったようにも見えるし、何も変わってないようにも見えるし、そもそもそんな細かいところの変化になんて誰も気づかない気がしてくる。

 小さなこだわりなんてものは自己満足に過ぎず、そこにくよくよとこだわるのは無駄な時間でしかないのだろうか。判断がつかない。


 結構な間、黙ってた。香波は不意に切り出す。

「思ったこといっていい?」

『いいけど』『いきなりどうしたの?』『ちょっと怖い』

「飽きた。めんどい」

『正直な娘』『だろうけども』『見てるだけで行き詰ってたのわかる』

「sayoはよくこんなつまらん作業今までやってられたもんね」

 名前出したら本人から即返事が返ってきた。

『愛だよ』

「きも。黙ってろ」

 とは言ったもののこの作業を別に仕事もあるのにやってくれてたのは頭の下がるところ。

 いやでも向こうは曲がりなりにもプロなわけだし、多少分野は違ったとしてもそんなに大変な作業ではないのだろうか。

 いやいや沙夜に限らず他のVの人も自分でやってる人はいるという話で、となると香波が極端にサムネ作りが不得手であるという可能性が浮かび上がってきた。

 いやいやいや慣れたら楽になるかもしれんし。考えながらかちかちサムネをいじる。いじればいじるほどわけがわかんなくなってくるが。


「さよーさよー」

『ついさっき黙ってろって言ってなかった?』

「特別に解除してあげる」

『それはどうも御親切にありがとうございます。で、何の用?』

「晩御飯何?」

『逆に何食べたい』

「とんかつ」

『今日は無理』

「メニュー出せ」

『冷蔵庫見て見当つけて』

「こちとら配信中でーす」

『知ってる』


「あと聞きたいことがあるんだけどさー」

『何ー?』

「これおもしろいの?」

 作業に集中してると話すことないし、話してると作業進まないし、いや話してなくても作業進んでないけど今は。思ったより難易度高かった、作業配信。

『いやでも視聴者数増えてるよ、最初より』

「まじで? どうかしてるでしょ」

『言い方ー』


 そもそもサムネなんてそんあ見せかけに頼るのは邪道。本物は中身で勝負するべきだ。

 作るのが面倒だから言ってるだけでしょ。今の時代、巷に娯楽なんて膨大にあふれててるから、まずクリックしてもらわないと勝負に舞台にすら立てないんだよ。

 く、まともなこと言いやがって、脳内沙夜のくせに!

 もうちょっとだけ頑張ってみよう。今日作ったサムネのバージョン違いを画面に並べる。似たようなのが10個ほど並ぶ。

 視聴者にアンケートとって決めた1つ含めて3つほど選びだす。それらを拡大して並べる。いいとこどりして1つに合体してみた。


「うーん……sayo先生、いかがでしょうか?」

『ぎりぎり合格点をあげましょう。まだまだクオリティ上げる余地あるけど』

「そいつはどうも。つかれたー!」

 軽い気持ちで始めたのにずいぶんくたびれた。

「次からは全部sayoがやってよ」

『そっちの方が早いんだけど、それだといつまでたってもカナミちゃんが覚えないでしょ。今日1日だけでもそれなりに成長してるよ』

「じゃあ週に1枚は私が作るから、残りは頼んだ」

『おっけ。ひとまずそれでやってこう』

「1枚完成したし、時間もいい具合なんで、今日は終わりまーす。おつかれっしたー」


 配信切って横になる。思ったより大変だった。というか配信するだけじゃなくて、いろいろ準備があるんだなあ。今まで全部沙夜にまかせきりになってた。

 ありがたい話だ。直接感謝を伝えたりはしないけど。今更そんなことしなくても心とかそういうので伝わってるはずだ、多分おそらく。

 夕飯まではまだちょっとある。時間になったら沙夜が呼びに来るだろう。そのまま目を閉じると香波は少しだけ眠ることにした。

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